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第23話:記録の中に、嘘があった

 地図に載っていない、名もなき古い遺跡。

 かつて立ち寄った町の古老から得たその情報は、今のレインにとって単なる好奇心の対象ではなかった。

 届かなかった縁。撥ね退けられた指先。その苦い記憶が、彼を未知の場所へと突き動かしていた。


「……ここ、行くんだよね?」

 街道の分岐点で、リアが確認するように尋ねる。

「行きます。……私には、必要な気がします」


 これまでのレインなら「リアさんが行きたいのであれば」と答えていただろう。だが、今の彼の言葉には、静かだが固い自律の響きがあった。リアは一瞬驚いたように目を丸くし、それから嬉しそうに笑った。


 山道を二日。険しい斜面を登り、人の気配が完全に途絶えた先で、その遺産は待っていた。

 木々に半ば飲み込まれた、円柱状の石造神殿。

 入り口を抜けると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。壁一面には、これまでの遺跡よりもさらに密度の高い、流麗な文様が刻まれていた。


「わあ……綺麗……。でも、なんだかここ、すごく静かだね」

 リアの声が、高い天井に反響する。

 

 中央の広場。そこには、巨大な円形の石盤が鎮座していた。

 レインがその石盤に一歩近づいた瞬間。

 触れる前から、全身の産毛が逆立つような強烈な「共鳴」が彼を襲った。


「……っ」


 レインは導かれるように、石盤の表面に両手を置いた。

 刹那、視界が爆ぜる。


 それは、これまでで最も鮮明な「記憶」の奔流だった。

 

 温かな、陽だまりのような部屋。

 幼い自分の手を引く、柔らかな掌。

『この子には、素晴らしい力があるわ。人と人を繋ぎ、世界を優しくする力が……』

 穏やかな、けれど誇らしげな誰かの声。

 

 だが、その光景を切り裂くように、冷徹な影が差した。

『過ぎた力は、毒になる。私がこの子を預かろう。……正しい使い道を決めるのは、私だ』

 

 その声を聞いた瞬間、レインの内側で何かが激しく軋んだ。

 断ち切られる感覚。

 自分の一部が、深い闇の底へと無理やり引きずり込まれ、頑丈な鍵をかけられていく絶望。


「あああああ……っ!」


 レインの膝が、激しく石盤を打った。

 溢れ出す冷や汗が床に滴る。

 

「レイン!? 大丈夫!?」

 駆け寄ったリアが、震えるレインの肩を必死に支える。

「……記憶、が……」


 レインは喘ぐように言葉を絞り出した。

 今まで「欠陥品」だと思い込まされてきた自分。

 けれど、記憶の中の自分は、今の何倍も眩しい光を纏っていた。


 自分から力を奪ったのは、あの男。セランだ。

 

 レインは朦朧とする意識の中で、建物の入り口を見つめた。

 まだ、全部は見えていない。

 自分を愛していたはずの者の顔も。

 封印の本当の意味も。


「……明日、もう一度、触れます」

 レインはリアの腕の中で、自分自身に言い聞かせるように呟いた。

「今度は、逃げないように。……最後まで、見届けなければなりません」


 リアは何も言わず、ただレインの背中を優しく撫で続けた。


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