第40話:旅の縁が、集まってくる
旅の縁が、集まってくる。広がっているのではない。終わりに向かって、収束している。レインには、そう感じられた。
セランの根拠地を目前に控えた、街道の宿場町。
二大国の開戦による混乱は極限に達していたが、その喧騒を抜けて歩く二人の前に、予期せぬ再会が待っていた。
「……レインさん! やはり、あなたでしたか!」
人混みをかき分けて駆け寄ってきたのは、旅の序盤で対立を解消した、あの二つの商家の主たちだった。かつては目も合わせなかった二人が、今は一つの荷馬車を共に守り、必死に物資を運んでいる。
「皆さんは、なぜここに?」
レインが驚きに目を丸くする。
「あんたのおかげで町が一つになれたんだ。恩返しをさせてくれ。……セランの私兵たちが、この先の森に伏兵を置いているという情報を掴んだ。この裏道を使えば、奴らの目を盗めるはずだ」
それだけではなかった。
宿の窓からは、かつてレインが手紙を届けた父娘が、避難民を誘導する姿が見えた。広場では、小国の危機で「第三の道」を選んだ指導者が派遣した義勇兵たちが、町を守るために盾を並べている。
(……見えます。繋いできたものが、すべて)
レインの感知能力が、かつてない景色を捉えていた。
自分が通り過ぎ、言葉を残し、ほんの少しだけ背中を押しただけの人々。彼らの間にある縁が、今やレインを中心に一つの巨大な輪となって、この絶望的な戦場に「希望」という名の輝きを灯している。
一人では届かなかった。
自分はただの役立たずで、縁の外側にいる観察者だと思い込んでいた。
けれど、繋がれていたのは彼らだけではない。自分もまた、彼らの縁に生かされ、ここまで運ばれてきたのだ。
「レイン、見て。みんな、あなたを見てるよ」
リアが誇らしげに、周囲を指差した。
避難する人々が、歩みを止めてレインに会釈をする。兵士たちが、槍を立てて敬意を表す。
「……変わりましたね、私も」
レインがぽつりと呟いた。
「うん、変わった。……最初は死んだ魚みたいな目をしてたのに、今はちゃんと、誰かの隣に立ってる顔をしてる」
「……リアさんのおかげです」
「お互い様だよ、レイン」
リアが笑う。その笑顔の隣には、かつて繋いだすべての人々の想いが、目に見える光の粒となって漂っていた。
人々の協力を得て、二人はセランの館へと続く秘密の回廊へと足を踏み入れた。
背後には、彼らの道を切り拓くために戦う、名もなき恩人たちの歓声が響いている。
「行きましょう。……独りではありません。それを教えてくれた人たちのために」
レインの右手には、もう痺れも冷たさもなかった。
かつてないほど熱く、力強く。




