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第20話  依頼は確かに引き受けた

 それから軽い自己紹介を終えた。

 里長の名前はムーンで、リーダー格の弓使いの男はネイリス、そして刀を持っていた小柄な少女はクェリスというらしい。ネイリスはそれなりに礼儀正しく自己紹介してきたが、クェリスという少女は警戒心をありありと滲ませながらのものだった。

 そうして里長の家に通されたヘイザ達は、自分達が受けた依頼の内容や、魔物を使った経過観察などについて全て話した。


「成程のう。高品質なエメラルドが発見された山で謎の体調不良か」


「はい。それでエルフの偉い人ならなにか知っているんじゃないかと思って、それで訪ねてきたんです」


 キクコが言うと、里長のムーンは原因に思い当たるものがあったのか渋い顔をする。ジャックの中でベルグランとの別れ際に大きくなった彼への不信感が、更に大きくなる予感がした。


「……お主の言う鉱山とやらは、確かダークエルフの隠れ里があったはずじゃ」


「えーとエルフが白魔法を得意とするのに対して、ダークエルフは黒魔法を得意とするんでしたっけ」


 ジャックが実家で得てしまった知識を引っ張り出しながら言う。


「それは帝国の者の呼び方じゃ。わしらエルフは白と黒ではなく光と闇と呼称しておる」


 人間は白と黒の陰陽二属性か、火水土風の元素四属性のどちらかしか持たない。陰陽二属性のいずれかの属性の者は、元素魔法を使う事はできないしその逆も然りだ。しかしエルフは生まれながら全員が白属性(彼等に言うところの光属性)を持って生まれ、それに加えて元素四属性のいずれかの属性を持っている。これがエルフが人間と比べ魔法に優れていると称される最大の理由の一つだ。


「…………この鉱山に亜人の類は住んでないとなっているでござるが?」


「ダークエルフは我々エルフとも獣人とも、そして人間たちとも距離を置いた一族じゃ。この里でもあそこがダークエルフの隠れ里ということはわししか知らぬこと。だとすれば『あの山には最初からダークエルフなど住んでいなかった』ということにするのは容易かろう」


「まさかそれって、ダークエルフの隠れ里を焼き払って皆殺しにしたってことか!?」


「方法までは分からん。炎を使ったか、多勢で潰したか、或いは毒か。だが皆殺しにしたというのはそうであろうな」


 だとすれば鉱山主や鉱員達が謎の病で苦しめられているのは、毒ではなくダークエルフ達が山にかけた呪いなのだろう。黒属性は呪詛に特化した属性だ。その中には自分の死を発動条件にして対象を呪うものもある。皆殺しにされたダークエルフ全員が命を使って呪いを残せば、鉱山を踏み入れた人間を呪殺する呪いの山に変えるくらいは不可能ではない。


「…………――――外道め」


 同席して話を聞いていたクェリスが立ち上がる。


「どこへ行く?」


「仇を」


 エルフとダークエルフは特別交流が深い訳ではないが、同じエルフということで互いに同族意識はある。それが鉱山の独占の為に皆殺しにされたと聞いてクェリスからは殺意が滲み出ていた。


「無用だ。仇討ちは、彼らの怨念が自ら果たすじゃろう」


「……!」


 だがムーンが冷徹に言うと。そのまま腰を下ろした。


「ふむ。それじゃまあ拙者たちはこの辺で失礼するでござるよ」


「解呪の方法について聞いていかんのか?」


「拙者たちの受けた依頼は原因の究明であって、解決ではないでござる」


 なんの後ろめたさもなく笑顔で言うヘイザに、ジャックはぞくりとした。




 それからエルフの里を出たヘイザ達は、報告のため依頼人であるベルグマンの下へ戻った。ヘイザ達がエルフの里へ行っている間に病気――――いや、呪いが進行していたらしく顔色が更に悪くなっていた。


「ハァハァ……よ、良かった冒険者様……! ど、どんどん具合が悪くなっていって……死人もばたばた……早く、なんとかして……」


「朗報でござるよ依頼人殿! 具合が悪くなる原因が分かった! お主らが皆殺しにしたダークエルフの呪いでござる!」


「な、なんだって!? くそっ、あいつら……俺の買った土地に勝手に住んでた癖に、呪いなんて残しやがって……! 冒険者様! 早く呪いをなんとかしてください!」


 もうベルグマンにはダークエルフを殺したことを隠すほどの余力すらないようだった。あっさりダークエルフを虐殺したことを白状する。


「悪いがそこから先は別料金でござる。冒険者ギルドに改めて依頼するといい」


 ベルグマンの元々真っ青だった顔が更に真っ青になる。これから改めて冒険者ギルドに依頼し直していたら、その頃には呪いの進行で全滅していることだろう。


「そんな、待って! 金貨十枚! いや百枚出すから!!」


「金貨百枚で鉱山にかかった呪いを解呪する。それが依頼でござるな?」


「そうだ! 即金で払うからなんとかしてくれ!」


「分かった分かった。案ずるな、もし失敗したら全額返してやるでござる。拙者らは信用第一の冒険者でござるからな!」


「あ、ありがとうございます!」


 天使のように微笑むヘイザに、ベルグマンは敬虔な信徒のように跪いた。

 ジャックはほんの少しだけベルグマンに同情した。




「気になって後をついてきていれば、結局は金で転ぶのね」


 ヘイザ達が鉱山の事務所を出て来るや否や、クェリスが刀を突きつけた。その顔にはヘイザ達への怒りと失望がありありと浮かんでいる。

 彼女の誤解を解くためにジャックが口を開いた。


「クェリスさん。俺たちは確かに山の呪いを解呪しろって依頼を受けたよ。でもそれだけなんだ」


「どういうことですか?」


「鉱員達の命を救え、と依頼されたわけではないということでござる。それにいつまでに解呪しろと期限が定められたわけではない」


 クェリスの疑問にヘイザが続けた。


「あれだけの呪いですから、解呪するのに二、三か月くらいはかかるかもしれませんね。もしかしたら一年くらいかかっちゃうかも」


 ジャック、ヘイザ、キクコにそう言われてクェリスも意図を察したのだろう。彼女は初めてヘイザ達の前で笑みを浮かべた。


「……金貨五十枚。ダークエルフの隠れ里の皆を弔うのに、それだけあれば十分でしょう」


「うむ。ではもう一度エルフの里へ向かうとしようか。道中、魔物に襲われるかもしれんからゆっくりとな」


 それからヘイザ達一行が協力を仰いだエルフ達によって、ゆっくり時間をかけて鉱山に残るダークエルフの呪いは解呪された。

 その後、鉱員を全滅させた不吉な山として忌避されるようになった鉱山を安値で買い叩いたのは、近くのエルフの里の里長であったという。

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― 新着の感想 ―
この話は割と釈然としないんだよねー…
嘘は言ってないな よし
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