25話 眠れる森の美女(中編)
「いたっ!?」
「どうしたんだ?マシェロ」
突如、後頭部を小動物に蹴り上げられ、マシェロは思い出した。自分が月影ましろという名前だったことを。
「ーーあ、あはは、なんでもないよ。ちょっと疲れが出てるみたい。今日はもう家に帰るよ」
「そっか。じゃあな、また今度」
一緒に歩いていた少年と手を振って別れたましろは、茂みの中に隠れた小動物を探す。
「ーーもう出てきていいよ、ラプス」
ましろが呼びかけると、ラプスはガサガサと茂みの中から出てきた。よろよろで、今にも倒れそうだ。
『……やっと思い出したのかい、ましろ』
「うん。どうしたんだいラプス?そんなに弱々しくなって」
『……どうしたもこうしたもないよ。この物語に取り込まれてからもう115年が経っているんだ』
「ええ!? 115年!?」
『そうさ。115年もの間、僕は物語の粒子を食べることなく暮らしてたんだ……。ましろたちが生まれるのを、来夢が目覚める時を待って……』
「まさか、他のみんなも疑似転生経験を?」
『魔法使い役になった綺羅々以外はね。回復役の綺羅々だけじゃ、物語を退治することは出来ない。来夢も眠りについてしまったし……』
「眠りって……」
『今回の物語は眠れる森の美女さ。来夢が眠りについてから丁度今年で100年だよ』
「……物語内で100年以上過ごすなんて今までになかったけど……。大丈夫?ボクたち、浦島太郎みたいに現実に帰ったらおじいさんおばあさんになったりしない?」
『幸いにも時間軸が捻じ曲がっているようだから、その点は大丈夫だろう。ーー僕と綺羅々は物語の中で115年の時を待つ羽目になったけどね』
「今回ばかりはお疲れ様、ラプス」
ラプスはましろの身体を駆け上がり、肩に乗って身を落ち着かせる。
「それで?ボクはこれからどうすればいい?」
『まずは王子に生まれた王子と合流しよう。魔法使いの格好をしていれば、すぐに取り合ってもらえるさ』
◇◇◇
「ようこそましろくん、待ってたよ」
隣国の王城。魔法使いとして王子に謁見を求めたましろはすんなりと通された。鵜久森が正装でましろを出迎える。
「僕もラプスに蹴られて記憶を取り戻してね。城の猟師として雇われてる林檎ちゃんも同じくさ」
「ボクが最後だったんですね」
「来夢ちゃんがかけられた呪いが、丁度100年経たないと解けないみたいだからね。眠りの呪いにかかったまま、現実世界に帰るわけにはいかないし……」
ライム姫が13人目の魔法使いから呪いを受けたあの日以降。国王は兵や国民に命じて国中の紡ぎ車を焼き払ったのだが、ライム姫が15歳になった日。城の塔の最上階に紡ぎ車を持った13人目の魔法使いが再び現れた。ライム姫は呪いに逆らうことは出来ず、錘が指先に刺さり、深い眠りに落ちることとなった。
呪いは城内に波及し、城中の人間が次々と眠りに陥った。城は瞬く間に荊に覆われ、まるで封印の如く来る人間を拒むこととなる。
「じゃあ、来夢は隣国の城の最上階に居るんですね」
「ああ。ましろくんの魔法があればすんなり通れる筈だよ」
「……ひとつ気になることが……」
『なんだい、ましろ?』
「……その、来夢は100年丁度経ったら目覚めるのか、キスで目覚めるのか……どっちなのかなぁ?」
『それはーー実際に行ってみないとわからないよ』




