第47話:みんなの光が、集まってくる
セランがゆっくりと剣を掲げた。その瞬間、館の中庭を支配していた空気が一変する。
彼が放つのは、物理的な剣撃ではない。縁結び師の知識を歪め、研ぎ澄ませた「断絶」の権能。
「縁は痛みだ。……ならば、すべてを断ち切れば、世界は静寂を得る」
セランが剣を振り抜くと、無数の漆黒の刃がレインたちを襲った。それは肉体を切り裂くものではなく、レインが感知している「縁の光」を直接食い破る、負の波動だった。
周囲の空間が歪み、レインの視界に映る美しい光の織物が、次々と黒い穴に飲み込まれていく。
「……っ、あああ!」
レインは膝をつきそうになった。一本、また一本と、遠く離れた人々との繋がりが悲鳴を上げ、消えそうになる。
「レイン、しっかりして!」
リアが駆け寄り、レインの肩を必死に支える。彼女の琥珀色の瞳だけが、この漆黒の嵐の中でも濁ることなく輝いていた。
(……消えない。……いえ、消させない)
レインは奥歯を噛み締め、感知能力を限界を超えて広げた。
断ち切られようとしている縁の先。そこには、旅の中で出会った人々がいた。
あの商家の主人が。
再会した父娘が。
小国の人々が。
彼らは今、この戦いを知る由もない。けれど、レインの感知能力は捉えていた。彼らが日常の中で、レインとの出会いを思い出し、誰かと手を取り合い、縁を大切に守ろうとしている意志を。
人々が自らの意志で「手放さない」縁は、セランの術をもってしても、完全には断ち切れない。
「……集まってくる。……みんなの、光が」
レインの身体から、黄金色の奔流が溢れ出した。
それは彼一人の魔力ではない。旅の道中で結び直してきた、数千、数万の「小さな縁」が束ねられた、巨大な肯定の光。
レインが右手を突き出した。
漆黒の断絶を、黄金の光が押し返していく。旅の記憶、人々の笑顔、リアの温もり。それらすべてが一本の太い「絆」となり、セランの歪んだ世界を真っ向から貫いた。
眩い閃光。
館全体が光に包まれ、セランの放った断絶の嵐が、霧散していくのをレインは見届けた。
「……これほどの、力が……。お前一人のものというのか」
セランが初めて、大きく後退した。その顔には、隠しきれない動揺が走っている。
「……私一人の力ではありません」
レインは荒い息を整え、真っ直ぐにセランを見据えた。
「繋いできたすべての人々が、縁を信じているからこそ生まれた光です。……縁は、あなたが思うほど、弱くはありません」
セランの杖が、パキリと乾いた音を立てて折れた。




