表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Thief  作者: がねちん
19/20

第十九話 まだ続く犯行

本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。

それは、遡ること一ヶ月前の初夏。


二回目の公判を控えていたシーフ。そして、それを傍聴するために動いていた長澤夫婦。


そんな中、長澤家の住む町に、見知らぬ差出人からいくつかのメールが流れてきた。


「最近、この地域は物騒です」「泥棒やガラの悪い人が目立ちます」


簡素な文章とともに、複数の写真と動画が添付されていた。


里美の元にも届いていた。


「パパ、また泥棒出たみたいよ。物騒だね」


軽い調子でそう言いながら、画面を見せてくる。


シーフは、ついこの前捕まったばかりだ。尋志は最初、それほど関係のある話だとは思わなかった。


だが――


映像を見た瞬間、違和感が残った。


駐車場を映した写真。二階から撮影されたような構図。ガラの悪い連中が、何か揉めている。

見たことない連中だ。


次に動画を開く。防犯カメラの映像だった。


怪しい男が、ゆっくりと周囲を見回しながら歩いている。


二つ目の動画。同じ男が、玄関に手をかけている。迷いのない動きだった。


「シーフ以外にも、こういうことする奴、いるんだね」


里美の言葉が、やけに遠く聞こえた。


尋志は何も言わず、同じ動画を繰り返し再生した。


何度も。何度も。


やがて、手が止まる。


そして、額に浮かんだ汗が一筋、頬を伝った。


「……シーフだ」


里美が顔を上げる。


「え?違うでしょ。体型も違うし、髪型も全然――」


「……いや、あいつだ」


言い切っていた。


体型が違う。髪型も違う。それでも、間違えるはずがなかった。


歩き方だった。


何十、何百と見てきた、あの動き。


「……あいつだ」


もう一度、小さく繰り返す。


保釈が通り、自宅に戻ったシーフ。その直後の映像だった。


現実とは思えなかった。


それでも、目は逸らせなかった。


尋志は画面を拡大し、細部を追った。


服装。記憶の中にある、押収品と重なる。


場所。一年間、歩き続けた町の景色。


見覚えがあった。


「……ここ、あそこかもしれない」


里美と二人で現地へ向かった。


ビンゴだった。


話を聞くと、この近辺で同じような被害未遂が続いているという。防犯カメラを設置していた数軒の家から、映像が共有され、あのメールになったらしい。


そして、その場所は――


シーフの自宅から、わずか百メートル。


もう、止まらない。


そう思った。


紗梨には連絡がつかない。弁護人が入り、接触を避けているのだろう。


それでも、このままにしておくわけにはいかなかった。


尋志は、紗梨の母を通じて再び接触した。


映像を見せる。


紗梨は無言で頷いた。


その時、シーフ宅から出てきた服装と、映像の男は完全に一致していた。


「……やっぱり、あいつか」


確信だった。


その後、裁判所で見たシーフの姿。体型も、髪型も、すべてが“整えられていた”。


だが、もう関係なかった。


あの動きを、見間違えるはずがない。


――これが、尋志が法廷で激昂した理由だった。


裁判の前、尋志は警察に相談していた。


だが、返ってきたのは冷たい言葉だった。


「あまりやりすぎると、あなたを逮捕することになりますよ」


一瞬、言葉を失った。


結局、この映像では警察は動かなかった。被害届も出ていない。


それだけだった。


「……最初から、頼るんじゃなかった」


小さく吐き捨てる。


逮捕までの証拠は、すべて自分で集めた。それでも――


何も変わっていなかった。


そして、判決の日。


下されたのは、懲役二年。


その言葉を聞いた瞬間、浮かんだのは安堵ではなかった。


自分の裁判が目前の保釈中の男が、自宅から石を投げれば届く距離で、同じ犯罪をしている。


――二年後。


あいつは、戻ってくる。


この町に。


そしてまた、渡邊一義は、“シーフ”になる。


確信だった。


戦いは終わっていない。


ただ、区切られただけだ。


長澤家は、この地を去った。


次回、最終話になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ