黒弾と金色
こちらの小説は資料集め(名称、文化、世界観の参考)及び誤字脱字チェックにAIを利用しております。
ご注意ください。
トリーテ様は、無事にあのいけ好かない赤髪の男の元まで逃げられただろうか。
恥ずかしい話だが、私ではあの方を救えない。
徐々に目の前が暗くなる。
「聖女近侍様も、そんなものか」
部分鎧を身に着け、片手に奇妙な杖を持った敵の言葉に憎まれ口で返したいところだが、答える体力すら残っていない。
血を流し過ぎている。
いつだったか、トリーテ様は治癒術では失ったものをすぐに回復することはできないと言っていたっけ。
都合よくあの男が駆け付けたとして、トリーテ様に治癒術をかけてもらったとしても、間に合わないだろうな。
「やはり、誓約には抗えないようだな」
力なく垂れ下がった腕、動かない足。
それでも、私は敵を睨みつけた。
「まだそんな目ができるのか」
奇妙な杖の先が、また私を貫かんがごとく、向けられる。
「もう、眠れ」
ボン。
パンッ!
異なる破裂音が同時に響いた。
爆発の衝撃で奇妙な杖がずれ、私の頬を掠めるように何かが高速で通り過ぎる。
「何とか間に合ったようだな」
ああ、もう大丈夫だ。
この男がいるということは、トリーテ様は無事なのだろう。
揺れる赤髪に安心感を覚え、静かに目を瞑った。
駆けてきた先で、目に入ったのは奇妙な杖を突き付けられている金髪の姿だった。
離れた場所にフレアボムを展開するのは無駄に魔力を使うが仕方がない。
普段より倍以上離れた位置に爆発を起こした。
奇妙なことに、聞きなれない破裂音も同時に聞こえた。
なんの音なのかは分からなかったが、奴の興味を引くことはできたようだ。
「報告にはない顔だな。何者だ」
「なに、日雇いの傭兵さ」
先ほどまで金色に向けていた奇妙な杖を俺に向けてくる。
金色の負っている穴が開いたような傷跡の原因は、あの杖なのだろう。
杖の先から逃れるように左右に揺れ動く。
「どうやら、ずいぶんとこざかしい傭兵のようだ」
「そりゃ、そうじゃなきゃ生き残れないからな」
残りの魔力はほとんどない。
不完全な『アフターバーナー』が関の山か。
敵との距離は5歩ほど。
奇妙な杖がどれだけ連続して攻撃を放てるのかは分からないが、避けながら剣の間合いに入るのは難しそうだ。
「ところで、さっきの奴らと装備が違うようだが別口か?」
「さっきの奴ら、とは」
「なんだかステルとかビルとか呼び合ってたな」
「ほう」
どうやら同じ仲間のようだ。
先ほどまでなんとなくで向けられていた杖の先が、明らかに俺の心臓を貫くように向けられている。
「それで、そいつらはどうしたんだ」
「3人死んで、2人は逃げていったさ」
「お前がか」
「さあ、どうだろうね」
さらに奴の敵意が増大する。
煽ったはいいが、どう仕留めたものか。
金色も、そう長くはもたなそうだ。
「名前を聞いておこうか」
「ネモ」
「ほざけっ!」
パンッ!
閃光に遅れ、先ほどの破裂音。
予備動作のようなものはほとんどない。
それでも飛んでくる礫を避けることができたのは、ひとえに今までの経験か。
避けたからには、連続で放てないのを祈って前に出るしかない。
敵との壁を作るように剣を構え、左に倒れこんだ姿勢から体を起こすことなく半円を描くようにして肉薄する。
パンッ!
ガィン!
剣を構えた右手に走る衝撃。
それでも1歩の間合いを詰め、体勢を崩しながら横なぎに剣を振る。
「くそっ!」
致命傷は与えられなかったものの、杖を握っていた右手を負傷させることができた。
敵は右手をかばうように後ろへ跳ぶ。
だが2歩の距離だ。
このまま仕留める。
さらに1歩踏み込んだところで、奴は懐から何かを取り出し地面にたたきつけた。
ボフン。
あたりに白煙が広がる。
目に粉が入り思わず目を瞑ってしまったが先ほどまで奴がいたであろう場所へ剣を振り下ろした。
だが、むなしく空を切るだけ。
「逃したか」
耳を澄ませてみたが、先ほどの破裂音がこびりついて足音を追うことができない。
だが、だんだんと大きくなってくる足音は聞き取ることができた。
「大丈夫っですかっ」
薄れ始める白煙の中、目をこすりながら足音の先を見ると聖女様が息も絶え絶えになりながら走ってきていた。
「ああ、どうにかな。だが……」
「ペルティ!」
さっきの奴も入れて6人、最初に聞いた足音の数とも一致する。
周囲の警戒を解くわけにもいかないが、いったん安全と言っていいだろう。
「そいつは大丈夫なのか」
「……血を失い過ぎています」
汗で張り付いた髪を拭うこともせず、一心不乱に治療を進めている。
その姿は、妄想した着飾った姿より美しく見えた。
「治癒術で何とかできないのか」
「傷口は塞げますが、失ったものまでは」
聖女様は悔しそうに答える。
みるみるうちに穿たれた傷跡が閉じていくが、顔色は青いままだ。
「ここではこれ以上の治療は難しいでしょう。お願いです。街まで送っていただけませんか」
「あんたの頼みなら」
剣の血を拭う手間も惜しんで、俺はペルティを背負う。
起きた時に文句を言われそうではあるが、聖女様に背負わせるわけにもいくまい。
厚手の生地越しに伝わってくる柔らかい感触。
だが、今は生気が抜けたように冷たい。
少なくとも、一刻も早く毛布に包む必要はありそうだ。
周囲の警戒をしながら、なるべく早い速度で街へと帰還した。




