↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/9

聖女の願いと灰色

こちらの小説は資料集め(名称、文化、世界観の参考)及び誤字脱字チェックにAIを利用しております。

ご注意ください。





 コンコンコン。


 ドアをノックする音で目を覚ます。

 あれから私はどうなったのか。

 最後の記憶は赤い髪の男の後ろ姿。


「っ! トリーテ様っ!」


 勢いよく起き上がろうとしたが、途中で力が抜ける。


「……ペルティ? 目が覚めたのですか」


 すぐ横からどこかぼやけたようなトリーテ様の声が聞こえる。

 寝起きの声だ。

 どうやら、安心して眠れる場所にいるらしい。


「まだ寝ていてください。輸血をしましたが、まだ十分ではありません」

「あれから、どうなったのですか」


 トリーテ様は答えるように体を起こした。

 その先には、赤色の髪のいけ好かない男がすやすやと寝息を立てていた。


「また、助けられたのですね」

「ええ、それどころか……あなたを救うため血を分けていただきました」

「そんな……それはどれだけ感謝しても足りませんね」


 コンコンコン。

 再びドアがノックされる。


「簡単な食事を持ってきたよ、お腹は空いているだろう」

「今開けますね」


 トリーテ様がどこかぎこちない動きで立ち上がるとよたよたとドアへと向かう。


「はい、どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 ドアの先には品のいい灰色の髪の男性が立っていた。

 腰にぶら下げた鍵を揺らしながらお盆いっぱいに乗せられた白パンとスープをテーブルに並べていく。


「おや、金髪の子も起きたんだね。助かってよかった、私も手伝った甲斐があるってもんだ」


 恩人には礼をしなければと、再び起き上がろうとするがやはりうまくいかない。


「無理に起き上がらないほうがいい」

「……ありがとうございます」


 テーブルに並べられていたスープの入った器を持って、トリーテ様がベッドの端に座る。


「今は少しでも食べて回復に努めてください」


 恐れ多くも、首すら上げられない私の口元にスプーンを差し出す。

 これまでであればありえない状況だが、病人を前にしたトリーテ様には逆らえない。

 私は心から感謝しながら口を開いた。


「それじゃ、またあとで食器を片付けに来るね」


 私たちのやり取りをほほえましく眺めていた男性は、鍵束をジャラジャラと鳴らしながら部屋から去っていく。

 名前を聞きそびれてしまった。


「今の方は……?」

「この宿の主人で、ダルヴィン様はおやっさんって呼んでました」


 主従そろって名前を聞けていないとは、起き上がれるようになったら改めてご挨拶をしなければ。




 ほのかに漂ってくるいい香りにむくりと起き上がる。

 隣を見れば、聖女様が金色にスープを飲ませていた。


「よう、どうにかなったみたいだな」

「ダルヴィン様! 起きて大丈夫なのですか」

「ああ、ちょっとふらふらするが……心配されるほどじゃねえよ」


 椅子に座り、並べられた白パンを手に取って口に運ぶ。

 ほのかに甘く、やわらかい。

 それなりの格式の宿屋なだけあって部屋に運ばれてくる食事でさえ旨い。


 半分ほどパンを食べたところで2つおかれているスープの入った器を1つ手に取ってそのまま口に運ぶ。

 具も多い、いくつかの根菜に葉物、豪勢なことに鶏肉まで入っている。


「ふう、この味を楽しめるのもあと数日か」


 金色にスープを飲ませ終えたのか、聖女様は空になった器をテーブルに置き、深々と頭を下げた。


「ダルヴィン様、この度はありがとうございました。あなたのおかげで私もペルティも無事に街へ着くことができました」

「いや、礼を言うのはまだ早い」


 きょとんと不思議そうにこちらを見てくる聖女様をしり目に、残っていたパンを一口で頬張る。


「まだ早い、とは……どういうことでしょう」


 十分に味わってから飲み込んだ。


「乗り掛かった舟だ。少なくとも聖女様を守れる奴のところまで俺が護衛してやるよ」

「それは、願ってもないことですが。よろしいのですか?」

「ああ、と言っても送り届けたらそれなりの礼はしてもらうがな」


 親指と人差し指の先を合わせて輪を作る。

 納得したのか、聖女様は大きくうなずいた。


「はい! もちろんお礼はさせていただきます」

「よし、商談成立だ」

「それでは、お願いいたします」


 聖女様も椅子に座り、残った器に手をかけた。


「あ、おいしいですね」

「だろう、宿はケチらないに限る」

「ケチるとおいしくないんですか?」

「そうだな、悪いところだと固い黒パン2個とかだ」

「パンが黒いのですか?」


 箱入り娘とはこのことか。

 黒パンなんぞ口にしたこともないのだろう。


「ああ、そして固い」

「それは食べづらそうですね」

「だからスープに浸して食べるのさ」

「皆さんにとってはそれが普通なのですね」


 自身が恵まれていることに聖女様は何を思うのか。


「なぜ、富や地位で差が生まれてしまうのでしょう」

「そりゃ簡単だ」

「そうでしょうか」

「ああ、うまいもんは高いってことだ」


 何がおかしいのか、聖女様はコロコロと笑う。


「そうですね、そうかもしれません」

「で、聖女様はどこに向かう予定だったんだ」

「そういえばお伝えしておりませんでしたね。最初の目的地にはすでに到着しているんです」

「そうなのか?」

「はい、最初の目的はここ、フォンディーに住んでいる元大司教のカウポルス・ヒーロ様に会うことですから」


 はて、カウポルスとはおやっさんの名前じゃなかったか。


「その大司教様はどんな人なんだ」

「分かっているのは少し特徴的な髪色だけで、灰色の髪色をしているそうです」


 おやっさんも灰色の髪の毛だな。

 となると『ゆけつ』とやらを知っていたのも説明がつきそうだ。


「落ち着いたら探しに行かなければ」

「いや、たぶんだけど探す必要はなさそうだ」


 ジャラジャラと音を立てておやっさんが階段を上る音が聞こえてくる。


「おやっさんって呼んでるけどな、名前はカウポルスっていうんだよ」


 コンコンコン。


「そろそろ食事は終わったかい?」


 ドアの向こうからおやっさんが問いかける。


「ああ、もう終わるから入ってくれ」

「お邪魔するよ」


 だが、その姿は見慣れたものではなかった。

 細かな刺繡の施された白いローブにジャラジャラと音を立てる金の装飾の施された杖。


 そこには宿屋の店主ではなく、まごうことなき大司教として、カウポルスが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。