第35話:二人で、どこへでも
夜が明け、冬に近い朝の冷気が村の空き家を包み込んでいた。
二人は荷物をまとめ、昨日までとは違う、澄み渡った空気の中で向かい合った。
「……行きましょうか、リアさん」
「うん。行こう、レイン」
宿命を打ち明けた後の二人の間には、不必要な言葉はなかった。
街道を歩きながら、レインは自分の内側にある「封印」の状態を確認する。神殿を訪れるたびに、そしてリアとの絆が深まるたびに、あの強固だった壁はひび割れ、剥がれ落ちていた。
核心部分はまだ残っている。だが、そこへ手を伸ばす恐怖は、もうどこにもなかった。
旅の積み重ねが、思わぬ形で現れたのは昼下がりのことだった。
前方の街道から、見覚えのある商人たちが荷馬車を引いてやってくる。旅の序盤でレインが縁を繋いだ、あの小国の商家の一行だった。
「おお、レインさんじゃないか! こんなところで会えるとは!」
商人が馬車を止め、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「あの後、町はすっかりまとまりましてね。二大国の圧力にも、皆で知恵を出し合って耐えていますよ。……あんたが繋いでくれた縁が、今も俺たちを支えてるんだ」
レインは一瞬、言葉に詰まった。
自分が無自覚に、あるいは必死に繋いできた小さな光の糸が、今、遠く離れた場所で誰かの日常を守っている。
「……よかったです。皆さんの無事を、お祈りしています」
レインは丁寧に頭を下げた。隣でリアが、誇らしげに胸を張って笑っている。
「よかったね、レイン。レインがやってきたこと、ちゃんと形になってるよ」
商人と別れ、再び二人きりの街道。夕暮れが近づき、二人の影が長く、濃く伸びていく。
「ねえ、レイン。私たちって、やっぱり似てるよね」
「……そうですか」
「うん。どこにも属せなかった同士。……でも」
リアが足を止め、振り返った。夕日に照らされた彼女の瞳は、これまでのどの瞬間よりも透明だった。
「今は、独りじゃない。……どこにも属せなくても、レインがいれば、そこが私の居場所になる気がするんだ」
「……私もです」
レインは、自分でも驚くほど自然にその言葉を口にしていた。
「以前の私は、縁を感じながら、常にその外側にいました。……ですが今は、あなたが隣にいます。それだけで、私の旅には意味がありました」
リアが笑った。声を上げて、心からの笑顔を見せた。
「……よし! 決まりだね。……じゃあ、この旅の最後、二人で見届けに行こうよ」
「ええ。……そうしましょう」
二人の前方に、最終決戦へと向かう道が続いている。
レインの感知能力は、遠く、二大国の国境付近で複雑に、そして醜く絡まり合った巨大な「縁」の渦を捉えていた。
解くべき縁。結ぶべき縁。




