第4話
シザース高地に向かったグスタフたちの無事が確認された翌日から、私は再び工房に籠って鍛冶三昧であった。
昨日、市場を回り鉄鉱石を買いまくった。 かなり高くついたが、黒鉄鉱も買った。
グスタフたちの消息が分からず、鬱々として過ごした数日間の憂さを払うかのように、私は工房に籠って打ちまくった。
ただし、グスタフとの約束は守って、夕方には必ずホームに戻るようにした。
5日間鍛冶をしまくって、包丁10本、素槍の穂先8本、グレイブを2本、魔晄石製のショートソード2本・・・そして、散々迷惑を掛けたエイミーに贈るための黒鋼製の短刀を1振り。
私としてはかなりのハイペースで打ったが、いずれの出来も従来以上だと思える。
私の心に反応するかのように、業火がいつも以上に仕事をしてくれたお陰だ。
翌日は、再びレンブラント商会とガルシア商会に納品に向かう。
どちらの商会でも、私がこの短期間で再び製品を納品したことを喜んでもらえた。 特に包丁の方は前回の納品分はすぐに売れてしまったとのことであったので、10本の納品は有難がられた。
レンブラント、ガルシア両商会からの収入で、先日の鉱石購入のために使ったお金をかなり取り戻した。 黒字にならなかったのは、ずば抜けて高かった黒鉄鉱を、エイミーのために使ったからだ。 もちろん、そうなることは分かっていたことなので、問題は無い。
エイミーには、とても感謝しているのだ。
私からの最大級の感謝の気持ちは、良い素材で造った鍛冶製品なのだが・・・しかし、冒険者でもないエイミーは喜んでくれるだろうか? ちょっと心配にはなって来るけど・・・
翌日は、家の大掃除をして、そろそろ帰って来るであろう皆に振る舞うための料理の下準備などを行った。
明日あたりには、帰って来てくれるだろうか? 私は、皆にもうすぐ会える期待にわくわくして眠れそうもないと思っていたが・・・意外とすぐに眠りに落ちてしまった。
眠っていた私は、体がいつもより熱く、痛みを感じて意識が覚醒してしまった。
「う・・・体が熱いし、節々が痛い・・・風邪でも引いたのかな・・・?」
寝返りを打とうとするが、体が動かなかった。
私が目を開くと・・・目の前には、可愛らしいトラ獣人の顔があった。
「クーニャさん? ・・・じゃない・・・ミオさん!?」
私の体は、すぐ横に寝ているミオにガッチリとロックされていた。 熱かったのは、久しぶりのミオの体温で、痛みはミオのハグによるものだったのだ!!
「ミオさん!!」
「ん・・・おークロエ、起きたのか? ゴメンナ・・・遅くなって。」
「そうですよ!! 遅いですミオさ~~~ん!!」
今度は、私から力の限りミオを抱きしめる。
「うおぅ!! クロエ、痛いんだナー!!」
「こんなんじゃ、私の気持ちは収まりません!! ミオさん、本当に心配したんですっ!!」
「ゴメン、ゴメンナ・・・と、とりあえず腕を離してくれないかナ?」
「まだダメですっ!!」
「お姉ちゃんが悪かったんだナ、許してくれ~! クロエ~!!」
「もう・・・ミオさん・・・本当に・・・本当に心配したんですから・・・」
「・・・うん。 悪かったんだナ・・・クロエ・・・」
しばしミオを抱きしめた後、私たちはベッドから抜け出て1階に下りた。
食卓では、グスタフ、シンシアそして猫田さんの3人が朝食を食べている最中だった。
「おう、クロエ・・・その・・・すまなかったな。 心配かけて。」
「ごめんなさいね、クローエ。 私が付いていながら・・・本当にごめんなさい。」
「いえ、グスタフ、シンシア・・・無事に帰って来てくれてありがとう。」
「クロエ、大変申し訳ない。 自分は、丙九式・改を失ってしまったんだ。」
「そうなんですね。」
「え? それだけかい? 怒られると思っていたんだが・・・」
「猫田さんが無事で本当に良かったです。 お怪我をされたと聞きましたけど、もう大丈夫なんですか?」
「あ、ああ・・・グスタフにクラスト市まで運んでもらってね。 治療もうまく行ったようで、今は何ともないよ。」
「そうですか。 それは何よりでした。」
「クローエ、猫田は私とミオを助けるために大怪我を負ってしまったの・・・剣の方は、グスタフが持ってきたんだけど・・・槍を回収している余裕が無かったのよ。 だから、私の所為でもあるの・・・ごめんなさい。 猫田を許してあげて。」
「別に怒ってないですよ。 皆が無事だったのがなによりです。」
「そう・・・ありがとうクローエ。」
「猫田さん、次は何を造りましょうか? また槍でよろしいですか?」
「そうだね。 クロエ、悪いけどまたお願いしてもいいかい? 今度は、代金もちゃんと支払うよ。」
「ありがとうございます猫田さん。 ただ、今は素材となる鉱石を使い切ってしまいましたので・・・市場で買うか・・・でも、買うと割高になってしまうから、自分で採って来る方がいいんだけど。」
「・・・とすると・・・またシザース高地かい?」
「そうですね。 一番近いのはソコになりますね。 でも皆もイノシシ王の牙を獲りに、もう一回行くんでしょ? シザース高地・・・」
「いや、実はなクロエ。 アローヘッドに戻って来る最中、バッタリ会ったんだよ・・・イノシシ王。」
「え!? そうなの?」
「ああ、あんなに何日も探し回っても見つからなかったのにな・・・本当にツイているんだかいないんだか・・・」
「ホントよねぇ・・・だから、今日はこれからギルドに納品に行ってくるわ。 夕食は私が久しぶりに気合を入れて作るから期待してて。 クローエが下準備してくれていたお肉とかも使うけど・・・いいでしょう?」
「うん、分かった。 期待してるね。」
「でも、猫田の傷の治りは早かったよな。 お前は本当に人間なのか?」
「ああ、多分ね。 傷は・・・前にクロエが言っていた『チー』だっけ? あれを聞いてから色々試してみて、少し意識して使えるような感じになったんだよ。 そのチーの力を回復力に回せないかと思ってやってみたんだ。」
「『チー』ですか? んー? ちー? あ、もしかして『気』のことですか?」
「ああ、ソレだ。 『気』だったか。 ちょっと思い違いをしていたようだね。 でも、自分的には、チーがしっくり来ていたんだが・・・」
「じゃあ、あの時の猫田の走り・・・あの足元が爆発したみたいなのも、その『気』の影響・・・なの?」
「ん? ああ、多分そうだね。 あの時は無我夢中だったから、意識して使っていた訳ではないのだけどね。」
「猫田よ・・・お前、ますます人間離れしてないか?」
「おい、それはないだろうリーダー・・・」
「すまん。 だが、その『気』とやらのお陰でミオとシンシアも助かったし、猫田自身もこうして元気でいられているんだしな。 俺も感謝している。」
「どうしたのミオさん? なんか静かですね。」
「えっ? いや、別に・・・ミオはいつも通りなんだナ。 ミオは別に何でもないゾ。」
「そうですか?」
「じゃあ、私とグスタフはギルドに行ってくるわね。 ギルドにも心配かけたから、ちゃんとご挨拶しないと。」
「そうだな。 なんか手土産の一つでも買って行かにゃあならんな。」
「あなたたちは、好きにしていて頂戴。 出かけても良いけど、夕食には戻っていらっしゃいね。」
「分かった。」
それから少し後に、納品の品(イノシシ王の牙)を持ってグスタフとシンシアはギルドに向かった。
ホームには、私とミオと猫田さんの3人だ・・・さて、どうしよう?
「猫田さんは、何か予定あるんですか?」
「いや、自分は特に・・・」
「おい、ネコタ、クロエ。」
「「はい?」」
「今日は3人で出かけるゾ。」
「じゃあ、自分は留守番しているから、2人で行って来るといい。 久しぶりに2人で話したいこともあるだろう?」
「猫田さ・・・」
「ダメだナ。 ミオは3人でって言っただろう? ネコタも来い。」
「え? はい。 分かりました。」
「うん。 それでいいんだナ。」
ミオが猫田さんを誘うなんて・・・この度のクエストで、猫田さんがミオを助けたって言うし、いよいよミオが自覚し始めたんだろうか?
ここは、ミオお姉ちゃんのためにも私が頑張らないといけないな!!
私は、今日の3人でのお出かけで、なんらかの成果を上げるべく気合を入れた。




