幸せのアルカロイド(4)
とある日の仕事の後、ヨナはそれとなくライラから呼び出され、街の中心部から少し外れた飲食店に足を運んでいた。
「ごめん。途中で人助けしてて、ちょっと遅れちゃった」
「大丈夫よ。いつも通りにお人よしね」
ヨナは笑って誤魔化しながら席に着く。
実際のところは、彼女は一度ロベリアの元まで足を運んで、身の回りの世話を一通り済ませてきていた。
「それにしても、珍しいね。二人で話そうだなんて」
「そうね。まあ、世間話…とは、少し違うかもしれないけれど」
ライラはそう言って、少し高いテーブルに頬杖をついて、少し言葉を選ぶように視線を外す。
ヨナとライラは騎士団全体で見ても数少ない女性隊員だったが、それまでは特別仲がいいわけでもなく、かといって悪くもない、ほどほどの距離感を持った間柄を保ち続けていた。
仲間としての信頼は厚く、互いの人間性を認めてもいたが、単純にヨナはエドに頼りきりで、他の誰かに悩みを打ち明けたことがないだけ。
それが今になって、ヨナは縋る思いでライラとの距離を縮めようとしていた。
それが何故かと言えば、無論ロベリアに起因する。
彼女の正体を明かすとまでは言わずとも、断片的に、少し嘘を混ぜてでも、最近自身の身に起こった話を相談できる相手を求めていた。
ライラも、ヨナのここ最近の様子については気にかけていた。
周囲からは『優秀』と評されるヨナだったが、実際のところ、彼女が精神的にエドに依存していたことは、騎士団の面々は皆気が付いている。
『鉄人』と揶揄すらされているエドとは異なり、いつも心の拠り所を誰かに求めている彼女が、ここのところは塞ぎ込むようになっていた。
彼女は話の切り口を探しながら、もごもごと言葉を選ぶ。
「最近、さ。ヨナは、リトとは話してないの?幼馴染なんでしょ」
「え?うん、と、そうだね。そういえば、あんまり話してなかったかも」
「そうなんだ。まあ、彼、こっちから話しかけないと喋らないもんね。昔からそうなんでしょ?」
「うん、根っからの引っ込み思案だからね。エドが居なかったら、龍騎士も目指してなかったと思うって、当人も言ってたし」
普段あまり目立とうとしないリトが、ヨナやエドと幼馴染であったことはあまり知られていない。
彼の話よりも、エドの名前が出たことを皮切りに、ヨナは少しずつ口数を増やした。
「リトはね、エドの弟みたいにいつも後ろを着いて歩いてたんだよ。今になって思い出すと、ちょっと可愛かったかも。今は、あなたと一緒に居ることが多いよね」
「ん、そうね。魔導書の書庫で居合わせることが多いから、その流れで魔術の話をしたりはする」
「そっか、二人共、魔術の系統は同じだもんね。あと、彼って本の虫だから、一般の書物庫でもよく見かけるんじゃない?」
「うん、見かけはするよ。大概は読み物に夢中だから、無闇に話しかけたりはしないけどね」
「リトらしいね」
そう言って、ヨナは悪戯っぽく笑った。
最初はそうして、騎士団に入ったきっかけやら、出身地の話やらをしつつ、若干の距離感と気まずさを感じるような対話を続けていた。
それから、彼女達の卓に食事が運ばれてきて、一通り口をつけ終えたあたりから、ライラは次第に砕けた口調になり始めた。
「―――ねえ、さっきの店員さんさ。絶対ヨナのこと変な目で見てたよ。顔じゃなくて、そのちょっと下見てた。次同じとこ見てたら、頭つついてやろうかしら」
「あの、ライラ。顔、赤くなってない?気のせいか、酔ってるように見えるんだけど。お酒なんて、頼んでたっけ」
「頼んでないよ。私、お酒苦手だし。それより、さっきのサイドメニュー、美味しかったからもう一回お願いしよう?」
彼女は否定する割には呂律の回りが悪くなっていて、振る舞いも完全に酔っ払いのそれになっている。
試しにヨナが彼女の飲み物に口をつけると、それは明らかにアルコールの味がしていた。
「やっぱりこれ、アルコール入ってると思うよ!?間違えて注文したんじゃ…いや、間違えたの私かな!?ごめん!」
「間違えてないよ、大丈夫よ、ヨナ。これ美味しいから、あなたの分も次頼みましょう」
アルコールの味がわからないライラは、何の迷いもなくその甘い酒を半分近く飲み干している。
「ちょ、ちょっと。コレ、残りは私が飲むから。店員さん、すみません、お水をお願いします」
「ちょっと、取らないでよ私のジュース!」
「こら、やめなさい!」
つい最近の癖で、ヨナは親のような口調でレイラの酒を没収しようとする。
「もう、分かった、分かったわよ。お酒なのね、それ。じゃあ、おかわりはしないから、その一杯は私に飲ませて頂戴。初めて美味しいと思うお酒に出会えたんだから」
「う、大丈夫?明日頭痛くなるよ、ゆっくり飲んでね」
「大丈夫よ、大丈夫。だって…大丈夫だから」
「駄目な気がする…」
ヨナは心配そうな顔をしながら、グラスをライラに返した。
彼女はほんの少しお酒を口に含んだ後、テーブルに突っ伏して顔だけをヨナに向けながら、流れるように質問を投げる。
「ていうかさ、ヨナ。あなたって、エドのほかに友達いるの?」
「ほっ…!?」
突拍子の無い質問に、ヨナは絶句しながら明後日の方向に視線を逸らした。
「いないんでしょ、見てたらわかるもの。エドにばっかりくっついて行動して、何があってもエド、エドって。あなた最近、見るからに顔が暗いのよ?普段は人間関係に疎いジルコでさえ気を遣ってるんだから、何かあるなら相談しなさいよ」
「あっ、あっ…」
突然図星を突かれた彼女は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まって遠くを見ている。
「友達候補なら、いつも目の前にいるじゃない。なのに、いつまでたっても、ちっとも話しかけてこないで。私だって、ちょっとくらいは、こうして話したくなる時くらいあるわ。声かけてよ」
「…」
彼女は手痛い指摘を受けて苦笑いしていたが、その中に垣間見えるライラの本音に、少し喜ぶような表情も見せていた。
そのヨナの顔を見てか、ライラは恥ずかしそうに取り繕う。
「他に、相談する相手が居るのならいいけどね。でも、こういう時に愚痴を聞くぐらいだったら私にもできるんだから、遠慮なんてしないでよ」
「あ、えっと、うん。ありがとう、ね」
ライラは、全て言い切ってから、先程よりも一層顔を赤くして視線を逸らした。
「で、あなたが今悩んでることって、私たちに話せることなの?それとも、もう少し時間が必要なこと?」
「…えっと」
縋る気持ちはあれど、何から話せばいいかを決められていない彼女は言葉に詰まる。
下手に話せば悪い巻き込み方をするような気がしたヨナは、咄嗟に口を噤んで言葉を濁した。
「もう少し、時間が要ること、かな」
「…そう、分かった。じゃあ、今日はもう詮索しない」
そう言って、ライラはまたグラスの酒を口に流し込む。
「言っておくけど、あなたは自分で思ってる以上に隠し事が下手だからね。何か言わなきゃいけないことが有るんだったら、早めに言っておくこと。じゃないと、私は良くても、ジルコが口から火を吹くからね」
「あ…はい。気をつけます」
その答えを聞きながら、ライラはグラスに残った最後の一口までその胃袋に流し込んだ。
「やっぱり、もう一杯頼もうかしら」
「駄目!もう駄目、帰りますよお客さん!」
そう言って、ヨナは慌てて店員を呼んで、退店することを伝えて会計を始める。
そんな彼女の焦りを他所に、ライラは「胸ばっかり見るんじゃないっ!」と言って、ヨナと向かい合っていた店員の頭を突いたりしていた。
店員の表情に曇りが見えたところで、ヨナは「すみません、すみません」と言いながら、彼女の手を引っ張ってそこを後にした。
日は落ち切っていて、街灯が照らす大通りの賑わいの中を二人は歩いて行く。
ヨナに手を引かれながら歩くライラは、そんな中でもうわ言のようにずっとヨナに話しかけ続けていた。
「エドがね、言ってたの。ヨナはみんなが思ってるほど強い人じゃないから、ちゃんと周りが支えてあげてって。でもはっきり言うときっとへそを曲げるから、こっそり助けてあげるんだよって」
そう開けっ広げに話すライラに、ヨナは思わず吹き出す。
「ぷは、そんなこと言ってたの?あのすまし顔、自分だって同じなのにどの口で言うんだろうね」
「リトもジルコも、同じこと言ってたよ。『お前が言うな』って。それに、『わかってる』とも言ってた」
面白そうに笑って、ヨナは星の見えない夜空を見上げる。
「わかってるって―――私の性格のこと?」
「そう」
少し息を吸い込んで、彼女はゆっくりと瞬きをする。
「まあ、そっかぁ。私、皆に心配かけちゃってるかぁ」
「そうよ。皆、あなたの事をちゃんと見てるし、ちゃんと大事にしてるの」
「うん」
少し複雑な顔で、ヨナはそのまま視線を下げた。
「私は別に、エドみたいに『完璧になりたい』って思ったわけじゃないんだけどね」
「…そうなの?私はずっと、あなたが彼の隣に並べるように頑張ってるんだと思ってた」
「そうだけど、ちょっと違うの。私は、昔から気が弱かったから。いっつもエドにもリトにも面倒を見られるような、頼りのない子供でね。だから、いつかはそんな頼りない自分を終わりにして、助けられるのはやめにして。彼と同じ側に、人を助ける側に立たなきゃって、そう思ってただけなの。―――この力を持って、生まれたんだから」
彼女は自身の額にある双角に触れる。
ライラは赤い顔のまま、真剣な目で、ヨナの顔を横から覗き込む。
「それってつまり、同じことな気がするけどね」
「ううんとね」
ヨナは首を横に振る。
「完璧じゃなくて、よかったの。ただ、龍人として、騎士として一人前だって言ってもらえればそれで満足だったんだけど―――」
「憧れた相手が、偶然、完璧超人だった?」
あは、と笑ってヨナは頷く。
「そう、そういうこと。数少ない比較対象が彼だったから、それが普通なんだと思って真似してるうちに、こんな面倒な性格になっちゃったの。リトも優秀だったから、猶更ね」
「恵まれてるんだか、運が悪いんだかわからないわね」
「ほんとにね」
ライラは、ここ最近見ていなかったヨナの笑顔を見て一先ずは安心したようで、少し眠そうな目で彼女を見つめて微笑みを浮かべていた。
「ヨナは、きっといい子過ぎるんだね。人の為に、どこまでも気張って、頑張っちゃう性格なのは、生まれつきな気がするよ。…それが行き過ぎて自分を苦しめないように、たまには私にも話を聞かせてよね」
「うん、ありがとう。ライラも、何かあったら聞かせてね。今日は呼んでくれてありがとう、楽しかった」
「うん」
それじゃあ、とお互いの手を離して、帰路に着こうとする一歩手前。
ヨナは、あ、と何か言いたそうにした後、またすぐに口を噤んで、呼び止めようとしたその手を何も無かったかのように降ろした。
「何か、言っておきたいことがある?」
「…ううん、いいの。気にしないで」
「…」
お互いに、この機会を逃したらもう次は無いような気がして、黙り込んで相手の目をただ見つめる。
「ねえ。私、ちゃんと聞くよ。今言いかけたこと、教えてよ」
「…」
道の端の、何もない場所を見つめたままで、ヨナは何かを考え込む。
しばらくの間を置いて、ヨナは、ゆっくりと、口を開いた。
「あの、ね。私」
その言葉の続きを待つことは無く。
彼女の背後から聞こえた爆発音が、街の喧騒を悲鳴に変えて。
怪我人の叫び声が、騎士団の助けを求める市民の声が、ヨナに差し伸べられた救いの手をいとも容易く遮った。
◇ ◆ ◇
「各員、怪我人の状況を確認!周囲に不審人物が居ないか、トラブルが起きていないか確認に回れ!」
あっという間に駆け付けた騎士団員達が、迅速に事態の収束に向けて動き出す。
その場に居合わせた龍騎士の二人は、丁度良かったと言わんばかりに周辺の調査にあてがわれた。
「爆破地点は無人の家屋内。死者は居ないが、爆風や跳んできた破片で怪我をした民間人が多数、至急手当てを」
他の団員がそう話すのを聞いて、死者が出ていないことに一旦胸を撫で下ろす二人。
「魔女教徒の仕業かな」
「そうでしょうね。この間の、ガランサス捕縛の時の残党かも」
そう話すライラの顔は、先程と比べて異様に青ざめている。
「…大丈夫?」
「正直、きついかも」
「タイミングが悪かったね…」
普段はしない飲酒、それもかなり悪酔いをしていたタイミングで驚かされたライラは、露骨に体調を崩してヨナに寄り掛かっていた。
「この時間なら近いうちにリトが応援に来るはずだけど―――私、辺りを走って様子を見てくる。魔術で起爆したにしても、それなりに近くに術者は居るはずだから」
「…うん」
ライラを縁石に座らせて、その場を去ろうとするヨナに後ろから声がかかる。
「ヨナ」
「うん?」
「さっきの話の続き、後で聞かせて。私、聞くからね」
「―――うん。ありがとうね」
ヨナは嬉しそうな顔を見せてから、近隣の建物の屋上へ、また隣の屋上へと飛び移るようにその場を後にした。
十分ほど辺りを探し回っても、特に怪しい動きをしている人物は見当たらない。
心の隅でずっとロベリアのことを心配しつつも、二回目の爆発が無いとも言い切れない今、ここから離れた小屋までわざわざ戻るわけにもいかなかった。
「…駄目ね、そろそろライラの所に戻らないと」
これだけ時間が空けば、もう既に犯人の追尾は不可能に近くなる。
魔術の痕跡をくまなく探しながらも、ヨナは元居た爆破地点付近まで戻ろうとした、その時に。
彼女は視界の端に見えた人影に反応して、ふと足を止めた。
「…あの先に道はない筈」
一瞬だけ見えた、行き止まりの筈の路地裏へと姿を消した誰か。
周囲の目を盗んで一体何をしようと言うのか、それを突き止めるべくヨナは音を立てないようにその路地裏へと近づいた。
「…」
ゆっくりと覗き込んでも、日が落ちた今、その路地裏は真っ暗で殆ど何も見えない。
彼女の龍の目であれば多少の暗視能力もあるが、見た限りでは誰かが居るようには見えなかった。
「おかしいな、確かに誰か」
そう言いかけたその時、彼女の頭の後ろで、何かを呟くような男の声が聞こえた。
咄嗟に振返ると、背の低い男が路肩の木箱に乗って、彼女を見下ろすようにして右手を向けている。
すぐさま剣を抜いて戦闘態勢を取ろうとした彼女だったが、催眠のような術を掛けられたのか、立ち尽くしたまま動くことはできなかった。
「…騎士団員。それも龍人。我は今機嫌が悪い、あまり邪魔をしてくれるな」
その男は、身体に合わない大きなサイズの上着を纏い、被ったフードからはぼさぼさに伸びた髪の毛を覗かせてこちらを睨んでいる。
「あなたは…」
「質問に答えること以外、発言は許さぬ。命令、貴様はこれから我の質問にのみ答えろ」
その言葉自体に術としての効果があるのか、ヨナは縛られたように喋ることも出来なくなる。
「貴様は、先日の魔女教徒の大量検挙に関与しているか」
「…はい」
徐々に催眠は強くなり、ヨナは無意識に質問に答え始める。
「端的に答えろ。我が兄、ガランサスは何処にいる」
「…」
ヨナは、虚ろな目のまま小さく首を傾げる。
ニヴァリスは、聞こえるように舌打ちをした。
「なら、冥界の箱は何処に隠した。地下牢か、城内の宝物庫か」
「知らないわ」
「貴様、ガランサス・マグスのことを知らぬのか」
「知ってるわ。でも、何処にいるかは、答えられない」
「何故だ」
「…だって。彼、牢の中で死んでしまったんだもの」
彼は大きく目を見開く。
「ふざけるな、ふざけるな。貴様らが殺したのか、愚か、愚かだ!正義を騙る貴様らが、国の頭が、自ら人類の進歩を阻むなど、あっていい筈がない」
まだ意識が朦朧とするヨナに再度彼は術を掛けて、もう一つ告げる。
「爆破地点、西側の机の下にニヴァリスからの通告を置いてある。それを必ず王族にまで届けろ。さもなければ、次の爆破では死者が出ることになる」
「はい」
ニヴァリスが手を叩くと同時に、ヨナの瞳は光を取り戻す。
意識が戻ると同時、まだ視界もはっきりとしないうちに、ヨナは必死に腕を前に伸ばして彼を確保しようとしたが、その頃にはニヴァリスは姿を消し去っていた。
「…西側の机の下」
魔女教徒から伝えられた、通告の在り処。
本来であれば、龍騎士としてすぐさまそこへ向かい、彼の意図を知らなければならないその局面で。
ヨナは、どうしても、小屋でずっと待ち続けているロベリアのことが心配になって、仕事どころではなくなってしまっていた。
「ロビィ」
直前まで洗脳魔術を受けていた影響で、足取りもおぼつかない状態。
そんな中で、ヨナは脚を引き摺るようにして、ロベリアが待つ小屋へと歩き始めた。
「…ヨナ。おかえり、大丈夫?」
特に困った様子もなく、ぬいぐるみと遊んでいたロベリアは、帰って来たヨナの様子を見るや否や、心配するように彼女に駆け寄った。
「ロビィ、怪我はない?大きな音、怖くなかった?」
「…?何も、こわいことはなかったよ。大きな音は、聞こえた気がするけど」
「…そう、それならよかった」
ロベリアは、何が何だかわからない、という様子でヨナの顔を覗き込む。
ヨナは、へたり込むように視線を落とすと、そのままロベリアを抱きしめるように覆いかぶさった。
元気のない彼女の様子に、ロベリアはいつも自分がしてもらっているようにヨナを抱きしめ返す。
「大丈夫、大丈夫。こわくないよ、私がいっしょにいるよ」
「…うん、うん。そうだね、ありがとう、ロビィ」
今にも泣きだしそうな表情で、ヨナはそのまましばらくロベリアに頭を撫でられ続けていた。
それから、しばらくして。
「ごめんね、また少し居なくなるけど、すぐ帰って来るからね」と告げたヨナは、また小屋を後にして爆破事件の現場まで戻ることにした。
「怪我しちゃだめだよ。早く帰って来るんだよ」
まだヨナの真似をしているつもりなのか、ロベリアは母親のような口ぶりで彼女を見送った。
爆破地点の建物の中には、ニヴァリスが告げた通りに、パリの王族へと向けた通告―――もとい、脅迫文が置かれていた。
その内容は、まだガランサスが存命している前提で書かれた、獄中の魔女教幹部の解放要求。
それに加えて、初めて聞くような名前、『冥界の箱』を返せという、彼女達には意味の分からない要求が記載されていた。
そして、それに応じなければ、また同じように街のどこかで爆破事故が起きる、と。
今度は、死傷者ゼロとはいかない、という脅し文句がつらつらと並べられていた。
ヨナが出会った黒ずくめの男、ニヴァリスの捜索は連日行われたが、龍人部隊全員の力を持ってしても、彼を見つける事は叶わなかった。
それに比例して、ヨナの心の奥に降り積もる、得も言えぬ不安は大きくなっていく。
これから、もっと悪い事が起きるのではないかという不安。
それは、決して彼女の気のせいではなかった。




