第18話 鉱山主への疑念
今回ヘイザ達が受けた依頼というのは、鉱山の調査だった。なんでもある鉱山からエメラルドが発見されたのだが、それ以来鉱山関係者から体調不良者が続出するようになり、新たに人を雇おうにも気味悪がって誰も引き受けてくれず、廃坑の危機に陥っているとのことである。
ヘイザ達が鉱山に到着すると、鉱山主が自ら出迎えてきた。鉱山主はベルグマンという名前の四十歳程の中年男性だった。
「頼む! 冒険者様! あの鉱山は俺の財産の殆どを費やして買い取ったんだ! もし廃坑なんてことになったら、俺は破滅だ! だからどうか原因を突き止めてくれ!」
ベルグマンが跪くような勢いで頭を下げて懇願してくる。よっぽど崖っぷちに追い詰められているらしく、汗がだらだらと流れている。
ヘイザはそんなベルグマンの両肩に手を置いて口を開く。
「任せるでござるよ!」
「お、お願いします!」
自信満々な様子のヘイザにベルグマンは安どの吐息を漏らした。
「じゃあ早速、鉱山に向かいましょう!」
「偵察とサポートなら任せてください!」
「お主らは何を言っているんでござるか?」
「え?」
「拙者がなんのために道中でオークやらゴブリンやらを生け捕りにしてきたと思っている。おい鉱山主よ、ここが鉱山なら土属性の魔法を使える者の一人や二人はいるでござろう。少し手を借りるぞ」
「そ、それは構いませんが……」
そうしてヘイザは鉱員でもある土属性の魔法を使える者を連れて、生け捕りにしたモンスターを置いてきた場所へ向かった。
三十分後。鉱山の事務所の近くに屋根付きの牢屋が三つ並んでいた。
牢屋に閉じ込められているのはオークの子供、ゴブリン、ケルベロスの子供の三体だった。なお最初にヘイザが捕まえたはぐれオークについては「子供のオークがいるからこいつはいらんでござる」と言って道中で殺処分していた。
「捕まえた魔物を牢屋に入れて、どうするんですか?」
「それはこうするでござる」
「ヘイさん!? なんなんですかその恰好!!」
いつも着流しを着ているヘイザの服装は一変していた。
全身をゴム製の防護服に包み、防毒マスクをつけたフル装備である。
「昔、帝国が開発した毒ガス兵器に対抗するため東方の帝国が開発した装備でな。毒ガス兵器の使用が国際条約で禁止された後は、この新大陸で毒性の強い魔物と戦う装備として流用されているんでござるよ。それよりキクコはともかく、ジャックは離れていろ」
そう言ってヘイザは袋に入ったエメラルドをロングトングで掴むと、一個ずつ牢屋の中に置いていった。
「モルモットの牢屋にエメラルドを一つずつ置いて、あとはのんびり経過観察でござるなぁ。モルモットの体調の変化で、エメラルドに毒素があるかどうかが分かるでござる」
驚くほどちゃんとしたやり方だった。
こういう手際の良さを見ると、ヘイザ・アッシュブレードという人は、冒険者としては本当に優秀な人なんだろうとジャックはしみじみと思う。それはそれとして普段の素行は最悪だが。
「さ。それじゃ拙者は一カ月くらいここでのんびりやってるでござるから、ジャックは七級以下の魔物退治の依頼でも受けてきて出稼ぎしてこいでござるよ。あ、キクコに読み書きを教わるのを忘れずにな!」
「休む間もねぇよ……」
だがまともに読み書きのできないジャックに、魔物の経過観察ができるはずもないので渋々と出稼ぎに出発した。
そうして一か月後。
鉱山の事務所へ戻って来たジャックとキクコは、ヘイザから経過観察の報告を聞いた。
「それであれから魔物たちはどうなったんですか?」
「どのモルモットも異常は出なかったでござる。つまり鉱物そのものに、異常はないということでござるな」
「つまり異常は山にあるってことですか?」
「……その可能性もあるでござろう」
キクコの問いかけに何か他に思うところがあるのか、含みを持たせたようにヘイザが言った。
「ちなみに体調不良っていうのは、酷いものなんですか?」
「幸い今のところ死人は出てないけど、高熱も咳も酷くなる一方で、どんな薬を飲んでも治る気配がないんだよ」
そう言ったのは鉱山主のベルグマンだった。ジャックが一月前に会った時の彼はまだ平気そうだったが、今の彼は顔は赤く度々咳をしていて明らかに体調が悪そうだった。
「山そのものに毒素が渦巻いているのか、なんらかの呪いがあるのか。拙者には分からぬが……なら分かりそうな者に聞くしかないでござるな」
「そんな人がいるんですか?」
「確かこのあたりにエルフの里があったはずだ。数百年前に移住してきた人間より、遥か前からこの大陸に住んでいた彼らなら心当たりがあるかもしれん」
エルフと聞くと何故か急にベルグマンが動揺し始めた。
「え、エルフですか……! 一部の人間には高貴な種族と崇める物好きもいるそうですが、所詮は野蛮な先住民ですよ。近づかないほうが……」
「悪いが依頼人が冒険者に要求できるのは依頼の達成であって、依頼達成のやり方にはノータッチでござるよ。どうしてもエルフに関わらせたくないのなら、事前に依頼書に『ただしエルフの助力を得る事を禁ずる』とでも書いておくのだったな」
「むっ……」
正論で言い負かされてベルグマンは黙り込んでしまった。
エルフに対するナチュラルに下に見る差別発言といい、ジャックの中で少しだけベルグマンという人間を信用していいのかという疑念が湧き上がって来た。
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