第5話
私は、ミオと猫田さんの3人でアローヘッドの商店街を歩いていた。
ミオの命に従って、夕飯までの時間を潰すためなのだが・・・
今はまだお昼前である。
「なあ、クロエ・・・これは何処に向かっているんだい?」
「さ、さぁ・・・?」
1人で揚々と歩いて行くミオの少し後ろで、私と猫田さんは時々こそこそ話をしながら2人で並んで歩いていた。
「あ!」
「うわ。 どうかしたんだい? 突然変な声を上げて。」
「スミマセン・・・実は、もう少し行った所にミオさんのお気に入りの雑貨店があるんです。 そこに向かっているのかも?」
「ヘー、そうなのかい? 自分は場違いではないだろうか?」
「うーん。 場違いってことは・・・ミオさんと猫田さん2人でならピッタリかと。」
「?」
「おい、ネコタ! クロエも、このお店に入るんだナ。」
「「はい!」」
やはり、ミオの目的地は件の雑貨屋のようだった。
店内に入る・・・猫田さんは、ミオのすぐ後ろにくっついているので、私は気になる商品があるかのように振る舞い、少し距離を取ってみる。
「クロエ? ・・・は、なんか見ているナ。 おい、ネコタ。」
「はい、なんでしょう?」
「ミオはちょっとコレを見たいから、そこでじっとしていろ。」
「はあ・・・分かりました。」
ミオが物色しているのは、何やら動物モチーフの飾りがついた根付のようだ。
猫田さんが、不安げな顔をして私の方を見ている・・・
私は、ミオの言うとおりにするように、ジェスチャーを送った後、ゆっくりと頷いてみせる。
猫田さんは、私の意図を分かってくれたのか、同じくゆっくりと頷いた。
ミオは、何個か根付を手にとっては難しい顔をして品定めをしている。 しばらく手に取ってはニラみ、元の場所に戻してはまた別の物を手に取る・・・を繰り返していた。
やがて気に入ったものを見つけたのか、ミオは猫田さんを引き連れて会計に向かった。
ミオと店員さんが何かを話しているようだが、内容は聞き取れない。
後ろに立つ猫田さんの不安げな表情が見える。
店員さんが、ミオに包みを渡すと・・・店員さんを挟んで、ミオと猫田さんが立ったまましばらく動きが止まっていた。
なにかあったのだろうか? 私は、ミオと猫田さんに近づく。
「お客様?」
停滞に堪りかねたのか、店員がミオに声を掛けた。
「おい、ネコタ。」
「あ、はい。」
「ここはネコタが払うところだろう?」
「えっ!? 自分がですか?」
「そう言ったんだが? いや、言われる前に気付け・・・なんだナ。」
困った顔をした猫田さんが、また私の方を見ている・・・私は、猫田さんに向かって全力で首を縦に振った。
それを見た猫田さんは、観念したかのように自分の財布を出して会計を済ませた。
お店から出る際に、私はミオが物色していた根付を観察してみた。
猫や犬など動物の顔をかわいらしく作ったチャームが付いた根付だ。 犬や猫は色々な色のものがあり、他ではライオンやらクマやら・・・トラもあった。 さすがに黒いトラはなかったが、いかにもミオ好みの可愛い根付だと感じた。
その後は、服屋さんなど数軒のお店を回ったが、特に何を買う訳でも無かった。
そうこうしている間に、お昼の時間を過ぎてしまっていたので、私たちは3人で昼食を食べる。
昼食の最中は、ミオが再び大人しくなっていたため、沈黙に耐えきれなかった私は、改めて今回のシザース高地での話を猫田さんに聞いていた。
「それで、その巨人は・・・シンシアが言うには、なんとかジャイアント・・・っていうらしいよ。」
「ジャイアントですか。 どの位大きいんですか?」
「5メートル弱って感じだったと思うよ。 ジャイアントとしては小さい方だって話だけどね。」
「へぇ~。」
「クロエはどう過ごしていたんだい?」
「私は・・・最初の数日は図書館で、調べ物が終わった後は、お部屋の掃除して・・・その後は鍛冶をやって・・・でも、10日過ぎても皆が帰って来なくって・・・その後は、お恥ずかしいんですが、何も手に付かなくなってしまって・・・」
「すまなかったね。 イノシシ王が見つからなかったのもあったけど、自分がケガをしてしまった所為で、大分遅くなってしまった。」
「あ、すみません猫田さん。 そんなつもりじゃないんです。 あ、そうだ。 この後、私の馴染みの武器屋さんに行きませんか? そのお店は槍が専門なので、そこで猫田さんの次の武器のヒントが得られるかも?」
「それは良いかもね。」
「ねえ、ミオさん? 良いですか?」
ミオに目をやると・・・ミオはすごい優しい顔をしており、その視線は猫田さんを真っ直ぐに見つめていた。
(こ、これは・・・いよいよミオさんは、本当に猫田さんに恋をしてしまったのかも?)
ミオのジャマをしないように、もう少し猫田さんとの会話を続けようと思った矢先・・・
「ミオ? どうしたんだボーっとして。」
「あ? え? い、いやっ・・・何でもないんだナ。 えっと・・・クロエ、行きたいところがあるんだっけか?」
(ちっ・・・相変わらず空気を読まない猫田さんめ・・・)
「はい、ミオさん。 猫田さんの次の武器を何にするか参考にするために、武器屋を覗きたいなぁって話です。」
「そうか。 じゃ、行ってみるんだナ。」
「はい。」
「お、そうだ。 忘れる所だったんだナ。 クロエ、これをお前にやるんだナ。」
そう言ったミオは、私の手に何かを握らせた。
「で、これはミオので・・・ネコタにはコレだ。 いつも使うものにちゃんと付けるんだナ。」
「え? ああ、分かったよ。」
私が手を開いてみると、黒ネコの根付が手に乗っていた。
「コレは・・・?」
「さっきネコタに買わせたものだ。 その・・・クロエはミオの妹だからナ。」
「ありがとうございます・・・」
黒ネコは・・・クーニャと同じだ。 ミオは、本当に私の事をクーニャと同じように思ってくれているのかも知れない。
私は、早速お財布に根付を取り付けた。 見ると、ミオは愛用のポーチに取り付けている。 猫田さんは・・・腰に差す刀「鉄芯」の柄に取り付けていた。
猫田さん・・・度胸あるなぁ・・・こんな可愛らしい根付を刀に付けるとは・・・意外にこういうの好きだったりするのかな?
私は黒髪だし、クーニャも黒髪だったというので、黒ネコなんだろうな。
ミオの付けた根付は・・・やはりネコだ。 金色・・・というか明るい黄色・・・レモン色みたいなネコの根付だ。 ミオはちょっとくすんだ金髪なので近いといえばそうだが、もうちょっと近い色はあったのではなかろうか?
猫田さんが刀に付けたものは・・・トラだった!! そして、猫田さんの髪の色は・・・明るい黄色・・・レモン色だ!!
!? これってまさか!? 間違えて逆に!? ・・・なんてハズがない!!
これは間違いなくミオの策略だ!! 自分に見立てた根付を猫田さんに持たせて、自分は猫田さんに見立てた根付を身に付けているのだ!! しれっと所有権を主張しているのだ!! ウブな振りをしていながら、なんて恐ろしいお姉ちゃんだ!!
猫田さんは案の定気付いていないと思われるが・・・少し揺さぶりを掛けてみるか?
「あれ? ミオさんと猫田さんの根付って逆じゃないですか?」
「えっ? いや・・・え? 逆だったかナ? あー、えっと・・・」
「そうなのかい? そう言えば、自分が貰ったのはトラだね。 交換するかい?」
「い、いや、もう付けちゃったし、外すのもメンドいからこれでいいナ。 ネ、ネコタも面倒だろ??」
「いや、面倒ってことはないけどね。 ミオが良いなら自分はこのままで構わないよ。 ミオが近くにいるみたいで心強いよ。」
「あ~そうか? それなら仕方ないんだナ! それをミオだと思って大事にするんだナ!!」
「そうだな。 ありがとうミオ。」
ミオはとっても嬉しそうだった。 顔では平静を取り繕っていたが、紅潮した頬は隠しきれていなかったし・・・なにより尻尾の動きがエラいことになっていた。
「まあ、お金を出したのは自分なんだけどね・・・」
「なんだとネコタ!?」
(ああっ・・・どうしてそこでそう言う事言っちゃうんだ猫田さんは・・・らしいといえばらしいけど・・・そういう所ですよ、猫田さん・・・)
そして、私たちはお昼を終えると、一路ガルシア商会に向かったのだ。
この段階では、あんな大事件に巻きこまれることになろうとは、全く想像もしていなかった。




