第十一話 辿り着いた場所
本作品は実体験をもとに構成していますが、プライバシー保護および演出のため、登場人物名・設定・一部の内容を変更したフィクションです。
つくしが顔を出し、桜が満開になる季節――。
尋志は、仕事で県東部にいた。
配送の仕事をしているため、配達エリアは県内と隣県全域に及ぶ。
いつもなら午後一には会社へ戻るが、この日は遅れていた。
「ふぅ……遅くなっちゃったなぁ。
今日は里美の誕生日だし、急いで帰って、予約していたケーキを取りに行かなきゃ」
時刻は、まもなく十五時。会社に着くのは十六時半。その後、ケーキや食材の買い出しもある。
尋志は、この後の予定を頭の中で組み立てながら、ハンドルを握っていた。
思えば、この十ヶ月。
シーフのことで時間を取られ続け、気が休まる日はほとんどなかった。
特に、あの男が乗っていた車。
色も年式もよくあるタイプで、同じ車種とすれ違うことは珍しくない。
それでも、ナンバーだけは記憶している。
以来、似た車とすれ違うたびに、ナンバーを確認する癖がついていた。
「また、あの車が来たな……」
「……っ!?」
視界に入った車に、尋志は思わず息を呑んだ。
「……えっ……」
「今のは……あの男……だよな?」
すれ違った車の運転席。
そこにいたのは、間違いなく――あの男だった。
ナンバーだけではない。
顔も、はっきりと見えた。
「なんで、こんなところに……」
「しかも、一人で……」
ここから、自分の住む町まではおよそ百キロ。
あまりにも不自然な距離だった。
混乱しかけた思考を、尋志はなんとか押さえ込む。
仕事柄、出先で知り合いと偶然会うことはある。
だが、これは違う。
あまりにも出来すぎている。
まるで、狐につままれたような感覚だった。
――落ち着け。
自分に言い聞かせ、状況を整理する。
こちらは大型トラック。
Uターンして追うことは不可能だ。
男が向かった先は、この先の分岐路のどちらか。
一方は、ダイビングスポットへ続く道。
この時間に、一人で向かうとは考えにくい。
もう一方は――漁村へ抜ける峠道。
地元の人間がショートカットに使う道だ。
「あの村に、誰かいるのか……?」
「それとも、あそこが地元……?」
考えを巡らせていると、会社から翌日の配車表が送られてきた。
確認した尋志は、小さく息を吐く。
「よし……」
翌日は、このエリアの配送。
多少遠回りにはなるが、早めに出れば一時間ほど時間が取れる。
確証はない。
だが――ここまで何度も引き寄せられてきた。
ならば、今回も。
そう思わずにはいられなかった。
翌日。
尋志は、トラックを停められる道の駅に車を入れた。
大きな村ではない。
――アパートを探して、車がなければ諦める。
そう決めて、歩き出す。
しばらくして、道の駅の近くにあるアパートへと辿り着いた。
スマホで地図を確認しても、この周辺にはほとんど物件がない。
――ここか。
駐車場へ目を向けた、その瞬間
――あった。
あの男の車だ。
あの時と同じように、カバーがかけられている。
そうか、自宅でもカバーをかけていたのは、この習慣があったからか。
ここは港町、塩害がある。
「コーポ・ダルマ」
古びた看板には、旗のロゴが描かれていた。
ふと、車の配置に違和感を覚える。
三台の車に覆いかぶさるように、その車は停められていた。
しかもカバー付き――しばらく動かさないつもりなのだろう。
つまり、他の車は出せない。
「……?」
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
――相手は、ただの男じゃないかもしれない。
ここにある車は、全て仲間の可能性が高い。
もしかすると、組織的な犯行――そんな考えが頭をよぎる。
嫌な予感がした。
尋志は、そっとスマホを取り出し、写真を一枚だけ撮ると、その場を離れた。
これ以上は危険だ。
時間もない。
一度、整理する必要がある。
帰路についた後も、尋志は撮影した画像を何度も見返していた。
防犯カメラを確認するときのように、細部まで目を凝らす。
同時に、「コーポ・ダルマ」をネットで検索する。
だが、不動産情報には一切出てこない。
「こんな小さな漁村に……何しに来てるんだ?」
「しかも、集団で……怪しすぎるだろ」
画面を見つめながら、呟く。
そのとき――
「……ん?」
違和感が、引っかかった。
「待てよ……漁村……?」
次の瞬間、頭の中で何かが繋がった。
「そうか……」
「俺って、なんて鈍感なんだ」
「あのロゴ……大漁旗だ……」
「――あの男、漁師だったんだ」
点と点が、線になる。
これまでの疑問が、一気に繋がっていく。
そして――
尋志は、残りわずかな“最後の証拠”へと辿り着くことになる。




