第三話 侵入者
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
子供たちを疑ってしまった、翌日――
尋志は、防犯カメラの映像を再確認していた。
鍵は閉まっていた。
外部からの侵入は薄い――そう思い込み、前日は細かく確認していなかった。
だが今は違う。
(何か、見逃している気がする……)
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最近の防犯カメラは、スマホで確認できる。
だが操作性は完璧ではない。
倍速再生はできず、指でスクロールするしかない。
そのため、細かい動きはどうしても見逃しやすい。
慎重に――
何度も指を止めながら映像を追っていく。
そして。
何気なく止めた、その瞬間。
――映っていた。
「……誰かが、窓から出ていく?」
リビングの大きな窓。
そこから外へ出ていく、若い男の姿。
時間は、深夜0時。
「将太……か?」
一瞬、そう思った。
だが、違和感があった。
鼓動が一気に速くなる。
手のひらに、じわりと汗がにじむ。
巻き戻し、もう一度。
さらに、もう一度。
三度目の確認で――確信した。
「違う……将太じゃない」
「じゃあ、誰だ……?」
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泥棒――?
その可能性が、一気に現実味を帯びる。
映像の男は若いが、身長も体格も違う。
服装も一致しない。
さらに確認すると、男は窓から出る十五分ほど前から、家の中を物色していた。
だが――
「どこから入った……?」
侵入の瞬間が、どこにも映っていない。
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その時だった。
スマホが震えた。
里美からの着信。
この時間に電話が来るのは、珍しい。
「もしもし?」
「あ、パパ?今大丈夫?」
「なんか……警察の人が来てるんだけど」
「警察!?」
あまりにも出来すぎたタイミングに、尋志は思わず声を上げた。
「俺も話がある!」
「将太でも幸絵でもない。泥棒だ――家に入ってる!」
電話は、そのまま警察官に代わった。
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「ご主人、お忙しいところ申し訳ありません」
「近くで事件がありまして、防犯カメラのご協力を――」
「それより聞いてください。うちにも泥棒が入っています」
一瞬の沈黙。
「……わかりました。詳しくはご帰宅後に伺います」
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その日の夜。
警察が五人、自宅に来た。
指紋、足跡――徹底的な現場検証。
尋志は、ここ数日の経緯をすべて話した。
防犯カメラも確認する。
だがやはり、侵入口がわからない。
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しばらくして、ひとりの警察官が口を開いた。
「……入り口、わかりました」
「風呂場の窓です」
「風呂!?」
尋志は思わず声を上げた。
「高さもあるし、隙間なんて……」
「隣の家の室外機に足跡がありました。踏み台にしたんでしょう」
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風呂場は死角だった。
滑り出し窓。
見た目では、人が入れる隙間などない。
「入れるはずがない」
その思い込みが、隙になっていた。
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被害額も明らかになった。
里美の釣り銭、約一万円。
里美の財布から五千円。
そして――
尋志の財布から、五万円。
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だが。
そんな金額は、どうでもよかった。
「俺は……こんな奴のために……」
我が子を疑った。
将太の顔。
幸絵の怒った声。
それが、頭から離れない。
怒りが、込み上げてきた。
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その日から三日間。
尋志は、ほとんど眠れなかった。
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家族を集めた。
「……すまない。疑ってしまった」
震える声で、頭を下げる。
将太は言った。
「いいよ。疑いが晴れただけで十分だから」
幸絵も、少し強い口調で笑った。
「パパ、気にしないで。犯人は許さないけどね」
責める言葉は、なかった。
それが、余計に胸に刺さる。
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その瞬間、尋志は決めた。
(この犯人は――自分で捕まえる)
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翌日から、動き出す。
可能性はゼロじゃない。
動けば、確率は上がる。
だが動かなければ――ゼロのままだ。
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こうして始まった。
約一年に及ぶ、執念の追跡。
命をかけた戦いが、いま幕を開ける。




