第24話 変わる交渉
ジュエルマインがいつものように金の勘定をしていると、急に部屋の扉が勢いよく蹴り破られた。
蹴破った張本人であるヘイザはキクコとジャックを伴い、ずかずかと我が物顔で入ってくる。
「ジュエルマインく~ん! 遊びましょでござる~!」
「き、貴様はいつぞやの等級詐欺冒険者!! なんでこの男がわしの家にいる!? 誰が通した!」
「アポはとってあると強引に押し通られてしまって……」
ジュエルマインはこの無能な衛兵をクビにすることを決めた。
ヘイザはドカッとソファーに座って、乱暴に足をテーブルの上にのせると、ヘイザとキクコとジャックは一方的に要求を始めた。
「くぉらー! この家は客人に酒の十杯二十杯は出せんのかでござる! 酒もってこーい!」
「ルシアさんの屋敷から盗んだ鎧を返してください」
「どこにあるんだ! 言え!」
「ふ、ふざけるな! わしが鎧を盗んだだと!? 証拠があるのか!」
ジュエルマインがルシア・グランドールの屋敷から家宝の鎧を盗み出すために使ったのは、腕利きの配下である。正面からの戦闘力ではトップクラスの冒険者に劣るため決闘の代理人にはしなかったが、暗殺・脅迫・窃盗・拷問・強盗殺人に見せかけた破壊工作など後ろ暗い仕事を完璧にこなしてきた。なので証拠など残っているはずがないと、ジュエルマインは怒りながらも自信をもって反論した。だが、
「証拠が必要あるのか?」
「は?」
「俺たちとアンタの距離はだいたい三歩分。その気になりゃ一息で頭をミンチにできるぜ」
ヘイザとジャックの返しは、ジュエルマインの想像を超えた乱暴なものだった。
「わ、わしを脅迫してるのか!?」
「いやいや大人の話し合いでござるよ。ルシアの態度がよほど気に入らなかったのか、それとも目の前にある貴族の地位に目がくらんだのか知らんが、鎧を盗み出したのは悪手でござったな。遺産を人質にしてもルシアはお主の求婚を受け入れぬ。だがルシアはお前が鎧を盗み出した犯人であると訴え続けるでござろう」
「馬鹿馬鹿しい。聞いておるぞ、あの小娘は足音で相手が分かったなどという証言をしているそうだな。そんなものを裁判所が採用すると思うのか? 万が一にも採用するような物好きがいたとしても、そいつの上にいる人間に、金貨を1000枚も包んでやればおしまいだ」
「別に裁判所を信じさせずともよい。この大陸では七雄は英雄でござる。その遺品を盗み出したかもしれない嫌われ者の成金がいると聞けば、暴走する連中はいくらでもいるでござろう。そういう連中全てに1000枚包んで渡していくつもりか?」
ハルノ・クリアスカバードに尽き従った七雄の中でも、生き残った者はハルノを売って自己の安寧を得たという否定意見も多い。しかし戦死した七雄は別だ。この新大陸で死亡した七雄を侮辱などしようものなら、周囲の人間から袋叩きにあうし、自警団もそれを公然と無視する。そして言うまでもなくジョッシュ・グランドールは戦死した側だ。
冷や汗を流すジュエルマインだが、成り上がり者の意地で恐怖を捻じ伏せると啖呵を切った。
「ふん! その手にはのらんぞ! わしには腕利きの護衛が何人もいる! それにこの大陸じゃ英雄だろうと、本国からしたらグランドール家はただの裏切り者だ! やりようはいくらでもあるわ!」
「そうか……分かった……。ならば仕方あるまい。キクコ、防音の魔法をはってくれ」
そう言った瞬間だった。ヘイザはジュエルマインの胸倉を掴んでから床に叩きつけると、鞘で右足の骨を砕いてから、背中を踏みつけ身動きができないようにした。
「がぁ……なにを! だ、誰か早く助け……」
ジュエルマインは衛兵達に助けを求めるが、ジャックが素早いパンチで全員を昏倒させているところだった。
「ってわけで交渉はたった今から拷問になったでござる。これからお前の指を一本ずつ切り落としていく。手の指が終われば、足の指。指がなくなれば耳、鼻、目玉。喋らせるのに不自由になるから歯は最後だ。お互いの為にもなるべく早いうちに自白することをお勧めするでござるよ」
ヘイザはとぼけた口調のまま、変わらぬ調子で言う。
サディスティックな笑みを浮かべるでもなく、まるで日常の延長かのように拷問を始めようとする態度が余りにも不気味だった。
「やめろ! こんなことが許されると思っているのか!? 例えそれで鎧を取り戻しても、わしが訴えればお前は冒険者としておしまいだ!」
「自分が英雄の遺品を盗み、結婚を強要しようとした卑劣漢であると主張してでも訴えたいならすればいい。同じ犯罪者でもお前は七雄の遺産を盗んだ卑劣漢で、拙者は卑劣漢から宝を盗み返した義侠の徒だ。再就職先にも困らんだろう。さて、ではまずは不要な左手の薬指から……」
「ま、待ってくれ!」
ジュエルマインは恐怖に折れた。
拷問が始まる前に、盗み出した鎧の置いてある場所を白状した。
こうしてヘイザ達は無事に屋敷の地下室の木箱に隠されていた『初代グランドール伯の鎧』を回収した。一応偽物である可能性を考慮して、ヘイザは色々とチェックしてみたが間違いなく本物だった。
ヘイザはジャックに鎧を持たせると、途中で乱入してきたので全員峰打ちで昏倒させた衛兵達を踏み越えながら出ていく。
「……ところでヘイさん。こんなことして、もしジュエルマインが犯人じゃなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「潔白の人間は『金貨1000枚包んでおしまいだ』などと言わん」
あの言葉を言った瞬間、ジュエルマインは自白したも同然だった。ジュエルマインがずっとすっとぼけ続けていたなら、流石のヘイザも確証が持てず強引な手段はとれなかっただろう。
「貴様ら!!」
屋敷から出ていこうとするヘイザ達を、ジュエルマインが呼び止める。
「覚えておれよ! わしを怒らせたこと後悔させてやる! 復讐してやるからな!」
「えぇ~。ちょっと痛い思いしただけで誰が殺されたというわけでもないのに大げさでござるなぁ」
振り返りもせずヘイザはのほほんと言った。
グランドール伯爵家に戻ったヘイザ達は、取り戻した家宝をルシアに返却した。目の見えないルシアは、家宝の鎧にそっと手を触れると涙を流す。
「お爺様から受け継いだ家宝を取り戻してくださりありがとうございます! この御恩は忘れません!」
「恩は忘れていいから報酬二倍にしてくれ」
「ヘイさん!」
あっけからんと要求するヘイザをキクコが窘める。
冗談でござるよ、と肩を竦めるとヘイザは踵を返すと退散していった。
「ではな。ジュエルマインもお主のことなどもはや眼中にないだろうが、念のため大事な家宝は厳重に管理しておけ」
そう、ジュエルマインが夢中なのは自分に屈辱を味わわせたヘイザである。ルシアへの嫉妬めいた感情など、ヘイザへの憎悪の前には吹き飛んでしまっているだろう。
そこでジャックはヘイザがグランドール家の家宝を取り戻すために、どうしてああいう乱暴な手段を敢えてとったのかが分かったような気がした。
「なあキクコちゃん。もしかしてご主人が、交渉から脅迫すっ飛ばしてえぐい拷問したのって……」
「野暮ですよ。言葉にしないでおきましょう」
「それもそうだな。立つ鳥跡を濁さずってね」
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