第27話 メンヘラ冒険者
ヴァルゴ・ハルファスの屋敷に着いて事情を話すと、あっさりと中へ通された。まず門前払いを喰らうだろうと思っていたので拍子抜けである。
屋敷の主人のヴァルゴは一級冒険者だけあってガッチリとした体つきをしていた。ムーンによればヴァルゴは黒属性の魔法と肉弾戦で戦う魔法戦士らしい。
「それで、我が屋敷にわざわざ訪ねてきたのはどういう用件だ?」
優雅に紅茶を飲みながらヴァルゴが言う。ヘイザもメイドが淹れた紅茶を啜りながら答えた。
「単刀直入に言うと、お主が攫ったエルフを返してもらいたいでござる」
「クェリスを返せだと?」
用件を説明するとヴァルゴは紅茶を飲む手を止める。
「そうです! クェリスさんは貴方のプロポーズを断ったんでしょう! なのに無理やり拉致して結婚なんて酷いですよ!」
「心外だな。私は無理に結婚を強いるつもりはない。嫌がる人間を犯すなど、貴族以前に人としてやってはならぬことだ」
「拉致監禁してんじゃねえか! そっちも人としてやっちゃいけねえことだろ!」
ジャックが正論パンチをかますが、ヴァルゴはどこ吹く風だ。
「違う。少々強引に我が家に客人として招き、交流を深めているだけだ」
心の底からそう思っているのか、まったく恥じ入る事なく堂々と言い放った。
これだから自分の世界に生きている奴は面倒臭い、とヘイザは心の中で愚痴る。
「拉致は少々強引ってレベルじゃありません! 交流したいなら自分でエルフの里へ通うとかすればいいでしょう!」
キクコが更なる正論パンチをかますが、これにもヴァルゴは動じない。それどころか咎めるような表情で、
「お前は馬鹿か? 一級冒険者にして貴族たる私が、女の尻を追いかけて、遠いエルフの里へ通い続けたら、魔物の犠牲になる民百姓が増えるだろうが!」
「は、はぁ……」
「貴族ではない者がノーブル・オブリゲーションを知らぬのは仕方がないが、弱きを守るという冒険者の使命すら知らぬのは問題だな! お前も冒険者なら心構えから学べ!」
「なんで私が怒られてるんですか!? おかしいでしょう!」
一級冒険者の高潔な志についての説教も、言っているのが拉致監禁犯だと思うと台無しである。それはそれとしてこの説教も本心で言っているのだろう。一応一級冒険者として認められる人格は備えているらしい。
「アンタのその心構えそのものは立派さ! でも俺たちが問題にしてるのはアンタがクェリスさんを攫って、監禁してることなんだよ! 論点をすり替えるんじゃねえ! クェリスを返せ!」
だがこんな詭弁に騙されるほどヘイザ達は馬鹿ではない。ジャックがこれまた正論で反論する。
「お前はなにも分かっていない。よいか? 私と交流する時間が増えれば、クェリスは私の魅力に気付き、惚れるだろう? そしたら私がクェリスと結婚するだろう? 問題などなにもないではないか」
「どこまでポジティブなんだ! クェリスがアンタに惚れること前提かよ!」
「当たり前だろうが。私に惚れない女など存在しないからな!」
ヴァルゴは自信満々に言い放った。
一級冒険者になるほどの名声と実力に加えて、ヴァルゴは顔立ちも見事な美男っぷりである。更には由緒ある伯爵家の三男坊で大金持ちときた。女に苦労したことは一度もなかっただろう。
「などと言っているでござるが、お主はどうなのでござるか、クェリス?」
「え?」
ジャックとキクコが振り返ると、ドアの隙間からクェリスが覗いていた。その両隣には腕利きの戦士が二人いた。護衛兼監視だろう。
盗み聞きを気付かれたクェリスは諦めて部屋に入ってくる。ヴァルゴは喜色満面に「なんだ、コソコソしないでも最初から入ってくれば良かったのに!」と出迎えた。そんなヴァルゴにクェリスはゴミを見るような目を向けた。
「拙者としても二人に愛が芽生えていたってオチなら、楽で良かったんでござるが、その顔じゃどうも望み薄でござるな」
「ええ。これの妻になるくらいなら、私は自分で首斬って死にます」
ありったけの殺意を込めてヴァルゴに言い放つ。キクコは目をジト目でヴェルゴに言う。
「と、言ってますけど?」
「真実の愛へ至る一歩を踏み出したばかりだからな。長い道のりを一歩ずつ歩いていくさ。二人で、な」
「一人で崖に向かって歩いて行って、落下して死んでほしい」
クェリスの態度からして、真実の愛と逆方向に盛大に踏み出しているようだった。
だがこれは面倒なことになった。
ヴァルゴ・ハルファスは一級冒険者、帝国貴族の三男坊という社会的信用の高い肩書を持っている。対して攫われたクェリスの方は亜人種たるエルフだ。真っ当な手段で訴えたとしても、果たして聞き届けられるか分からない。聞き届けられたとしても手続きにはかなりの時間がかかるだろう。
(ここはやはり”暴力”に訴えるのが手っ取り早そうだ)
嘆息しながらヘイザはそう判断した。
「お主の誇り高さはよ~~~~~~~~~く分かった。ならば手袋を投げられて、それを断るということはあるまいな?」
「ほう」
どんな正論にも聞く耳もたなかったヴァルゴが、初めてまともな反応を示す。
「決闘だ。決闘でお主が勝てば『拙者たち』はクェリスとお主の結婚に賛成するし応援しよう。だがもし『拙者たち』が勝てば、クェリスは返してもらう」
「いいだろう。それくらいの試練を超えずして、愛した女と結ばれるなどできぬからな」
「ってわけで任せたでござるよジャック」
「は?」
いきなり話を振られたジャックが間抜けに口を開ける。
「この者は『拙者たち』からの挑戦を受けたんでござる~。だからジャックが最初に戦って、負けたら拙者が出張るって寸法でござるよ。拙者は格下の三級でござるし、一級冒険者様ならそれくらいのハンディはくれるでござろうな?」
「……ふん、まあいいさ。直ぐに引きずり降ろしてやる。待っていろ」
こうしてヘイザとジャック、そしてヴァルゴ・ハルファスの決闘が決まった。
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