表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Thief  作者: がねちん
18/20

第十八話 お前は、嘘をついている

本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。

蝉の声が、耳に張り付くように鳴り続けていた。


尋志と里美は、裁判所に来ていた。シーフの二回目の公判を傍聴するためだ。


犯罪者は、自宅から裁判所に来て、終わればまた自宅に戻る。そして、後日の判決を待つ。


ーーなんだその仕組みはーー


初めて関わった現実は、あまりにも軽く見えた。


保釈金を払えば外に出られる。何もなければ、その金は戻ってくる。


納得できるはずがなかった。


裁判所の駐車場で、すぐに目に入った。


シーフの車だった。


犯行に使ったこともある車で、何事もなかったかのように停めてある。


その窓に、小さなステッカー。


——赤ちゃんが乗っています——


「……前、こんなのあったか?」


里美と目が合う。言葉にならない違和感だけが残った。


やがて、公判が始まる。


シーフが入ってきた。


一度もこちらを見ることなく、前へ進む。


何も感じていないような、その歩き方に、奥歯が軋んだ。


弁護人と検察官のやり取りが始まる。


検察官は、前科と余罪を並べ、淡々と罪の重さを積み上げていく。弁護人は、それに対してほとんど抗わない。


ただ、流れの中で言葉を置いていくだけだった。


そして、シーフが口を開いた。


「僕が泥棒に入ったせいで——」


その瞬間、空気が変わった気がした。


「長澤さん達には、大変ご迷惑をかけました」


——そんな言葉で済むのか——


「引っ越しをすると聞いています」


「損害も聞きました」


淡々と、並べる。


他人事みたいに。


そして、


「十分の一払ったら、示談してくれるそうなので——」


——なんだそれは——


思考が止まった。


自分達の都合の良い解釈。


「出所したら、払っていきたいと思います」


喉の奥が、熱くなる。


「出所したら、真面目に働きます」


「漁師に戻ります」


「妻のお腹には、双子の赤ちゃんがいます」


「もう二度と犯罪は犯しません」


——ふざけるな——


立ち上がりそうになるのを、必死で押さえた。


「俺にも喋らせろ」


声が出かかった。


飲み込む。


ここで声を出せば、終わるのは自分だとわかっていた。


それでも、


抑えきれなかった。


——子供ができたから何だ——


——こっちは、もう生まれてるんだぞ——


——お前に傷つけられてるんだ——


拳に力が入る。


爪が食い込む。


それでも、シーフは続ける。


まるで、用意された言葉をなぞるように。


その姿が、


どうしようもなく、気持ち悪かった。


公判が終わる。


外に出たところで、検察官と話をした。


求刑は三年。判決は、おそらく二年の実刑。


執行猶予はつかない。


淡々とした現実だった。


子供が生まれる時、シーフはいない。歩き始める頃も、いない。


普通なら、耐えられない。


——だが、あいつは違う——


そう思えた。


あいつは、全部嘘で塗り固めている。


家族にさえ。


——犯罪者に、同情はいらない——


その考えが、静かに根を張る。


帰り際、足を止めた。


振り返る。


裁判所の建物が、やけに遠く感じた。


「犯罪ってのは——」


言葉が途切れる。


うまく、まとまらなかった。


ただ一つ、残っていた。


あの時、なぜあそこまで怒りが込み上げたのか。


答えは、もう出ている。


あれは——


人の形をした、何かだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ