第28話 決闘の時
決闘すると決まるとヴァルゴの行動は早かった。直ぐに闘技場の予約を入れると、決闘を興行として大々的に開催したのである。
決闘当日には大勢の観客が押し寄せ、出店まで並びちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。ヴァルゴは冒険者として以外に、ショービジネスの才能もあったらしい。
「さあマディソン市の闘技場を貸切っての冒険者同士の決闘! ヴァルゴ・ハルファスVS……えーと……ヘイザ・アッシュブレードと愉快な仲間たちチームの始まりです!」
闘技場には審判以外に実況までいた。
ジャックがやり方の派手っぷりに呆れながら口を開く。
「俺たちのチーム名適当すぎやしねえです?」
「だってまだパーティー名が決まってないんでござるもん」
ヘイザ・アッシュブレードと愉快な仲間たちチームの先鋒はジャックだ。次鋒であるヘイザは欠伸をかみ殺しながらのんびりとした調子で言った。
「では選手入場! 赤コーナーからはマディソン市の英雄! ヴァルゴ・ハルファァァアアアアス!」
実況がヴァルゴの名前を言った瞬間、観客席から雷鳴のような歓声が轟いた。
余りの熱狂っぷりにキクコがビクッと肩を震わせる。
『ヴァルゴ! ヴァルゴ! ヴァルゴ! ヴァルゴ!』
観客からヴァルゴコールが絶え間なく響く。とんでもない人気っぷりだった。ここまで民衆から大人気だと、正規の手段で訴えても効果は薄かっただろう。ヘイザは決闘という解決手段を選んだ自分の判断が正しかったと改めて思った。
堂々入場してきたヴァルゴはといえば、観客たちに腕を上げて応える。
「待たせたな愛する民草共! そして刮目しろ! 未来の我が妻よ! 私の尊き強さを!」
再び爆発的な歓声が轟いた。呆れるほどのカリスマ性である。一級冒険者は新大陸では英雄で人気者だが、ここまでの人気を獲得する者は稀だろう。
「対して青コーナーからは三級冒険者ヘイザ・アッシュブレードの奴隷、ジャック!」
「……………………」
しん、と観客たちが静まり返った。
「アウェー感半端ないな」
「ま、まあブーイングされないだけマシと思いましょうよ」
肩を落とすジャックをキクコが慰める。
ヘイザは目敏く勝敗に賭けをやっているのを見つけると、
「おお! オッズが十倍になってるでござるよ! よし拙者たちに金貨十八枚かけるでござる! これで勝ったら十日間緋桜が無料でござるよ!」
アウェーにへこたれるどころか、嬉々として金儲けに励んでいた。負ける気のないヘイザにとって、これは必ず勝てる美味しい勝負だった。もしも力及ばず敗れたならその時はその時である。
「ヘイさんはマイペースですね。あと一応言っておきます。私は戦えませんからね!」
「分かってるでござるよ。お主には戦闘力は皆無でござるからな」
攻撃魔法の存在しない白魔法の使い手で、物理攻撃の術が一切ない幽霊のキクコはサポート力はあっても攻撃力はゼロだ。一対一の決闘形式では完全に戦力外である。
「というわけでキクコの分までジャックには働いてもらわねばな。ほら、いつものやるでござるよ。あそこにいるのはヴァルゴ・ハルファスなんかじゃない。お前の父親だ。そう思い込むでござる」
「う、うっす」
ヘイザに言われジャックは目を閉じて、妄想に埋没していく。
(あれはファウストあれはファウストあれはファウストあれはファウストあれはファウストあれはファウストあれはファウストあれはファウスト)
ぶつぶつと呟き、ヴァルゴの姿を脳内で憎い父へと変換していった。
ジャックが勝手にヴァルゴの事を父親にしようとしている頃、決闘前に軽いストレッチをしているヴァルゴのところへ一人の少女がやって来た。ヴァルゴの奴隷にして、ヴァルゴのパーティーの僧侶であるロレッタである。
「ヴァルゴ様、相手は三級冒険者です。死んだり後遺症が残らないよう手加減してあげてくださいね」
パーティーメンバーだからこそロレッタはヴァルゴ・ハルファスという男の実力をよく知っていた。ハルノ・クリアスカバードや七雄の殆どが死んだ今、ヴァルゴの実力は新大陸の冒険者でも五本の指に入る。こんな決闘は勝利するのが当たり前で、どう興行的に盛り上げるのかがメインだと思っていたのだ。
だがそう言われたヴァルゴは驚いた顔をする。
「なんだお前? まさか私が公衆の面前で弱い者いじめするためこんな場所を用意したと思っているのか?」
「え、でも先鋒のジャックというのは奴隷で、次に控えているヘイザという男は三級冒険者ですよ?」
「無知なお前に後学のために教えてやろう。特級という例外中の例外を除いて、冒険者の等級内での強弱が最も激しいのが三級だ。三級までは実力さえあれば、品格が最低限でもなれる。だから三級には前科があるだとか、黒い噂があるだとか、単純に素行が最悪だとかで、実力は一級二級並みって奴がそれなりにいるんだよ。あいつはきっとその類だろう」
「ヴァルゴ様は相手のヘイザ・アッシュブレードという男をご存じなんですか?」
「いいや。だがエルフの里長は相手がこの私だと知った上で、あの連中を送り込んできた。そこは考慮するべきだろう」
恋愛になると途轍もない大馬鹿になってしまうが、冒険者としてのヴァルゴは極めて高い知力を持っていた。
そしてこの決闘のトロフィーでもあるクェリスは、ヴァルゴの用意した特等席に座らされて闘技場の様子を観覧させられていた。
その隣に控えるのはサミュエルという名のクェリスの護衛兼監視の戦士だった。ロレッタと同じヴァルゴの奴隷でパーティーのメンバーである。サミュエルは一番の古株なのでヴァルゴの最側近にして懐刀でもあった。
「な? 見ろよヴァルゴ様の人気ぶりを。実力もあって人気もあって、由緒正しい伯爵家の三男坊! おまけに美形だ! なんの不満があるよ。求婚OKしちまえって」
「例えこの街の人間全てに慕われる英雄で、彼が私のことを強く愛していようと、私はあの男が嫌いです」
主人のために必死に良いところをアピールするサミュエルだったが、クェリスの冷然とした態度に撃沈する。だが主人への忠誠のためサミュエルは食い下がった。
「た、確かにヴァルゴ様のやり方は乱暴だったと思うけど、ヴァルゴ様ほどの優良物件なんてそうはいないぜ?」
「この世の女性は全て自分に惚れるべき、だと素面で思ってるナルシストなところがたまらなく嫌いです。触れただけで蕁麻疹が出るほど嫌いです」
「今は嫌いでも時間をかければ……」
「例え一兆年一緒に過ごそうとも、私は好きな相手を拉致監禁する人間は大嫌いです。百歩譲って私が振った後で、正攻法で私を振り向かせようとしていたら、もしかしたらそういう感情が芽生えた可能性が1%くらいはあったかもしれませんね。まあ直後の行動が拉致監禁だったので完全に0になりましたが」
「ど、どうしても?」
「貴方はゴキブリと一年間同じ部屋で過ごしたら、愛が芽生えますか? 私は芽生えませんね」
(駄目だこりゃ)
決闘の勝敗云々ではなく、もっと根本的なところで主人の勝ち目がゼロなことをサミュエルは理解せざるをえなかった。そして悪いのは100%主人のヴァルゴなので、反論する術を持たなかった。
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