20話 聖女とミルクティー
「え?ブラックローズさん、泊まるの?」
「……教団を追い出されたばかりで、家がないのよ。カプセルホテルやネットカフェに泊まるのは飽きたし。……一晩くらい、いいでしょ」
「……仕方ないですね」
ましろはアーバン・レジェンドの空き部屋にブラックローズを案内する。
「……ありがとう」
月明かりが差し込んだ部屋。毛布を渡す時に、ブラックローズがお礼を言う。ましろは掌で額を覆い、暫く考え込んだ末に告げる。
「……はぁ。依頼料、1万円でいいですよ」
「本当!?」
「ブラックローズさんがなんだか可哀想になってきちゃいました。だから、まけてあげます」
「感謝するわ!本当にありがとう!」
ブラックローズは握手した手を離さずぶんぶんと振る。ましろはなんだか捨てられた子犬みたいな人だな、と思いながら振られていた。
「それで、明日の予定はどうします?」
「教団のアジトへ直行でいい?」
「朝からですか?まぁいいですけど……」
「私の代わりに聖女の座に居座るホーリーホワイトを叩きのめしてちょうだい」
「……依頼は力を取り戻すって話だけですよ」
「ちっ!」
「聖女が舌打ちなんてしないでください」
ましろはやれやれと困った顔をしてブラックローズの手を振り解く。
「それじゃあまた明日。おやすみなさい、ブラックローズさん」
「ええ。明日を楽しみにしているわ」
◇◇◇
翌朝。寮のインターホンが鳴り響く。
「はい! 今行きます!」
ガチャリと林檎が開けたドアの外に立っていたのは、長い銀髪をポニーテールにした、白い制服、黒いタイツ、ローファーを履いた同い年くらいの女の子だった。
「おはようございます。突然ですが、こちらに黒原野薔薇さんがお世話になっているという情報を耳にしてやってきました、白野聖と申します」
「貴女が、ブラックローズさんの言っていたホーリーホワイトさんですか?」
「はぁ……。こちらの世界では、その呼び名は相応しくないのでやめてくださいと言ってるのに」
ホーリーホワイトはため息を吐いて気を緩める。
「ーーげっ!?ホーリーホワイト、アンタなんでここに!?」
「おはようございます、野薔薇さん」
廊下を後退るブラックローズを目にし、ホーリーホワイトは笑顔で挨拶をした。
「教団の方からこちらの寮でお世話になっているとの情報もとい通報がありまして」
「うーん。そっちに行く手間が省けたのはいいけれど……。要件はなんだい?」
ましろに問われ、ホーリーホワイトは困ったような表情を浮かべる。
「それは……。少しお茶をしながらお話し出来れば良いなと」
◇◇◇
食堂に客人用の椅子がふたつ。ブラックローズの隣にホーリーホワイトが平然とした顔で腰掛ける。
「ちょっと!なんでアンタが当たり前のように私の隣に座るワケ!?」
「いいじゃありませんか。滅多にいない聖女同士なんですから」
「並んで座られるとどう見てもホーリーホワイトさんの方が聖女に見えますわ」
「悪かったわね!聖女らしくなくて!」
「まあまあ落ち着いて。ーーそれで、ホーリーホワイトさん、話しって何かな?」
淹れたばかりのミルクティーを差し出し、ましろが再び問い掛ける。
「ーー今回、私はクトゥルフ教団の使いでやって来ました。貴方たちアーバン・レジェンドの存在は、我々も認識しています」
「へぇ……。それで?」
「……アーバン・レジェンドの存在と言うよりは、マーブル社と言った方が良いのでしょうか」
「やっぱり、クトゥルフ教団が動くのを組織は容認済みかー」
お茶菓子用に出したクッキーをつまみながら、ましろはガックリと肩を落とした。
「ラプスの回収した粒子を提供した時も、魔力検査に行った時も、あまり驚かれなかったし」
「ちょっと待って!それってどういう……」
「組織が互いに認識し合い、それぞれの行動を容認しているということです」
驚く鵜久森を遮り、ホーリーホワイトは冷静に告げた。
「クトゥルフ教団は崇高なるクトゥルフの存在を世に知らしめることを。マーブル社は成長した物語の粒子を回収し、研究することを目的としているので、ひとまずは敵対関係ではありません」
「マーブル社は研究第一優先の為、積極的に教団を倒すような真似はしないと。そう言いたいのでしょう?」
「ええ」
来夢の問い掛けに、ホーリーホワイトは頷く。
「ええー!?それじゃあ教団とマーブル社が裏で手を組んでるってこと!?」
「実際には違うけど、そう捉えてもおかしくはないですよ。苦労するのはクトゥルフの対処に向かうボクらってことで」
頭を抱える綺羅々に、ましろは何処か他人事のように話す。
「ですから、乗り込まれてひと騒動起こされる前にこうして話し合いに来ました。ブラックローズから抽出した、聖女の力をお求めなのでしょう」
ホーリーホワイトが鞄に付けていたキラキラと輝く小瓶を手に取る。中身は虹色に光っていた。




