27話 マカロンの意味
「来夢ーー来夢!」
「ひゃわ!?な、なんですのましろさん!?」
「なんなのはこっちのセリフだよ!帰ってきてからぼんやりしてておかしいよ、来夢」
ボクは来夢に熱があるんじゃないかと思って額に手をあてた。来夢の顔が茹蛸みたいに赤くなる。やっぱり熱があるんじゃないか。
「ね、熱なんてありませんわ!」
「でも顔が真っ赤だよ」
来夢がぶんぶんと首を横に振り金髪を靡かせる。三つ編みもよかったけど、来夢はやっぱりストレートの方が似合っていると思った。
「ましろさんの気のせいですわ!」
「そうかなぁ……」
まあ、本人がそう言うならまあいいかと満天に輝く星空に視線を戻す。
眠り姫の事件が解決してからアーバン・レジェンドに戻ってマカロンパーティを再開している最中、ボクは星空が見たくなって寮の屋根に登っていた。来夢はそんなボクの後を追ってきたんだ。
「ねぇ、またスペルカードで空を飛ばない?」
「……正気ですの?動画がどうのこうのと騒ぎになったりしましたのに?」
「ダメ?」
「……」
真っ直ぐ見つめるとうぐぐ、と来夢は変な声を漏らし、スペルカードを顕現させる。
「人気のない森へ行きますわよ」
「やったー」
ボクは来夢と一緒に箒に跨った。やっぱり、夜風に吹かれながら星空の下で食べるお菓子は一味も二味も違う。
「ねぇ、来夢」
「なんですの……むぐっ」
来夢が好きなシトロンのマカロンを口の中に入れてあげる。すると来夢の顔がまた赤みがかった。
「……ま、ましろさん」
「なんだい、来夢?」
シトロンのマカロンを食べ終えた来夢が後ろを向きながら話す。
「マカロンのお菓子言葉はご存知でして?」
「うーん。そこまでは知らないなぁ」
お菓子言葉だって?そういうのはあんまり興味がないから知らない。どういう意味なのかを聞いたら、来夢は複雑な表情を浮かべながら教えてくれた。
「あなたは特別な存在、ですわ」
「ふーん。なるほど……」
あれ?ボクってば来夢が特別な存在だと思ってるってこと?
「あ!違うよ!だって偶々マカロンが報酬で贈られてきただけだし!!」
「偶然にしては出来すぎてますことよ!?」
否定すると、来夢がぽかりと頭を叩いてきた。違うんだ。全然そんなつもりはなくて。なんて言うと、来夢が更に怒ってきそうだから言葉を呑み込んでおく。
「眠り姫の件についてはノーカンですからね!ノーカン!」
あらら。やっぱりボクがキスをしたって勘違いしちゃってる。来夢の態度が変なのもそれのせいかな。
「ーーじゃあ、鵜久森さんがよかったのかな?」
意地悪心が出て、つい来夢を揶揄ってしまった。来夢が悲しそうな顔をする。……待って。来夢ってやっぱりボクのことが、幼なじみとかそういう域ではなく……。
「……え?そ、それはないなぁ……」
と、思いたいけど。
「……なにひとりでぶつくさ言ってるんですの?」
「な、なんでもないよ」
平常心を取り繕う。まさかとは思うけど、あの来夢が、ぼ、ボクのことを?
「ちょっと、ましろさん?食べすぎではなくって?」
心を落ち着かせようとして、ひたすら袋に詰め込んできたマカロンを食べ続ける。マカロンのお菓子言葉なんて知らない。ボクは甘いものが好きな呪いで食べているだけさ。
「大丈夫だよ。このくらい」
平常心ーー平常心。来夢がボクのことを好き?だからって、ボクが来夢をいきなり好きになるのはありえない。揶揄いはしたことはあったけど、今の今までそう認識したことがなかったから。
ーーどうする?本人にボクが好きかどうか直接聞く?
「ーー星が綺麗だね」
「……そうですわね」
臆病なボクから出たのは、別の言葉だった。来夢が呆れた表情をしたけど、すぐに笑顔になってくれた。
ーーボクは今の距離感が崩れることを怖がっている気がする。……そうだ。昔から築いてきた距離感が崩れるのが怖い。
だから、今まで通り。それが1番いい選択だと信じて。
ボクはこの夜、心を隠して来夢に接することを決めた。




