第28話:初めて、本当のことを言った
人通りの絶えた薄暗い街道。冷たい霧が足元を這い、鳥の声一つ聞こえない不自然な静寂が辺りを支配していた。
二人の行く手を阻むように、数人の武装した従者を従えたあの男――セランが立っていた。
「少し話をしようじゃないか、レイン。逃げ回るのも疲れただろう」
穏やかな、それでいて逃げ場を許さない響きを含んだ声。セランはゆっくりと歩み寄り、レインの数歩前で立ち止まった。その双眸には、前回とは違う、獲物を追い詰めた猟師のような冷徹な光が宿っている。
「……私の力を、どうするつもりですか。なぜ執着する」
レインはリアを背後にかばうように立ち、静かに問いかけた。
セランは愉悦を隠しきれないように、薄く笑った。
「縁結び師の力は、人と人を繋ぐためだけの慈善の力ではない。……それは『縁』という世界の理を操る、絶対的な支配の力だ」
セランの指先が、空間をなぞる。
「二国間の縁を意図的に断ち切り、憎しみを煽ることも。あるいは、死に至るまで離れられぬよう強制的に結ぶこともできる。その力を私が完全に制御下に置けば、この大陸の政治的均衡など、私の指先一つで書き換えられるのだ」
「縁は、操るものではありません」
レインの平坦な声が、夜の森に響く。
「綺麗事だな。お前がその力を使いこなせぬよう封印したのは、お前が幼かったからだけではない。……私の計画が完成するその時まで、お前の意志という不確定要素を排除しておく必要があったからだ」
セランの言葉に、嘘はない。感知能力が、彼の言葉の裏側にある「目的への純粋な執着」を剥き出しの光として捉えていた。この男は本気で、世界を縁という糸で編み直そうとしている。
不意に、セランの視線がレインの背後にいるリアへと向けられた。
値踏みをするような、それでいて何か確信を得たような、不気味な視線。一瞬だけそこに止まり、それ以上は何も言わなかった。
「……なるほど。面白い組み合わせだ」
リアの体が、目に見えて硬直した。
いつもなら言い返すはずの彼女が、今は唇を噛み締め、セランの視線から逃れるようにレインの服を強く掴んでいる。
「リアさんに、何を……」
「じきにわかる。お前たちがこの旅を続ける限り、全ての縁は私のもとへ集束するようになっているのだ」
セランはそれだけ言い残すと、霧の中に溶けるように去っていった。
従者たちの足音が消えても、レインは動けなかった。
「……レイン」
リアが震える声で名前を呼ぶ。
「……あの人に見られていましたが、心当たりはありますか」
レインが振り返って尋ねると、リアは弱々しく首を振った。
「……ない、と思う。……でも、あの人の目を見たとき、なんだかすごく嫌な予感がしたの。……私のこと、知ってるみたいで」
リアの琥珀色の瞳が、かつてないほど激しく揺れている。
レインの感知能力は、彼女の内側で何かが目覚めようとしているような、不穏な胎動を捉えていた。
セランの目的。リアの出自。そして自分の封印。




