↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/50

第41話:支配という縁は、崩れた

 セランの根拠地を囲む、重厚な石造りの外壁。その唯一の登城路を、鋼の鎧に身を固めた数十人の精鋭兵が完全に封鎖していた。

 これまでの追手とは桁違いの練度。抜き放たれた剣の列が、夕日を反射して血のような赤色に染まっている。


「……レイン、これ、真っ向からは無理だよ」

 リアが腰の煙幕に手をかけ、唇を噛む。だが、レインは一歩も引かなかった。


「……いえ。見えます。彼らの『中心』が」


 レインは感知能力を、個人の枠を超えて「集団」そのものへと広げた。

 かつての彼なら、一人ひとりの糸を辿るのが精一杯だった。だが今は違う。旅で繋いできた数多の縁が、彼の視座を一段高い場所へと押し上げていた。


 兵たちの間に漂う、冷徹な規律。だが、その深層には、セランへの「忠誠」ではなく、抗えぬ力への「屈服」という濁った色が淀んでいる。


「……ここまで来たか」


 兵たちの背後から、あの男――セランが悠然と現れた。

 手にした杖が、不気味な黒い光を放っている。

「もはや封印など意味を成さぬか。……ならば、力ずくでその傲慢な目を潰してやろう」


「……あなたは、彼らを人だと思っていませんね」

 レインの静かな声が、兵たちの間に波紋のように広がった。

「命令で縛り、恐怖で結ぶ。……それは縁ではなく、ただの鎖です」


 レインが両手を広げた。

 右手の感覚が熱を帯び、封印の壁が砕け散る寸前の凄まじい振動を放つ。


(……解きます。あなたたちの、偽りの繋がりを)


 レインが兵たちの「集団の縁」に直接触れた。

 刹那、兵士たちの脳裏に、かつて自分たちが守りたかったもの――家族の温もりや、友との誓い――が、激流となって流れ込んだ。セランの支配という暗雲を突き破り、個としての「光」が呼び覚まされる。


「っ、何だ……!? 体が、動かない……!」

「俺は、何のためにこんなところに……」


 精鋭たちが次々と剣を落とし、膝をつく。殺気で満ちていた空間が、一瞬にして戸惑いと人間的な動揺に包まれた。


「……何をした!?」

 セランの顔が、初めて驚愕と怒りに歪んだ。

 自分の支配を、暴力でも魔力でもなく、「縁の修復」という手段で無効化されたことに、彼は本能的な恐怖を覚えたのだ。


「……今です、リアさん!」

「オッケー! これでもくらえ!」


 リアが最大規模の煙幕を放ち、二人は混乱する兵たちの間を、一陣の風のように駆け抜けた。

 背後でセランの咆哮が響くが、支配という縁は、一度崩れれば元には戻らない。


「……はぁ、はぁ。すごかった、レイン。……あいつ、あんなに焦った顔したの、初めて見た」

 森の奥へ逃げ込み、リアが興奮気味に肩を叩く。

 

「……ですが、まだです。最後の封印が、私の核を縛っています。……次が、本当の正念場です」


 レインの右手には、もはや感覚の麻痺はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。