第十三話 距離が消える時
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
ツツジが花開く頃
尋志は、ついにシーフと接触する決意を固めた。
タイミング、話し方、最初の一言――頭の中で何度もシミュレーションを繰り返していた。
その準備は、すでに始まっていた。
去年の暮れ。尋志は、ある頼み事のために後輩と会っていた。
八月、シーフが現れた際に撮影した顔写真。それをもとに、一枚のチラシを作成していた。
――この男性を探しています――
あえて「犯人」や「事件」という言葉は使わない。人探しの形式にし、連絡用のスマホを一台専用で用意した。
この番号に電話が来る=事件に繋がる。
そんな仕組みだった。
掲示板への掲示許可も取っていた。だが、交番の反応は微妙で、一旦保留にしていた。
まず、シーフの部屋の様子を確認する。
車はない。
だが、部屋の明かりはついている。
確証はない。
それでも――行くしかない。
インターホンを鳴らす。
尋志は階段で待機し、里美が先に出る。威圧感を与えないための配置だった。
ピンポーン。
現れたのは、シーフの妻・紗梨。
突然の訪問に、明らかに戸惑っている。
しばらく里美が対応し、タイミングを見て尋志が降りていく。
「突然すみません。少しお聞きしたいのですが――旦那さんはご在宅ですか?」
「今は出かけてますが……もうすぐ帰ると思います」
不安そうな視線。
尋志はチラシを差し出した。
「この男性を探しています。旦那さんに似ていませんか?」
紗梨はしばらく黙り込む。
「……似てるかもしれないけど、ちょっとわかりません」
「でも、腕の形は似てるかも……」
動画も見せる。反応は、やはり曖昧だった。
だが――
表情が、少しずつ変わっていく。
「この話は、一人で抱えられるものじゃありません」
尋志は静かに言った。
「今すぐ、お母さんに電話してください」
「三十分後、ご実家で話しましょう」
三十分後。
紗梨と母親は、すでに待っていた。
「旦那さん、せっかちそうですね」
「探しに来るかもしれない。時間がない。話を始めましょう」
ご近所にバレないよう配慮し、玄関の中へ入り、尋志は経緯を説明した。
紗梨は驚きながらも、どこか納得している様子だった。
――思い当たる節があるのだろう。
その時、母親がぽつりと口を開いた。
「あの子ね……うちが許可してないのに、うちの苗字を名乗ってるのよ」
その一言で、空気が変わった。
尋志は、わずかな違和感を覚える。
(アイツ……まさか?)
話が進む中、紗梨のスマホが何度も鳴る。
おそらく、シーフだ。
時間がない。確認すべきことは、まだある。
その時だった。
一台の車が、猛スピードで近づいてくる。
尋志は直感した。
(来たな……)
尋志と里美は、ついに対面する。
諸悪の根源――シーフこと、渡邊一義。
彼は、何を語るのか。
そして――尋志の懸念とは。




