赤色の屋根の元
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ご注意ください。
獣道を抜け、街に入り、宿に着いたのは1時間後。
背中の金色は徐々に呼吸が弱々しくなってきているように感じる。
宿のドアを開けるとカウンターに座っていたおやっさんが出迎えてくれた。
「おや? 美人を2人も連れてどうしたんだい」
「おやっさん! 獣道で魔物に襲われてるのを助けたんだ、背中のこいつはケガしてる」
「それは大変だ。お湯とタオルを持っていこう、ダルヴィンは先に部屋まで向かうといい」
宿『ヒーロの赤屋根』の主人、カウポルスは腰に下げた鍵をジャラジャラと鳴らしながら俺の部屋の鍵を取り出すと、両手のふさがっている俺ではなく聖女様へ差し出した。
「受け取ってくれ」
「は、はい!」
差し出された鍵を前にポカンとしていた聖女様に声をかける。
無事に鍵を受け取ったのを確認するとおやっさんはジャラジャラと鍵を揺らしながらカウンターの奥に引っ込んでいった。
「それじゃ、ちょっと待ってておくれ」
部屋は3階だ。
カウンターを抜けて階段へ進む。
部屋に入り、丁寧に清掃されているベッドに金色を寝かせると毛布に包む。
呼吸はしている。
「ダルヴィン様、炎の魔法が使えるようですが得意属性は火で合っておりますでしょうか」
「ああ、むしろ火以外はからっきしだ」
「そうですか」
俯きながら問いかけてきた聖女様がどこか覚悟を決めたように顔を上げる。
「ペルティを助けるため、ダルヴィン様の血をいただけないでしょうか」
「……は?」
今、この聖女は何と言ったのか。
「今、ペルティは血が足りず弱っております。そこで類似した属性の魔力を帯びた血を分けてもらえれば回復させることができるのです」
「そんなことができるのか?」
「はい。どうか、お願いします」
確かに、重い病に侵された人は悪い血を捨てて神聖な血を入れることで回復すると聞いたことがあるが、どう考えても俺の血は神聖なものではない。
「俺の血でいいのか?」
「むしろ、この場にいる中ではあなたの血でないといけないのです。私は水属性に適性が強く、ペルティの属性とは相性がいいとは言えませんから」
「そういうもんなのか」
つい先ほど、聖女様の治癒術は体験したばかりだ。
「はい。信じられないかもしれませんが、今は一刻を争います。どうか、あなた様の血液を分けてください」
今にも泣きそうな顔で、今度は勢いよく頭を下げる。
「分かった」
その姿に思わずうなずいてしまった。
一体どれぐらい血が必要なのか、俺に危険は及ばないのかなど確認することはもっとあるだろうに。
「ありがとうございます!」
満面の笑みでこちらを見上げてくる聖女様を見ていると、どうでもよくなってしまう。
深入りはしないつもりだったはずなのにな。
「それで、どうすればいい」
「腕をまくって、ペルティの隣に寝てもらえますか」
「分かった」
言われた通り、両腕の袖をまくりペルティの横に寝そべる。
これからなにが行われるのかと思案していたところで、ジャラジャラと音を立てながらおやっさんが上がってきた。
「お待たせ、お湯とタオルだよ。何か手伝えることはあるかい」
「ありがとうございます。それではペルティの……この子の腕を拭ってもらえますでしょうか」
「お安い御用だが、なぜダルヴィンも寝ているんだい?」
「なんでも俺の血を分けるんだとよ」
俺自身もよくわからないまま血を分けることになっているのだ。
おやっさんも驚いたように目を見開いた。
「なるほど、この子は火に近い属性の魔力を持っているんだね」
「分かるのか?」
「これでも、サクア教徒の端くれだからね。簡単な治癒術ぐらい使えるよ」
「では、手伝いをお願いできますか」
いつの間に生成したのか、手に氷でできた針を持った聖女様が俺と金色の足元に立っていた。
「輸血を行うんだね、分かった片方の針を押さえておこう」
「はい。お願いします」
『ゆけつ』とは何だろうと考えていた俺の腕に、そっと聖女様の手が添えられる。
「少しちくっとしますけど、動かさないでくださいね」
冷たい氷の感触の後、するりと針が俺の腕に入る。
冷やされているせいか、不思議と痛みがない。
「ではこちらを押さえていてください」
「心得た」
聖女様は金色に向き直ると俺に刺した針とつながっている反対側の針を金色の腕に差し込んだ。
「行きます」
つながっている氷の中を俺の血液が流れていく。
「どうなっているんだ」
刺された時点では血が抜かれていくようなことはなかったはずだが、今は抜かれていっている。
「もともと、穴の開いていなかった氷の針に後から穴をあけて血液だけを送れるようにしているのさ」
「なんで、ややこしいことしてるんだ」
「血と空気が混ざっちゃダメなんだよ」
「そういうもんか」
目を瞑り、集中している聖女様の代わりにおやっさんが答えてくれる。
ほどなくして、俺の血が金色の腕に到達した。
そのままどれぐらいたっただろう。
金色の顔色に赤みが戻ってくる。
「そろそろいいでしょう」
「ダルヴィンのほうは私がやりましょう」
「お願いします」
おやっさんの手が腕に当てられするりと針が抜き取られる。
抜かれた後、血は流れなかった。
「終わったのか」
「はい、もう大丈夫でしょう」
ばたん、と俺と金色の間に倒れこんだ聖女様は眠そうに答える。
「そいつはよかった」
「ダルヴィン様、本当にありがとうございました」
疲れもあるのだろう。
お礼を言い終えるかどうかのところで聖女様は静かに寝息を立て始めた。
「それじゃ、私は夕飯の用意をしてこよう。後で簡易ベッドを持ってくるから休んでいるといい」
「頼む、俺もすぐには起き上がれそうにない」
「後で声をかけるよ」
ジャラジャラと鍵を揺らしながらおやっさんは部屋を出ていく。
俺も疲れからか瞼が下がってきた。
抗えない眠気に、俺も目を瞑った。




