第四話 奴の足跡
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
侵入者の存在が明らかになった翌日。
尋志は、すぐに動き出した。
まずは、防犯カメラの映像を何度も見返す。
一度では足りない。
角度を変え、再生し直し、止めて、また戻す。
そして、スクリーンショットを撮る。
静止画にして、限界まで拡大する。
それを、何枚も、何枚も繰り返した。
家庭用の防犯カメラでは、夜の映像はどうしても粗い。
上からのアングルでは、細部の判別は難しい。
それでも、見えてくるものはあった。
年齢は二十代前後。
髪はツイストのようなパーマで、色は茶か金。
白いTシャツにジーパン、足元はスニーカー。
肩には斜め掛けのバッグ。
日焼けした肌。
そして、サッシの高さと比較すると、身長は一七〇センチ前後。
この男を、尋志は
Thief と呼ぶことにした。
ここからが重要だった。
尋志は、まず服装に目をつけた。
同じ格好の人物がいれば、それだけで可能性は高まる。
だが、Tシャツの背中に書かれた英語は、ぼやけていて読めない。
かろうじて分かるのは、ロゴの雰囲気と、アルファベットの並びだけ。
しかも、夜間映像では色の判別も曖昧になる。
確実なのは「白いTシャツ」と「よくあるジーパン」程度だった。
それでも、繰り返し映像を見る。
静止画と動画を行き来しながら、記憶に焼き付ける。
歩き方の癖まで、頭に叩き込んだ。
そして気づく。
シーフが家を出る瞬間、手に封筒を持っている。
――あれは、里美の釣り銭の封筒だ。
そう確信した瞬間、尋志の中で何かが切れた。
ようやく戻りかけていた家族。
やり直すために選んだ仕事。
そのために用意していた大事な金。
それを、見ず知らずの男が持ち去る。
怒りが、静かに、しかし確実に燃え上がる。
四十五歳。
やっとの思いで建てた家だった。
その中に、土足で踏み込まれた悔しさ。
画面の中のシーフに向かって、何度も感情をぶつけた。
そして、この日。
尋志は、ある決意をする。
もともと、毎日ウォーキングをしていた。
三十分ほどの、軽い運動。
だが、それを変える。
一時間半から二時間へ。
――ウォーキングではない。
パトロールだ。
雨の日も、風の日も。
シーフを捕まえる、その日まで。
これは、子供たちを疑ってしまった自分への戒めでもあった。
もっとも、この行動は危険でもある。
この町には、治安の悪い場所も少なくない。
そういう場所にも足を踏み入れる必要がある。
似たTシャツの人物がいれば、声をかけるつもりだった。
相手がどんな人間かも分からないまま。
それでも、尋志は止まらなかった。
多少の危険など、問題ではなかった。
――それほどまでに、本気だった。
週末になると、尋志は繁華街へ出る。
友人と飲むためだ。
だが、シーフの存在を知ってからは違う。
帰りは必ず徒歩。
一時間かかろうとも、歩く。
それもまた、情報収集だった。
そんなある日。
飲みの帰り、いつものように歩いていると、
前を歩く人物のTシャツが目に入った。
似ている。
距離を詰めて確認する。
色は違うが、同じ種類のものだった。
ただし、体格はまったく違う。
シーフではない。
それでも、尋志は声をかけた。
男は、タクシーが捕まらず歩いていたという。
事情を話すと、快く応じてくれた。
Tシャツの購入先。
写真撮影の許可。
さらに、偶然近くを通る里美の車で、その男を送ることになった。
翌日。
教えてもらった店へ向かう。
そこは、アウトドア用品店だった。
つまり、あのTシャツは――有名ブランドの製品。
店員に写真を見せる。
「私がこのブランドを担当しています」
「間違いありません。同じ商品です」
実物を確認し、確信に変わった。
これで、一歩近づいた。
しかし――
意識して見るようになると、同じTシャツは珍しくなかった。
ショッピングモールでは、一日に五人見かけたこともある。
年齢層も、三十歳前後が多い。
だが、不思議なことに。
自分の住む町では、一度も見かけない。
この違和感は、頭に残った。
パトロールは続く。
パチンコ店、ドラッグストア、ディスカウントショップ、コンビニ。
人が集まりやすい場所を、毎日回った。
店内にいる時間は短い。
だが、さすがに不審に思われる。
そのため、事情を説明し、見回りの許可も取った。
同じ頃、防犯カメラを一新した。
以前は三台。
それぞれ独立したタイプで、アプリでまとめて管理していた。
だが――
シーフを映したあと、三台すべてが壊れた。
まるで、役目を終えたかのように。
偶然にしては、出来すぎている。
新しいカメラは、本体録画とスマホ連動型。
八倍速再生も可能で、確認効率は大きく上がった。
さらに、風呂場側にも設置。
身長から逆算し、最も鮮明に映る位置を選んだ。
準備は整っている。
なぜかは分からない。
だが――
シーフは、また来る。
そんな予感が、消えなかった。
そして三ヶ月後。
事態は、大きく動くことになる。




