第十五話 前科
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
家族が食事を終え、風呂場から親子の笑い声が聞こえる時刻。
その頃、尋志はマンションの階段を登っていた。
先に到着していたシーフと妻は、車の中で泣いていた。取り返しのつかない事を、ようやく理解したようだった。
部屋に入れてもらい、尋志が最初に指示したのは、ゴールデンウィークに侵入した際に身につけていた物を全て出すことだった。
服、ズボン、靴、バッグ——。
首元のチョーカーのようなネックレスと、大きなボディピアスは、犯行時と変わらない装飾品だった。
Tシャツ以外は全て出てきた。シーフは「シャツは船にあるかもしれない」と言った。
(マズイな……)
それらは全て証拠になる。
警察に提出してくれ。尋志はそう伝え、自分では一切手を触れなかった。
だが、Tシャツが出てこないとなると、ダルマ丸に捜索が入る可能性がある。
そして尋志は、これまで心に引っかかっていたことを、シーフにぶつけた。
「家の中を見る限り、そこまで困ってるようには見えない。 それなのに、なんで泥棒なんかした?」
シーフは、うつむいたまま答えた。
「……遊ぶ金が欲しかっただけです」
あまりにも軽い答えだった。尋志は違和感を覚えたが、それ以上は追及しなかった。
「もうすぐ警察が来る。最後に一つだけ聞かせてくれ」
怯えきった様子で、シーフが顔を上げる。
「君さ・・前科ないか?」
わずかな沈黙のあと、シーフは答えた。
「……あります」「同じような事をして、捕まりました」
「やっぱりな……」
尋志は、小さく息を吐いた。
経験上、色んな人種を見てきた。
無理に苗字を変えたところが、尋志は引っかかっていた。
その直後だった。玄関の外が騒がしくなり、ドアが開く。
「は〜い、そのまま皆さん動かないでね〜」
場の緊張とは不釣り合いな、軽い口調だった。
先頭の刑事は、そのまま真っ直ぐ尋志に近づいてくる。
「はい、じゃあ質問ね〜。名前は?住所は?年齢は?職業は?」
その様子に、妻の里美が苛立ちを見せる。
「いや、お巡りさん。俺、犯人じゃないんだけど」
「え?……じゃあ誰が?」
尋志は、無言で顎をしゃくった。その先には、部屋の隅で震えているシーフの姿があった。
ほどなくして応援の警察官も到着した。その中に、見覚えのある顔があった。
近所の交番の警察官だった。これまで何度も、シーフが現れる時間に合わせてパトロールしてくれていた人物だ。
「あ……長澤さん?」
すぐに気づき、声をかけてくる。
尋志は軽く頭を下げた。
「すみません、勝手なことをしてしまって」
「でも、自分で掴んだ証拠で、自分で捕まえただけなんで……」
すると警察官は、穏やかに頷いた。
「そうですか。無事で良かったです」「今回は仕方ないですよ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
だが、もう一人の警察官は違った。
以前、シーフの妻の実家付近で顔を合わせたことのある若い警察官。
先に入ってきた警察官が、無機質な口調で言う。
「そっちの聴取、お願いします」
そしてすぐに、後から来た警察官が、尋志へと向き直った。
「名前は?住所は?電話番号は?」
(またか・・)
「あのさ……俺、犯人じゃねぇからな」
思わず声が強くなる。
警察官は一瞬だけ首をかしげ、そして思い出したように言った。
「あ……こないだ会いましたね」
その態度に、尋志も里美も、苛立ちを隠せなかった。
やがて一通りの確認が終わり、シーフは署へと連行されていった。その途中、長澤家に立ち寄り、犯人と共に現場の写真撮影が行われた。
その様子を見ながら、尋志の中で以前より考えていた一つの決意が固まっていく。
——行動に移すか・・
その後、長澤夫婦も署へ向かい、深夜まで調書作成に協力することになった。
だが、この出来事は終わりではなかった。
シーフの悪行は、まだ続いていた。




