第十二話 1%
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
桜も散り始める頃——
尋志は、あの男について調べていた。
漁師……。
メゾン・ダルマ。あの「ダルマ」は、船の名前だった。
求人情報を調べると、すぐに見つかった。
漁船ダルマ丸。
あのアパートは、漁師用の部屋。だから不動産情報に出てこなかったのだ。
来るたびに体型が違う。肌の色も、季節ごとに別人のようだった。
そして——三ヶ月ごとに現れては消える。
一度海に出れば、しばらく戻らない。
シーフが現れたのは、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始。
——すべて、陸に上がる時期だったのか?
ここまで繋がると、もはや偶然とは思えなかった。
だが——これだけでは、警察は動かない。
あと少し。決定的な証拠が必要だった。
「SNS……」
ふと、その言葉が頭に浮かぶ。
「あの妻のSNSに、何かあるんじゃないか……?」
尋志は、すぐに調べ始めた。
更新は少ない。だが、細かく辿っていく。
そして——
いた。
思わず、息が止まる。
写っていたのは、あの男だった。
ハンドルネームは、おそらく旧姓。全体公開のアカウント。
職業欄には——「ダルマ丸 船員」
間違いない。
さらに遡る。
ラーメンの投稿が並んでいた。店の名前、住所、メニュー、評価。几帳面すぎるほどの記録。
だが——証拠はない。
その代わり、名前と年齢がわかった。
渡邊一義。
まだ二十代。息子の将太と、そう変わらない年齢だった。
さらに調べていくと、別の動画に辿り着いた。
バイクをいじる映像。
「これは……?」
再生する。
エンジン音が響く。
映っているのは、後ろ姿だけ——
だが、その瞬間だった。
——見つけた。
最後の、残り一%。
あの日。初めて長澤家に侵入してきた時と、全く同じ服装だった。
茶髪のパーマ。ネックレス、ピアス。バックプリントのTシャツ。Gパンにスニーカー。
—— 一致した。
投稿は、ちょうど一年前。季節も同じだ。
この一ヶ月後、あの日が来る。
尋志は、さらに投稿を遡った。
「じゃあ……あの日は、何をしていた?」
年末。将太の財布から四万円が消えた日。
——あった。
思わず、拳に力が入る。
「この野郎……」
男は、犯行当日——寿司屋にいた。
料理の写真。メニュー名。金額。
すべて、丁寧に記録されている。
そして——
合計 約四万円。
将太の財布から消えた額と、ぴたりと一致していた。
「ふざけるな……」
さらに見ていく。
ゴールデンウィーク。お盆。
——同じように、寿司屋。
「なんで、お前らの寿司代を、俺たちが払わなきゃならないんだ……!」
怒りが、込み上げる。
この夫婦は、当時まだ新婚だった。
幸せのはずの時間。
その裏で——盗みを繰り返していた。
「……だが、おかしい」
尋志は、違和感に気づく。
服装。持ち物。食事。
どう見ても、金に困っている人間には見えない。
ダルマ丸は、この界隈でも大きな船だ。収入も、それなりにあるはずだ。
——なのに、なぜ盗む?
あの男には、まだ何かある。
そんな気がした。
最近、尋志のウォーキングに里美がついてくるようになった。
体の調子が良くない彼女に合わせ、コースも変えた。
かつてのパトロールは、日常のウォーキングへと戻っていた。
だが——
そのルートには、あの夫婦のマンションがある。
男がいるかどうかは、車を見ればわかる。
そして、決めた。
まずは——妻から接触する。
——ついに。
シーフを捕らえる時が、やってきたのだ。




