第15話 そういうことになった
結論を言えば、ヘイザの練炭による一酸化炭素中毒での皆殺し作戦は失敗した。三人組のリーダーであるテッシンが、下っ端に持ち込ませていたカナリアが中毒死するのを見るや素早く指示を出したからである。
「どうやら入口から入ってきた敵さんはガス攻撃を仕掛けてきたようだ。プリシラ、浄化を頼むぞ」
「はいです。アエラム・ピュリフィカーレ《大気よ、癒えろ》」
そして三人組の中の一人、プリシラが白魔法使いの僧侶であったことも彼らに幸いした。空気浄化魔法により一酸化炭素ガスを完全に無効化してしまったのである。その様子を前回の反省を踏まえて、気配を押し殺していたキクコはしっかりと目撃していた。
そのままキクコはヘイザの下へ戻って、作戦失敗を報告する。
「ヘイさん。盗掘団は無事みたいでした。どうやらナンバーツーっぽい女の人が僧侶だったみたいです」
「どうするんだご主人?」
「ジャック、練炭はまだあるか?」
「あるけど、僧侶がいるんじゃ通用しないんじゃないのか?」
「よし、ちょっくら行ってくる。ジャックは練炭二発目の用意をしておくでござるよ」
ジャックの疑問に答えず指示だけ伝えると、ヘイザは腰にランプを下げて洞窟の奥へと疾走していく。驚くべきことに足場の悪い洞窟内を走っているのに、足音は殆ど聞こえなかった。
一方、用心のため持ち込んでいたカナリアに命を救われた三人組はといえば、殺気だっていた。後一歩で殺されかけたのだからそれも当然であろう。特に三人組の下っ端は怒りと恐怖で顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「いきなりガス攻撃なんて完全に俺らを殺しに来てますよボス! どうするんですか!?」
「落ち着け。敵がいるって分かったなら話は早ぇ。こっちから出向いて殺すまでだ」
下っ端は兎も角、テッシンもプリシラもあの独立戦争に参加して、帝国軍と戦った生き残りである。そんじょそこらの冒険者相手に負けはしないという自負があった。しかしこれに異を唱えたのは僧侶兼メンバーの参謀役のプリシラだった。
「待って下さいテッシン。それなら死んだふりをして待ち構えるというのはどうでしょう?」
「なるほど。俺たち全員中毒死したと見せかけて油断したところを、むくりと起き上がってズドンか。悪くねえ。その手で――――」
テッシンがプリシラの提案に乗ろうとした直後だった。
「――――ッ!」
テッシンが話し声に紛れてしまうほんの微かな足音を聞いたかと思うと、一人の侍が飛び出してきた。侍の目はテッシンや下っ端など目もくれず、僧侶であるプリシラを捉えていた。そうして侍の刃がプリシラの首へ放たれる直前、テッシンは反射的に叫んでいた。
「降伏する!! やめてくれ!!」
「ほう」
素早く刀を返してプリシラに峰打ちした侍は、そのまま下っ端を蹴り飛ばすと、刃の切っ先をテッシンの首筋に突きつける。
生唾を呑み込みながら、テッシンは持っていた武器を落とした。
(実力の桁が、違い過ぎる……)
場合によっては降伏した後、隙を見て不意打ちするつもりだったテッシンだったが、そんな気は雲散霧消していた。
不意打ちで龍を殺せると思いあがるほど、馬鹿ではなかった。
「どうやらお主は話が早そうでござるな。取り敢えず縄でそこの二人を縛るでござる。少しでも妙な行動をとれば首と胴は泣き別れだ」
「……ああ、分かってるよ。お前も話が分かるやつで良かったぜ」
それは本心からだった。
この侍がこちらを殺す気なら、交渉の余地なく問答無用で皆殺しにされていただろう。そういう意味でテッシンにはまだツキがあった。
大声で叫ぶヘイザの声に呼ばれて、ジャックとキクコが奥へ潜ると、そこには三人を制圧したヘイザが待っていた。
「一人で三人を制圧しちゃうなんて、普段怠けているだけでやっぱ凄いんですねご主人」
「もっと褒めていいでござるよ」
これでいつも頼りになればな、とジャックは息を吐いた。
尤もヘイザが常に頼りになるのであれば、デイリー・ペースのマイケル達はヘイザを追放することはなかっただろうし、ヘイザがジャックを購入することもなかっただろう。
「それで貴方達はなんなんですか?」
縛られている三人組にキクコが言うと、ボスのテッシンが口を開く。
「……俺達は元風林火山……ハルノ・クリアスカバードの部下だよ」
「といっても私とテッシンは当時下っ端に過ぎず、彼に至っては単なる風林火山ファンですけどね」
縛られながらも堂々としているテッシンとプリシラに対して、下っ端の男は恐怖で今にもちびりそうになっていた。どうやら二人の言っている事は本当らしい。
「で、その風林火山の元メンバーが、ここで何をしているんでござる?」
「嘗てのハルノ様が成し遂げられなかった真の独立を勝ち取るため、七雄の遺産が眠っていると噂のあるこの洞窟にアタックしたんです」
「え、盗掘者じゃないのか?」
ジャックの問いかけに、テッシンは心外だと眉をひそめた。
「盗掘? いずれはこの大陸にデカい花火を打ち上げてやる予定だが、まだ犯罪者になった覚えはねえぜ! お前らこそ野盗かなにかじゃねえのか?」
「いや、ここ私有地の洞窟なんだけど。つまり不法侵入……」
「うるせぇ! 前に俺達が下見に来た時はあんなふざけた看板は立ってなかったんだよ!」
「だいたいそうやって未開拓の土地を、勝手に切り売りするから、原住民のエルフや獣人との争いが絶えなかったのですよ」
「そうだそうだ! どうせこの洞窟を買ったのも本国の奴か成金だろうが!」
三人は新大陸の政治に対しての不平不満をこぞって叫んだ。反乱軍の中核を担っていた風林火山はとうに解散したというのに、未だに一介の冒険者にも戻らずこんな活動しているだけあって反骨精神は旺盛らしかった。
「ま、なんでもいいでござるが賞金首でないなら、身ぐるみはがしてサヨナラでいいでござるな」
「突き出したりとかはしないでいいんですか、ご主人?」
「めんどい、金にならん、管轄外」
あっさりとヘイザは却下する。冒険者は慈善事業ではないのだ。金にならないことをやる義務はない。
「あ、それで七雄の遺産ってなんなんですか?」
お宝だとか冒険の匂いがするものが大好物のキクコが、興味津々といった様子で尋ねる。
「そのまんまさ。北の村にこのあたりの洞窟に七雄の一人、ヴァシリッサ・ウィロウが遺産を隠したって言い伝えがあったんだ。このあたりの洞窟といえばここくらいだし、もしやと思ってな」
「人形使いヴァシリッサ・ウィロウが残したとされる遺産……同じ魔法使いの端くれとして興味があったのですが、残念です」
三人から話を聞き終わったヘイザは暫く腕を組んで考えると、キクコとジャックへ振り返る。その目は金銭欲の発露か金貨の形になっていた。
「ふむふむ。……確かキクコ。ジョンソンは勝手に採掘するなとは言ったが、中にある土地所有者すら知らんお宝を持っていくことは『採掘』とは言わんな?」
「そうなんですか?」
「そうなんでござる!」
そういうことになった。
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