第22話 昇格
今日ヘイザ達のパーティーで嬉しいニュースがあった。
キクコが昇格したのである。そのことをヘイザ達は冒険者ギルドでジョンソンから聞かされた。
「ヘイさん! ジャックさん! やりました! 七級冒険者に昇格できました!」
飛び跳ねるようにキクコが言うとジャックが「おめでとう」と言いながら疑問をぶつけた。
「キクコちゃんが冒険者になってから、あんまり日がたってないけど昇格ってそう簡単にできるもんなのか?」
「ある程度、安定して依頼をこなしていれば九級から七級までは簡単に昇格できますよ。冒険者の等級は実力と信用の総合評価なので七級から上へは難度の高い依頼を幾つかこなしたくらいじゃ上がりませんがね」
逆に言えば七級から六級に昇格すれば、冒険者ギルドにおいて一人前と認められたという証明だ。世知辛い話をすると冒険者がローンを組むなら、六級冒険者が最低ラインである。七級以下は絶対に即金でなければ相手にされない。
「昇格といえばジョンソン。拙者もそろそろ二級冒険者に昇格しちゃってもいい頃合いなのではござらんか?」
「…二級以上の冒険者には相応の品格も求められますので、なんとも」
言葉を濁すジョンソン。一応ヘイザもパーティーの仲間が立派に成長したマイケル達から、まだまだ頼りないジャックとキクコになったことで、自分でも働く事が多くなり最底辺だった信用は徐々に回復していっていた。そのため以前の昇格論外からギリギリで候補に引っかかるくらいにはなっていたのだ。
「それで今日も依頼を受けられていきますか?」
「おう。受けられるもので最も高額なのはどれでござるか?」
「それでしたらこれになりますね」
ジョンソンが一枚の依頼書を見せてきた。ヘイザとキクコが依頼書を覗き込む。
依頼内容は盗まれた祖父の形見を取り返して欲しいというものだった。しかも相手は大物らしく無茶ができて腕の立つ冒険者にお願いしたいとある。
「ほう、報酬も悪くないでござるな」
「やりましょうヘイさん! 形見は大事ですよ!」
「ああ…………ん?」
だがそこでヘイザは依頼書にある依頼人の名前を見た途端、硬直してしまった。ヘイザは冷静になるよう努めながらジョンソンに訊ねる。
「なあジョンソンよ。この依頼人の名前でござるが名前がルシア・グランドールとなっているのだが、よもや七雄の一人であるジョッシュ・グランドールの血縁者だったりするのでござるか?」
「はい、その通りです。依頼人は故ジョッシュ・グランドール氏の孫娘となっております」
「ま、マジっすか!?」
とんでもないビッグネームからの依頼人だったことにジャックが仰天する。一方でヘイザは目を金貨に、キクコは目を冒険にしていた。
「これは金の匂いがプンプンしてきたでござるな!」
「これは冒険の匂いがプンプンしてきましたね!」
ヘイザとキクコは異なる動機から、目を輝かせながら言った。
七雄の一人、ジョッシュ・グランドールの孫娘が住む家は思ったよりも小ぢんまりとしていた。勿論庶民の家と比べれば十分に豪邸と呼べるのであるが、救国の英雄の家としては拍子抜けである。
(失礼だけど糞オヤジの家の方がもっと立派だったな)
ジャックはそう口に出したら失礼なことを考えた。
「ヘイザ・アッシュブレードの一党の皆さまですね。よくお越しくださいました。どうぞこちらへ」
屋敷につくとメイドに出迎えられ、中へ案内される。
そして三人を待っていたのは、
「よくお越しくださいました。私が依頼人のルシア・グランドールです」
手に視覚障碍者用の白杖を持って、椅子に座る可憐な少女だった。
破壊僧兵ジョッシュ・グランドール。その物騒な渾名が示す通りジョッシュは、肉弾戦で戦う格闘家と白魔法による支援を担当する僧侶を兼任する僧兵だ。最前線で猛獣のように暴れまわりながら、自前の白魔法で回復する様は、まるで吸血鬼のようだと帝国人に恐れられたという。そんなことをジャックはここに来るまでに予習していた。
チラッと部屋の壁を見ると、ジョッシュ・グランドールの肖像画があった。身長は軽く2mを超える筋肉粒々の大男がいた。
「(に、似てないっすねご主人)」
「(まあ親と子ならまだしも、祖父と孫でござるからな)」
ひそひそと小声で囁く二人に対して、七級に昇格してやる気十分のキクコが挨拶を始めた。
「初めましてルシアさん。キクコです。早速ですがお爺さんの遺品を盗まれたということでしたよね」
「はい。盗んだ犯人も分かっていますが、厄介な相手なので腕利きの冒険者さんのお力を借りたいと思い、依頼しました」
「ふっ、腕利きの冒険者って言われちまったでござる。鼻が高い」
「……その相手っていうのは誰なんですか?」
勝手に胸を張っているヘイザを余所に、ジャックが質問する。
「間違いありません。私は聞いていました。祖父の遺品を盗んでいったのは、ジュエルマインという男の手下の『足音』でした!」
ジュエルマインという名前を聞いてヘイザの眉がピクと動く。
ジャックの方は、盗んだ相手が分かっていて安心したように笑顔を見せながら、
「なんだ。盗んだ現場を目撃してるなら、流石に裁判に訴えたほうが…………いや、足音?」
ルシアの証言の中にあるとんでもない爆弾に遅れて気付いた。
「声ならともかく足音で人を選別するなんてできるんですか!?」
「いや音で場所を特定することはできても、流石に個人の特定までは、無理でござるなぁ」
「嘘ではありません、本当なんです信じてください!」
ルシアは必死に訴えるが、信じてくれと言われても初対面の相手を根拠もなく信じる訳にはいかない。そこでヘイザが案を出した。
「分かった。ではお主の足音で個人を特定できるか否かについて、拙者たちが試してみよう。街で適当に十人、十五人ほど集めてこの部屋に一人ずつ入室させる。そのうち一人に拙者かジャックのどちらかが混ざる。それを三回連続で当ててみせれば、お主の証言を信じよう」
「……構いません。お願いします」
ルシアは静かに、けれど確固たる自信を滲ませながら頷く。
その後、ルシアは見事に三連続で正解を言い当てた。
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