第二話 疑いの矛先
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
2024年の冬も終わりに近づく頃――
尋志の妻・里美は仕事を辞め、古巣へ戻った。
昔のメンバーはほとんどいなかったが、不思議と気の合う人間ばかりで、職場の空気は以前と変わらず心地よかった。
家庭でも、最初はぎこちなさが残っていたものの、里美は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
その姿に、尋志は胸を撫で下ろしていた。
やがてゴールデンウィーク明け。
里美は一人立ちすることになった。
この仕事では「釣り銭」を自分で用意する必要がある。
一万円ほどの小銭を、家族みんなで少しずつ集めていた。
里美はそれを封筒に入れ、自分の机の近くに置いていた。
――その日までは。
「あれ?小銭が入った封筒がない」
一階から、里美の声が響いた。
尋志はすでに布団に入っていたが、呼ばれて一階へ降りる。
子供たちも含め、家族総出で探した。
だが――見つからない。
「私、おっちょこちょいだから……どこかにしまったのかも」
「ごめんね、また集めるよ」
その日は、それで終わった。
⸻
翌日。
まだ子供たちが帰っていない時間、里美がぽつりと呟いた。
「……もしかして、将太かも」
空気が、一気に重くなる。
「あの子、最近お金に困ってるみたいで……請求書も来てたし」
尋志も、同じ可能性を考えていた。
鍵は閉まっていた。
外部の人間が入った形跡はない。
だとすれば――家族の誰か。
娘の幸絵は考えにくい。
となると、消去法で将太になる。
胸が、嫌な音を立てた。
念のため、防犯カメラを確認する。
だが、怪しい人物は映っていない。
その流れで、尋志は自分の財布も確認した。
――五万円、入っていたはずだ。
それも、消えていた。
⸻
その夜。
尋志と里美は、将太を呼んだ。
「将太……正直に答えてほしい」
「お父さんたちのお金、触っていないよな?」
将太は、しばらく俯いたままだった。
そして、ゆっくり顔を上げる。
「……この状況だと、俺が疑われると思ってた」
「でも、違う。俺じゃない」
その表情には、決意と哀しみが入り混じっていた。
⸻
話を聞くと、請求書は“時計”の分割払いだった。
説明を聞き終えたとき、尋志は安堵した。
同時に、胸の奥がチクチクと痛んだ。
――息子を疑った。
その事実が、重くのしかかる。
⸻
だが。
将太が違うとなると――
次に疑うのは、幸絵になる。
⸻
「やめて」
里美がすぐに止めた。
「あの子は高校一年生よ。パパに疑われたら、どれだけ傷つくか……」
「でも、このままだと将太だけが疑われた事になる」
短い沈黙の後、尋志は言った。
「ちゃんと話す。大丈夫だ」
⸻
そして、幸絵を呼んだ。
「幸絵、正直に答えてほしい」
「パパたちのお金、触ってないよな?」
次の瞬間――
「は?私がそんなことするわけないだろ!」
怒鳴り返された。
⸻
その夜。
家族全員が、深く傷ついた。
疑った親も。
疑われた子供も。
結局、この件は――
「勘違いだった」という形で終わらせた。
⸻
だが、翌日。
尋志の中に、消えない違和感が残っていた。
(……もう一度、見てみるか)
仕事の休憩中。
防犯カメラを再確認する。
そして――
見つけてしまった。
この日から始まる、
約一年にも及ぶ“戦い”のきっかけとなる映像を。




