第26話:独りぼっちでいるのが、変だと思えるくらいに
翌朝、二人は町外れの小高い丘に座っていた。
眼下には運河で切り裂かれた町が広がり、その先には東と西、それぞれの巨大な国家へと続く地平線が微かに霞んでいる。
「……話すね」
リアが膝を抱え、遠くを見つめたまま口を開いた。
「お父さんとお母さんはね、互いの国が許さない恋をした。二人が出会った頃は、まだそれでも生きていける時代だったんだって」
だが、対立が深まるにつれ、リアの存在は「愛の証」から「忌むべき不浄」へと変わっていった。
どちらの国からも、その血を疎まれ、蔑まれる。両親は善良だったが、荒れ狂う国家の濁流から娘を守り抜く力はなかった。
「どちらの国にも、私の居場所はなかった。……『お前は余計な存在だ』って、何度も言われたよ。両親が死んだ後、私は文字通り、どこにも属せない独りぼっちになったんだ」
リアが、自嘲気味に小さく笑った。
「ねえ、レイン。私がいつも明るく振る舞ってた理由、わかる?」
「……教えていただけますか」
「明るくしてないと、怖かったから。……笑っていれば、誰かが隣にいてくれる気がした。笑っていれば、自分が空っぽだってことに気づかずに済む気がした。……本当は、寂しくて死にそうだったのにね」
初めて語られる、天真爛漫な明るさの「正体」。
それは孤独という深淵から逃げ出すための、必死な足掻きだった。
レインは静かに聞いていた。
彼女の内側で激しく波打っていた断絶の正体。どこにも属せず、誰からも必要とされない恐怖。
その痛みは、レインの胸の奥にある熱と、見事なまでに共鳴していた。
「……リアさん。私にも、どこにも属せない感覚があります」
リアが驚いたように顔を上げた。
「レインも?」
「はい。勇者パーティの中にいても、私は常に一人でした。……縁を感じながら、自分だけがその縁の外側で、冷たい空気を見つめているような。……そんな感覚が、ずっと私を支配していました」
二人の間に、柔らかな風が吹き抜けた。
同じ孤独。けれど、違う形で抱えてきた二人の魂が、この丘の上で初めて、真っ直ぐに向き合った。
「……そっか。レインも、独りだったんだね」
「はい。……ですが、今は違います」
レインは、隣に座るリアの琥珀色の瞳を見つめた。
「あなたが、私の内側にある封印を『知っていた』と言ってくれた時。……私は初めて、誰かに自分の居場所を許された気がしました」
リアの瞳に、熱いものが込み上げる。
彼女は袖で乱暴に目元を拭うと、今度は貼り付けたような仮面ではない、少しだけ不器用で、けれど温かな笑顔を見せた。
「……話してよかった。……レインに聞いてもらえて、本当によかった」
丘を下りる二人の足取りは、昨日までよりもずっと軽やかだった。
レインの感知能力が、二人の間にある「縁」の糸を捉える。
それはまだ細い。けれど、これまでのどんな糸よりも眩しく、一点の曇りもない純粋な光を放っていた。




