↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/50

第17話:伝説は、呪いに似ていた

 石畳の道、歴史を物語る煤けた外壁。二人が足を踏み入れたのは、他の小国とは明らかに一線を画す、古い伝統が息づく国だった。

 町の中心には、天を突くような尖塔を持つ古い神殿が鎮座している。そこは「縁結びの神」を祀る場所として、遠方からも巡礼者が訪れる聖域だという。


「……ねえ、レイン。あそこ、行ってみようよ」

 リアの提案に、レインは小さく頷いた。自分を追う「セラン」の影、そして内側に広がり始めた名状しがたい熱。それらの正体を知るためのヒントが、あの古い石造りの建物の中にある予感があった。


 神殿の奥、微かに香の高貴な匂いが漂う一室で、二人は老いた神官と向き合った。

 神官は、レインの灰色の瞳をじっと見つめ、静かに語り始めた。


「……かつてこの国が二つの勢力に引き裂かれ、血が流されようとした時。一人の『縁結び師』がこの地を訪れたという伝説があります」

「縁結び師……」

 レインの喉が、無意識にその言葉をなぞる。


「その者は、人々の間にある憎しみや恐怖という濁りを払い、忘れ去られていた『縁』を結び直した。そうして国は救われ、その者はまた、風のように旅立っていった……。それ以来、この国では縁を繋ぐことが何よりの徳とされているのです」


 レインは静かに聞いていた。

 人と人を繋ぎ直す力。伝説の中の存在。

 だが、神官の話が終わった瞬間、老人の濁った瞳が鋭い光を帯びてレインを射抜いた。


「……若き旅人よ。あなた、もしかして」

 言いかけて、神官は言葉を止めた。その視線は、レインの周囲を浮遊する目に見えない「光の濃淡」を探っているようだった。


「……いえ。失礼しました。縁結び師に似た、あまりにも静かで、透徹した気配を感じたものですから。……気のせいでしょうな。あの血脈は、とうに絶えたと聞きます」


 神殿を出た後、外の冷たい空気が頬を撫でる。

 隣を歩くリアが、いつになく真剣な、それでいて何かに怯えるような瞳でレインを見つめていた。


「ねえ、レイン。……レインってさ、本当は『縁結び師』なんじゃないの?」

「……そんなはずはありません。私は、勇者パーティを追い出された役立たずの記録係です」


 レインはいつものように、丁寧な拒絶を返した。

 だが、リアは足を止め、真っ向からレインの視線を捕らえた。


「気のせいじゃないと思う。あのおじいさんも、何かを感じてた。……レインが人々の間にある『何か』を変えていくのを、私はずっと隣で見てきたんだよ」


 二人の間に、重い沈黙が落ちた。

 夕闇が迫る神殿の広場で、レインは自分の心音を聴いていた。

 

 縁結び師。

 伝説に語られる、神聖で、巨大な役割。

 自分に見えているこの忌々しいほど鮮明な「糸」が、もしその力なのだとしたら。

 

 かつて、自分を切り離したあの男の「封印」という言葉。

 

 レインの記憶の奥底で、泥に埋もれていた何かが、また一つ、嫌な音を立てて剥がれ落ちた。


「……帰りましょう、リアさん。夜が来ます」


 レインは逃げるように歩き出した。

 その背中を、リアはしばらく無言で見つめていた。レインには、彼女がどんな表情をしているのか、もう見えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。