赤に染まる・・・
こちらの小説は資料集め(名称、文化、世界観の参考)及び誤字脱字チェックにAIを利用しております。
ご注意ください。
死体に足を取られないように、すぐに移動を開始する。
「ファス!」
「うろたえるな! 囲め!」
「はい!」
最初に話しかけてきた男の声で、乱れかけていた統率が持ち直してしまった。
「そう上手くはいかないか」
このまま森の中に逃走してもいいのだが、聖女様たちのことを考えると足止めをしてやりたいと思ってしまうのは、悲しき漢の性か。
やはり、訓練された部隊というのは厄介なものだ。
統率のとれた動きに、数でも負けてるってんだからなおのこと。
「ほら、どうしたよ。ぼさっとしてるとまたお仲間が焼け死んじまうぜ」
軽口をたたくが、今度はうかつに飛び込んでくる者はいない。
集団戦のお手本のように4人で囲んでくる。
「焦る必要はないからな」
隙を見せないよう動きを止めず右へ左へ揺れ動くが、ちょうど一歩半ほどの間合いを取り、俺の動きに合わせて包囲を崩さないように動く。
さっきみたいに比較的大きな木に頼りたいところだが、なかなかそうさせてくれない。
「おっと!」
死角からの攻撃をするりと躱す。
反撃を見舞いたいところだがその隙にほかの3人に切りかかられたらさすがに対応しきれない。
「よく踊るじゃないか」
「ダンスは得意でね」
躱す、躱す、躱す。
最初に話しかけてきた男は切りかかってこないが、ほかの3人が続けざまに切りかかってくる。
魔力を溜める隙すらもらえない。
「そろそろ疲れてきたんじゃないか」
「そっちこそ」
「そうだな、さっさと家に帰って休ませてもらいたいもんだ」
チッ!
3人からの猛攻に、裾をかすめる。
「なら、温泉にでも浸かっていくのはどうだ」
「ふん、目的を果たしたら楽しむとしよう」
「もう諦めたらどうだ」
「勝ち目などない」
かわるがわる声が返ってくる。
やりたいことは同じ。
「どうだかな」
隙を突くのはあきらめたほうがいいか。
「っ!」
ゆらゆらと左右の動きから一転。倒れこむように前へ踏み込んだ。
最初に声をかけてきた討伐部隊その1に切りかかる。
ガギンッ!
本日3度目の金属音。
より芯に響くような衝撃が体を抜けていく。
踏み込んだ勢いを乗せたが、装備が違う。
全身鎧を着こんだ分相手のほうが重い。
「どうした、そんなものか」
「どうだかな」
背後から切りかかってくる討伐部隊その2、3の気配を感じつつ、力を左に受け流しながら剣を中心に右へ回り込む。
俺の剣の切っ先が相手の剣の切っ先の内に入った。
「がっ……」
「浅いか」
その1もとっさに身を捻って躱したが、鎧の重さが仇となった。
完全には避けきれず俺の剣が血に濡れる。
もともと鎧の隙間を通すなんて離れ業だ。
届いただけいいだろう。
「貴様っ!」
「ステル!」
「次はどいつだ」
危険な賭けだが、うまくいった。
味方がやられれば動揺が起きる。
まとめ役が倒れたならなおのこと。
倒れた仲間に駆け寄るその3、そして剣を振りかぶり切りかかってくるその2。
ギインッ!
姿勢を低く、脇を抜けるように剣撃を見舞う。
もちろん、その軌跡には炎が走る。
「お゛お゛っ!」
身を焼かれながら剣を振るってきたが、ただ振り回されただけの攻撃にあたるわけもない。
「コルダッ!」
もう、隙だらけだ。
後ろから猛進してきたその4は手前で剣を引いた俺の動きにつられ足を止めてしまった。
ボン。
左手を突き出した俺の目の前で爆発が起こる。
「ビルッ!」
その1と駆け寄っていたその3は膝をつき向かって来ようともしない。
「今逃げれば、そっちは助かるかもな」
その3は窺うようにその1へ視線を向ける。
「……引くぞ」
絞り出すような、感情を押し殺したような声色。
無理もない。
「賢明な判断だな」
その3がその1に肩を貸し、背を向けないように森の中へ入っていく。
わずかに、転がっている仲間の死体に詫びるように頭を下げた。
殊勝なことだ。
それなりに鍛えられてはいたようだが、やはり戦場に出たことはないのかもしれない。
「慣れないことはしないほうがいい」
俺の声が聞こえたのか、その1は恨みがましい目で俺を睨みつけながら、その3に引きずられるようにして森の中に消えていった。
そのまま、足音も聞こえなくなった。
完全に安心はできないが、もう大丈夫だろう。
思わず、息を吐いた。
「どうにか退けたか」
残存魔力は3割ほど。
2時間もあれば半分以上回復するだろうが、このまま連戦は難しそうだ。
汗もかいたことだし再び温泉に入りたい気もするが、風景に死体が転がっているのはよろしくない。
もしかするとさっきの奴らが回収しに戻ってくる可能性もある。
これ以上首を突っ込むことでもないだろう。
何もなかった風を装って街に戻るとしよう。
剣を振って血を払う。
あらかた取れたところで手近な木の葉を毟って剣を拭った。
細かな手入れは宿に戻ってからでいい。
「さて、ずらかるか」
聖女様の行方は気になるが、国や教団が絡んでくるとなれば手に余る。
できれば土に汚れた姿ではなく、きれいに着飾った彼女を拝んでみたいものだ。
「ごたごたが終わったら一度訪れてみてもいいかもな」
神聖サクア教国、読んで字のごとく聖女様が所属する教団が治める国。
ここからだと馬車を乗り継いで15~20日ってところか。
そんなことを考えながら軽くなった足取りで街へと歩き出す。
そしてわずかに進んだところで先ほどまで美しく着飾った姿を想像していた聖女様が悲壮な表情を浮かべながら駆けてくる姿が目に入った。
髪を振り乱し、さらに土に汚れ、目には大粒の涙が浮かんでいる。
想像とは正反対の姿。
そして、張り付くようにそばにいた金色は見当たらない。
「助けてください! ペルティが!」
「この先か」
聖女様は汗だくになり、息を荒げながらうなずく。
考えるより先に、俺は駆けだした。
走りながらなぜこんなことをと自身に問いかける。
乗り掛かった舟。
足を治してもらった恩。
もちろんそれもあるだろうが、何より。
「ここで引いたら漢が廃る!」




