19話 聖女ブラックローズ
「とりあえず、クトゥルフ教団を探す手間が省けたのは良いことだけど……」
アーバン・レジェンドの食堂。客人用の椅子に座って中辛カレーにがっつくブラックローズを見て、ましろはろくなご飯を食べてなかったのかな?と疑問を浮かべる。
「んん……!美味しいわねコレ!誰が作ったの!?」
「僕だけど……。もしかして異世界にはカレーが存在しない?」
「ええ!初めて食べるわ!」
「簡単に出来るから、レシピ教えておこうか?」
「ありがとう!感謝するわ!」
カレーのレシピを紙とペンで書き始めた鵜久森に、お礼を言うブラックローズ。
綺羅々はゲームをしながらブラックローズに質問してみる。
「ねーねー、異世界で聖女さまってどういうことしてたの?やっぱ人を癒したり?」
「いいえ。私は街に結界を張る仕事をしていたの」
「それが抽出されてしまったという力ですの?」
「そう。奴らは私の力を反転させて、千の仔を孕みし森の黒山羊を召喚する儀式を成功させたのよ」
コップに入った水を飲み干し、ブラックローズはカレーを食べ終えた。
「教団はこの世界に来て右も左もわからない私に色々教えてくれたわ。時給も5000円で悪くなかったし。……捨てられるまではね」
「力を抽出したから用済みってことですか?」
林檎が首を傾げながら聞くと、ブラックローズは頭を抱える。
「それだけじゃないわ。白野聖……ホーリーホワイト!!私の代わりを見つけたって……ああ、この世界でも私の邪魔をしてくるアイツ……!!」
「その、代わりのホーリーホワイトさんとお知り合いみたいですね」
「ええ!!異世界で私から聖女の地位をぶん取った女よ!!ああ、思い出すだけで忌々しい!!」
「ブラックローズさんがあまり聖女らしい名前や性格じゃない方が問題あるような……」
「何ですって?」
ブラックローズにギロリと睨まれ、ましろは肩を竦める。
「……私が今の性格になったのは異世界での激務のせいです。結界を張る他に国からの書類などの整理、交渉などに追われてましたので。あと、名は親が付けたものだからどうしようもありませんでした。この名前のせいで、聖女の力があるにもかかわらず、何度偽物扱いを受けたことか……」
「そうだよね……!わかるよその気持ち!」
「うぐ……」
名前で苦労するブラックローズに同意する鵜久森を、綺羅々は憐れみの目で見た。
「やれやれ。どうやらその奪われた力を取り戻すには、街外れのビル地下の根城に忍び込まなきゃいけないってことでいい?」
壁にもたれかかったまま、ましろが腕を組んでブラックローズに聞くと、ブラックローズは頭を左右に振った。
「忍び込むのはほぼ不可能です。見張りも充実していて、結界が張れる聖女もいるわ」
「今までバレてなかったのは結界のおかげってこと?」
「ええ。結界には触れた者の記憶を少々の間、忘れさせる効果があります」
「それを反転させてあのダンジョンを出現させたとは……。つくづく千の仔を孕みし森の黒山羊とやらを敵に回さなくてよかったですわね」
やれやれと来夢が手を振る。ブラックローズは考えるように口元に手を当てた。
「……ただ、弱点もあるわ。結界を張るには多少の時間がかかるってこと」
『戦闘での実用性にはあまり向いてないね。折角魔法少女っぽい名前なのに、あまり勧誘したいとは思わないや』
「フン。物語狩りなんてあまり儲からない仕事、こっちから願い下げだわ」
『そうでもないよ。月に5、6回ちゃんと成長したのを狩ればそれなりに稼げるさ。もっとも、アーバン・レジェンドの報酬はましろの方針でお菓子になってるけどね』
時給5000円の過去の仕事と比べられ、ラプスは不満を漏らす。
「あ、そうだ。依頼料は幾らくらいになりますか?」
「え?お金取るの?」
「はい。探偵業はカフェバイトじゃないから別料金ってことで」
「……1万でどう?」
「聖女の力が1万円で取引されるなんて……」
猫琉羅斗の件で些か金銭感覚が狂っているましろ相手に、ブラックローズは髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「ーーああ、もう!いいわよそっちの言い値で!!但し、払える範囲にしてちょうだい」
「依頼成立、だね」
聖女の力を取り戻す。成功すれば思わぬ臨時収入が手に入る。臨時収入は好きなお菓子に変わる。ましろは心の中でほくそ笑んだ。




