第14話:あの人たちが、いた
大きな町にある活気ある宿の食堂。夕食のシチューを口に運んでいたレインの手が、入り口から入ってきた一団を見て止まった。
重厚な鎧を纏った、端正な顔立ちの青年。賢そうな杖を携えた術師。そして、抜け目なさそうな眼差しの、軽装の女。
一月ほど前まで、レインがその背中を追い続けていた勇者パーティだった。
「あ……」
勇者がレインに気づき、足を止める。仲間たちも気まずそうに視線を泳がせた。
一瞬、食堂の喧騒が遠のくような沈黙が流れた。
「……元気そうだな、レイン」
勇者が一歩、レインのテーブルに歩み寄った。その顔には、かつて追放を告げた時の険しさはなく、どこか迷いと後悔が混じったような複雑な色が滲んでいる。
レインは静かに立ち上がり、いつものように丁寧な動作で頭を下げた。
「おかげさまで。皆さんも、お変わりないようで何よりです」
「……ああ。……一人か?」
勇者の問いに、レインは隣でスプーンを咥えたまま固まっているリアを示した。
「いえ。この方と旅をしています」
リアが我に返り、「あ、どうも。リアです」と慌てて挨拶する。勇者はリアを、そして再びレインをじっと見つめた。何かを言おうとして口を開きかけ、だが結局、重い溜息とともに言葉を飲み込んだ。
「……そうか。元気でいろよ」
勇者はそれだけ言うと、逃げるように自分のテーブルへと戻っていった。
翌朝。出発の準備を整え、町外れの街道を歩き出したところで、リアが我慢しきれないといった様子で口を開いた。
「ねえ、レイン。昨日の人たち……勇者パーティ、だよね?」
「はい。以前、私が所属していた方々です」
「あのリーダーの人、ずっと複雑な顔してたよ。謝りたそうだったけど、言えなかったみたい」
リアは鋭い観察眼で、勇者の内側にあった後悔を言い当てた。
レインは前を向いたまま、平坦な声で答える。
「……そうですか」
「それだけ!? あんなに酷いこと言われて追い出されたのに、怒ってないの?」
「怒る理由がありません。彼らは間違っていませんでした。私が戦えず、魔力も持たず、足手まといだったのは事実ですから。彼らのおかげで、私は今の旅を始めることができました」
レインの言葉には、強がりも卑下もなかった。ただ、冷徹なまでに客観的な事実として、自分を捉えている。
リアは何かを言いかけ、だがレインの横顔を見て、唇を噛んだ。
「……レインって、たまにすごく遠いところにいるよね」
「……え?」
「ううん、なんでもない! ほら、置いてくよ!」
リアは無理に明るい声を出し、駆け足で先へ進んでいく。
レインはその後ろ姿を追いながら、昨夜、勇者から伸びていた「縁」を思い出していた。
それは以前よりも細く、弱々しく震えていた。彼らがレインの価値を失って初めて気づいた後悔。だが、レインにはそれを繋ぎ直す意志はなかった。
過去は、もういい。
今はただ、目の前を歩く少女の、あの複雑に絡まった糸をどうにかしたい。
自分の心に宿り始めたその小さな執着を、レイン自身はまだ「役割」だと思い込もうとしていた。




