23話ラデュレとピエール・エルメ
「ましろくん、この前クトゥルフの物語の粒子を回収した分のスイーツが届いたよ」
「本当ですか!?」
時刻は午後15時を回る頃。食堂でアーバンは配達で届いた箱を並べていた。
「うわぁ!今回はマカロンだ!ラデュレにピエール・エルメ!」
淡いグリーンの箱に詰まった色とりどりのマカロン。ピンク色のローズ、白色のヴァニーユ、黄色のシトロン、黄緑色のピスタッシュ、エメラルド色のテ・マリー・アントワネット、赤色のフランボワーズ、ベージュ色のキャラメル、茶色のショコラ。
ドーナツ型のオレンジ色の箱に、ぎっしり詰まった6色のマカロン。それに加えてピエール・エルメの代表的的フレーバー、ピンク色のイスパハンーーフランボワーズとバラとライチの上品なクリームがサンドされているバラのマカロンが人数分。
フランスのマカロンで有名なツーブランドの箱に、ましろは興奮を隠せない。
「うわー。マカロンか。作るの大変なんだよね。こうして並べられるとすごいって思うよ」
鵜久森が箱を覗き込んで感嘆する。
「待って!今スクショ撮るから!」
「ましろって、そういうところはなんか女子っぽいね。いっそのこと食べログでもすればいいのに」
スイーツよりもゲームな綺羅々が、様々な角度からマカロンのスクショを撮るましろに口を尖らせて言う。
「ましろさん、お先に一口宜しいかしら?」
「ーーん、スクショはバッチリ撮り終わったから、どうぞ」
「では、おひとついただきますわ」
来夢はシトロンのマカロンを摘んでサクリと一口食べる。
「優雅な甘さとほのかな酸味……柑橘系のお味、堪りませんわ」
ましろはピスタッシュを摘んで口に入れた。
「んんー……。香ばしくてまろやかな味、バタークリームが最高だね!」
「どれどれ、僕も一口……。綺羅々ちゃんや林檎ちゃんも遠慮せずに食べなよ」
「ええと……!こう言った外見が完成されているお菓子ってなんだか食べ辛いと言いますか」
「いいじゃんいいじゃん食べちゃいなよ?折角の報酬なんだしさ!」
遠慮している林檎の横で、綺羅々がヴァニーユのマカロンを摘む。ショコラのマカロンを食べた鵜久森は、料理人として難しそうな表情を浮かべる。
「……じゃ、じゃあ、いただきます」
フランボワーズ味のマカロンを上品に食べる林檎。甘酸っぱく香り高い味わいが口の中に広がる。
「お、美味しいです!」
「でしょう!?たくさんあるからいっぱい食べよう!」
「ましろさん?夕飯を食べれるくらい、ほどほどにしてくださいまし」
ましろに釘を刺す来夢に追い討ちをかけるように、ラプスがテーブルの上にぴょんと飛び乗った。
『みんな!マカパの最中に悪いけど、物語の気配だ!』
「ええー!空気くらい読もうよラプスー!」
『それを言うなら僕じゃなくて物語にだろう?』
ましろのブーイングにラプスは首を傾げる。
「最近多くないかい?ここ3か月で結構物語を退治してると思うけど……」
鵜久森が聞くと、ラプスは二本足で立ち上がった。
『そう!そのおかげでアーバン・レジェンドのポイントはついにビリから脱却したよ!』
「それはそれは、喜ばしいことですわ。私もわざわざこちらに来た甲斐があったというもの」
来夢が胸を張って金髪を靡かせた。林檎はメガネのレンズを光らせパチパチと拍手する。
ラプスはテーブルの上から飛び降り、食堂の入り口へと向かう。
『さぁ!更なるポイント稼ぎに行こうじゃないか!』
「張り切ってるねラプス」
『当然!僕はスイーツじゃなくて物語の粒子がご馳走なんだから。ほらましろ、早く準備して』
「はいはい」
「やれやれ。続きは物語を退治してからだ」
アーバンがマカロンの入った箱を片付けるのを、ましろは目線で追っていたが、ラプスに急かされ食堂から出る。
「今回の物語は何系なんだろう?」
『クトゥルフ系ではないことは確かさ』
「最近クトゥルフ続きだったから、久々に息抜きが出来そうだね」
『クトゥルフ系じゃないからって気を抜かないことだ。気を引き締めて行っておくれよ』
「全く。ラプスは心配性だなぁ」
『物語を狩れる人間が居なくなったりでもしたら、ゲームオーバーじゃ済まされないからね』
「不安になるような変なことは言わないでよ?ラプス」
何をそんなに心配しているんだい?とましろは首を傾げる。プラチナブロンドがさらりと揺れた。ラプスはましろを振り返る。何か言いたそうだが、ラプスは何も言わずに前を見た。
「……?」
ましろは裏口のドアノブを回す。
「それでラプス、今回はどこに行けばいいんだい?」
『御伽街の東にある、荊で囲われた古びた屋敷さ』




