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26話 眠れる森の美女(後編)

 荊で覆われた隣国の城に到着した一行。入ろうとして命を落とした者もいるという城を見上げ、鵜久森は息を呑んだ。ましろは淡々とスペルカードの準備をする。


「この最上階に来夢ちゃんがいる……」

「それじゃあいきますよー。黒炎ノワール


 ひとりでに開くことはなかった荊に向けて、ましろが掲げた杖の先からスペルを放つ。荊はあっという間に黒炎に飲み込まれ焼け落ちた。


「水属性の魔法使い、消火は頼んだよ」

「はい!王子の仰せのままに」

「……どうやら来夢が眠りについて、まだ100年経っていないみたいだね」


 懐中時計を開いたましろは時間を確認する。

 道中、城の中まで侵食する荊を焼き払いながら、ましろたちは城の最上階に到達した。

 豪華なベッドの上で、三つ編みの来夢が手を合わせて深い眠りについている。


「……どうします、鵜久森さん」

「なんで僕に聞くんだいましろくん?」

「だって鵜久森さんが王子ですし」

「別に王子じゃなくても、キスをすれば目覚めるんじゃないかなぁと僕は思うんだけど!」

「ええ……、ダメですよ王子じゃなきゃ」

「ましろくん、彼女の幼なじみなんだろう?ささっ、勇気を出して……」


 ましろと鵜久森、どちらが来夢にキスをするかで揉めている。そんな中、ラプスが来夢の寝ているベッドの上に飛び乗り、来夢にキスをした。


「「え!?」」

『これでいいんだろう?』


 しれっとしたラプスは2人を振り返って見た。同時に、来夢があくびをしながら起き上がる。


「ん……。わたくし、あれからどうしたのかしら……」

「来夢!目覚めたんだね!よかったぁ」

「ましろくん、来夢ちゃんには黙っておこう」

「? ましろさんに鵜久森さん……。やっと合流出来まして!」

「おっと、来夢……大丈夫?」


 ベッドから降りようとしてふらつく来夢の身体をましろが支えた。


「ましろさん、ありがとうございます、ですわ」

「う、うん……」


 ましろを見上げる来夢の頬がほんのり紅い。来夢のことだ。この状況で、ましろが自分にキスをしたと誤解しているのだろう。ましろは本当のことを話すべきか迷う。


「来夢ちゃんとやっと合流出来たことだし、物語ソネットの領域展開をしている敵を倒さないと!」

「……13人目の魔法使いはブラックローズさんでしたわよ」

「彼女も領域展開に巻き込まれてたんだね。巻き込まれている人たちが他にもいるかも。早く現実に帰してあげないと。……ねぇ、来夢。他に黒幕と思わしき人物はいないの?」

「ペロー版のお話は姫と王子の後日談があり、王子の母である王妃が人喰いであったお話……。バジレ版のお話には姫を心配する国王に嫉妬した王妃が姫の子供をスープにして食べさせようとするお話がありますわ」

「え!?僕を育ててくれた人が人喰いだった話があるの!?」

「……おとぎ話って子供に読み聞かせるのに、本当は残忍な話が多いんだね」

『もう子供が出来るまで待ってられないよ!この物語ソネットに閉じ込められているのにはうんざりだ!』

わたくしも子供を作るつもりなんてありませんわ!!」

「わかってるよ。まずは目を覚ました筈の王妃に会いに行ってみよう」



 ◆◆◆



「おお、ライム!目覚めたのか!」


 王室に辿り着いた来夢を見るなり、その身を抱きしめる国王。


「むぎゅ。く、苦しいですわ、お父様」

「はっ!すまん、すまん」

「……」


 父子の再会を醒めた目で見つめる王妃の姿。ましろは王妃に声を掛けた。


「……どうやら、貴女が黒幕のようだね」

「あら?なんのことかしら?招待していない魔法使いがどうしてここに?」

「13枚の金の食器を1枚減らして、13人目の魔法使いを呼ばなかったのも貴女だ。13人目の魔法使いに姫を呪ってもらって殺すつもりの計画を立てていたのさ」

「なんだと!?それはまことか!?」


 国王が驚いた表情で自分の妻を見る。王妃は醒めた笑みを浮かべたまま、来夢を見つめていた。

 途端、王妃の顔がなくなり口だけになった。綺麗に整えられていた髪がばさりと広がり、人語ではない奇声を上げる。


「かまかけのつもりだったけど、まさか当たるなんてね!黒炎ノワール!!」


 ドレスの端が黒い炎に焼かれ、あっという間に王妃だったものが燃え上がり消滅する。


「あれ?もう終わり?」

「ましろくん、荊を焼き払っている時から思ってたけど、フランメを唱えてた時より火力強くなってない?」

「うーん……どうやらそうみたいです。クトゥルフパワー、恐るべし……」


 ましろは杖の下をトントンと叩き、頭を掻く。まさか鵜久森の出番もなく呆気なく消滅させるとは。ましろの黒炎の凄まじさが窺える。


『やれやれ。115年も僕を閉じ込めていたやつがどんなものかと思ったけれど、最期は楽に済んでよかったよ』


 ほんっとうに久々のご馳走だ、とラプスは大きく口を開ける。空間がガラスの破片となって吸い込まれていった。

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