第十九話 まだ続く犯行
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
それは、遡ること一ヶ月前の初夏。
二回目の公判を控えていたシーフ。そして、それを傍聴するために動いていた長澤夫婦。
そんな中、長澤家の住む町に、見知らぬ差出人からいくつかのメールが流れてきた。
「最近、この地域は物騒です」「泥棒やガラの悪い人が目立ちます」
簡素な文章とともに、複数の写真と動画が添付されていた。
里美の元にも届いていた。
「パパ、また泥棒出たみたいよ。物騒だね」
軽い調子でそう言いながら、画面を見せてくる。
シーフは、ついこの前捕まったばかりだ。尋志は最初、それほど関係のある話だとは思わなかった。
だが――
映像を見た瞬間、違和感が残った。
駐車場を映した写真。二階から撮影されたような構図。ガラの悪い連中が、何か揉めている。
見たことない連中だ。
次に動画を開く。防犯カメラの映像だった。
怪しい男が、ゆっくりと周囲を見回しながら歩いている。
二つ目の動画。同じ男が、玄関に手をかけている。迷いのない動きだった。
「シーフ以外にも、こういうことする奴、いるんだね」
里美の言葉が、やけに遠く聞こえた。
尋志は何も言わず、同じ動画を繰り返し再生した。
何度も。何度も。
やがて、手が止まる。
そして、額に浮かんだ汗が一筋、頬を伝った。
「……シーフだ」
里美が顔を上げる。
「え?違うでしょ。体型も違うし、髪型も全然――」
「……いや、あいつだ」
言い切っていた。
体型が違う。髪型も違う。それでも、間違えるはずがなかった。
歩き方だった。
何十、何百と見てきた、あの動き。
「……あいつだ」
もう一度、小さく繰り返す。
保釈が通り、自宅に戻ったシーフ。その直後の映像だった。
現実とは思えなかった。
それでも、目は逸らせなかった。
尋志は画面を拡大し、細部を追った。
服装。記憶の中にある、押収品と重なる。
場所。一年間、歩き続けた町の景色。
見覚えがあった。
「……ここ、あそこかもしれない」
里美と二人で現地へ向かった。
ビンゴだった。
話を聞くと、この近辺で同じような被害未遂が続いているという。防犯カメラを設置していた数軒の家から、映像が共有され、あのメールになったらしい。
そして、その場所は――
シーフの自宅から、わずか百メートル。
もう、止まらない。
そう思った。
紗梨には連絡がつかない。弁護人が入り、接触を避けているのだろう。
それでも、このままにしておくわけにはいかなかった。
尋志は、紗梨の母を通じて再び接触した。
映像を見せる。
紗梨は無言で頷いた。
その時、シーフ宅から出てきた服装と、映像の男は完全に一致していた。
「……やっぱり、あいつか」
確信だった。
その後、裁判所で見たシーフの姿。体型も、髪型も、すべてが“整えられていた”。
だが、もう関係なかった。
あの動きを、見間違えるはずがない。
――これが、尋志が法廷で激昂した理由だった。
裁判の前、尋志は警察に相談していた。
だが、返ってきたのは冷たい言葉だった。
「あまりやりすぎると、あなたを逮捕することになりますよ」
一瞬、言葉を失った。
結局、この映像では警察は動かなかった。被害届も出ていない。
それだけだった。
「……最初から、頼るんじゃなかった」
小さく吐き捨てる。
逮捕までの証拠は、すべて自分で集めた。それでも――
何も変わっていなかった。
そして、判決の日。
下されたのは、懲役二年。
その言葉を聞いた瞬間、浮かんだのは安堵ではなかった。
自分の裁判が目前の保釈中の男が、自宅から石を投げれば届く距離で、同じ犯罪をしている。
――二年後。
あいつは、戻ってくる。
この町に。
そしてまた、渡邊一義は、“シーフ”になる。
確信だった。
戦いは終わっていない。
ただ、区切られただけだ。
長澤家は、この地を去った。
次回、最終話になります。




