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18話 聖女と華麗なる出会い

「ましろさん、検査は終わりまして?」


建物内のロビーで小説を読みながら待っていた来夢が、廊下を歩いてきたましろに声を掛ける。


ましろはダンジョンを形成したクトゥルフの物語ソネット騒動をアーバンに報告し、アーバンが黎明館をリニューアルしてオープンしたマーブル社に報告しつつ、ラプスが今回回収した末端の粒子を提供したことにより、ほぼ毎日強制的な魔力検査を受けさせられていた。


「うん。今日で一週間通い続けて、やっと終わったみたい。普通通りに過ごして問題ないってさ。噛まれた傷口も殆ど治ったしね」


ましろは絆創膏の上から人差し指を摩る。


「もう!今度は油断しないこと、約束出来ます?」

「うう……。クトゥルフにはもうこりごりだから、今度から油断せずに行こうと思います……」

「よろしい。指切りげんまんでもします?」

「いや、いいよ……」


マーブル社を後にし、ましろと来夢は歩いてアーバン・レジェンドへと向かう。途中で行きつけのスーパーに寄り道し、夕飯の食材を買い込んだ。

にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ。


「今日の夕飯はカレーですわよ。ルーは買い置きがまだ残っていますわ」

「カレーかぁ……。味がわからないからボクのは甘口にしてね」

「全くもう、世話が焼けますわね」


近道をしに、2人で狭い裏路地を通る。


「貴方の分だけ別に作る手間があるんですのよ」

「あはは……。こればかりはどうしようもないねぇ」

「……ねぇ、アナタ」

「中辛はお店用、激辛は林檎さんとアーバンさん用……」

「あ、そうだ!隠し味に林檎の蜂蜜も入れて甘くしてね。うーん、隠し味にチョコを入れるのもどうかなぁ。この前テレビでやってたのを見たんだけど」

「ちょっと!無視するなっ!!」

「「?」」


素通りしていた物陰に佇む人の姿。ファー付きの黒のジャケットに短パンとロングブーツの女性が姿を現した。


「……貴女は?」

「私はブラックローズ。異世界で聖女だった者です」

「来夢、隠し味にチョコレート、よろしくねー」

「そのくらい自分でやりやがれ!ですわ」

「聞け!いや、私の話を聞いて!お願いします!」


素通りしたましろと来夢の背に声を掛ける黒衣の女性は必死だった。ましろと来夢は足を止めて、振り返って女性を見る。女性は改めて咳払いをした。


「……コホン。こちらでの名前は黒原野薔薇といいます。アナタ、『昴のワンダフルチャンネル』に出ていた探偵、月影ましろですね?」

「……ラプスの記憶の回収が及んでいない?何者ですか、貴女は」

「だからブラックローズ!黒原野薔薇って言ってるじゃない!!」

「異世界って、物語ソネットの領域展開以外で本当にあるんですの?」

「ある!私が生き証人よ!!」

「そのブラックローズさんが、どうしてこんなところに?」

「こちらの世界に転移した時、とある教団に拾われたのですが、私の力を儀式で抽出した後に捨てやがったのです。さっきまで教団の末端の奴と話しをしていたけど、逃げられてしまったところ、アナタたちが通りがかったの。ねぇ、お願い!依頼していいかしら?奪われた私の力を取り戻して!!」


藁に縋る思いで、ブラックローズはましろの腕にしがみつく。胸が腕に当たっていた。


「ちょっと!!依頼はともかく、離れてくださいまし!!」


来夢がブラックローズをましろの腕から引き剥がす。ましろは何を思っているのかわからない笑みを浮かべ、腕を組んだ。がさりと買い物袋が音を立てる。


「ねぇ、その教団ってもしかして……」

「クトゥルフ教団の奴らよ」

「うーん。ストレートにそのまんまだね……」

「そんな組織が、御伽街に存在するんですの!?」

「ええ。奴らは街外れの廃墟ビルの地下を占拠して根城にしてるわ」


灯台下暗しとはこのことか。


「ブラックローズさん、そんなに情報を喋っていいの?」

「ええ。私を騙して力を奪ったあんな奴ら、もう知るもんですか!」

「騙して?」

「儀式が成功すれば教団のトップに並ぶ存在になれて自由の身になるって」

「そんな美味しい話に乗るなんて、なんてチョロい……」

「何か言った?」

「いいえ、何も」

『とりあえず、ここでの話もなんだから、アーバン・レジェンドに来てもらえば?』

「──ラプス、彼女が異世界から来たって話、信用するのかい?」


先程まで無言で着いてきていたにもかかわらず、包み隠さず話しに入ってきたラプスを、ましろは驚いた表情で見る。


『彼女に記憶の回収が及んでないのは、何か不思議な要素を携えているからだと僕は思う』

「ふぅん。人間2人より物分かりが良いじゃないこの猫」

『僕は猫でも、ちなみに犬でもないよ!』


ブラックローズに抱えられそうになったラプスは、ましろの背後に隠れた。


「はぁ……。お店に出すカレーの量が減りますわよ」

「仕方ないよ。ここで会ったのも何かの縁だし、彼女を連れて行くしかなさそうだね」


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