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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第9章 クロエとミオ5

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第5話

 私は、ミオと猫田さんの3人でアローヘッドの商店街を歩いていた。

 ミオの命に従って、夕飯までの時間を潰すためなのだが・・・

 今はまだお昼前である。


「なあ、クロエ・・・これは何処に向かっているんだい?」

「さ、さぁ・・・?」

 1人で揚々と歩いて行くミオの少し後ろで、私と猫田さんは時々こそこそ話をしながら2人で並んで歩いていた。


「あ!」

「うわ。 どうかしたんだい? 突然変な声を上げて。」

「スミマセン・・・実は、もう少し行った所にミオさんのお気に入りの雑貨店があるんです。 そこに向かっているのかも?」

「ヘー、そうなのかい? 自分は場違いではないだろうか?」

「うーん。 場違いってことは・・・ミオさんと猫田さん2人でならピッタリかと。」

「?」


「おい、ネコタ! クロエも、このお店に入るんだナ。」

「「はい!」」

 やはり、ミオの目的地は件の雑貨屋のようだった。


 店内に入る・・・猫田さんは、ミオのすぐ後ろにくっついているので、私は気になる商品があるかのように振る舞い、少し距離を取ってみる。


「クロエ? ・・・は、なんか見ているナ。 おい、ネコタ。」

「はい、なんでしょう?」

「ミオはちょっとコレを見たいから、そこでじっとしていろ。」

「はあ・・・分かりました。」

 ミオが物色しているのは、何やら動物モチーフの飾りがついた根付のようだ。


 猫田さんが、不安げな顔をして私の方を見ている・・・


 私は、ミオの言うとおりにするように、ジェスチャーを送った後、ゆっくりと頷いてみせる。

 猫田さんは、私の意図を分かってくれたのか、同じくゆっくりと頷いた。


 ミオは、何個か根付を手にとっては難しい顔をして品定めをしている。 しばらく手に取ってはニラみ、元の場所に戻してはまた別の物を手に取る・・・を繰り返していた。

 やがて気に入ったものを見つけたのか、ミオは猫田さんを引き連れて会計に向かった。


 ミオと店員さんが何かを話しているようだが、内容は聞き取れない。

 後ろに立つ猫田さんの不安げな表情が見える。


 店員さんが、ミオに包みを渡すと・・・店員さんを挟んで、ミオと猫田さんが立ったまましばらく動きが止まっていた。

 なにかあったのだろうか? 私は、ミオと猫田さんに近づく。


「お客様?」

 停滞に堪りかねたのか、店員がミオに声を掛けた。


「おい、ネコタ。」

「あ、はい。」

「ここはネコタが払うところだろう?」

「えっ!? 自分がですか?」

「そう言ったんだが? いや、言われる前に気付け・・・なんだナ。」

 困った顔をした猫田さんが、また私の方を見ている・・・私は、猫田さんに向かって全力で首を縦に振った。

 それを見た猫田さんは、観念したかのように自分の財布を出して会計を済ませた。


 お店から出る際に、私はミオが物色していた根付を観察してみた。

 猫や犬など動物の顔をかわいらしく作ったチャームが付いた根付だ。 犬や猫は色々な色のものがあり、他ではライオンやらクマやら・・・トラもあった。 さすがに黒いトラはなかったが、いかにもミオ好みの可愛い根付だと感じた。


 その後は、服屋さんなど数軒のお店を回ったが、特に何を買う訳でも無かった。


 そうこうしている間に、お昼の時間を過ぎてしまっていたので、私たちは3人で昼食を食べる。


 昼食の最中は、ミオが再び大人しくなっていたため、沈黙に耐えきれなかった私は、改めて今回のシザース高地での話を猫田さんに聞いていた。


「それで、その巨人は・・・シンシアが言うには、なんとかジャイアント・・・っていうらしいよ。」

「ジャイアントですか。 どの位大きいんですか?」

「5メートル弱って感じだったと思うよ。 ジャイアントとしては小さい方だって話だけどね。」

「へぇ~。」

「クロエはどう過ごしていたんだい?」

「私は・・・最初の数日は図書館で、調べ物が終わった後は、お部屋の掃除して・・・その後は鍛冶をやって・・・でも、10日過ぎても皆が帰って来なくって・・・その後は、お恥ずかしいんですが、何も手に付かなくなってしまって・・・」

「すまなかったね。 イノシシ王が見つからなかったのもあったけど、自分がケガをしてしまった所為で、大分遅くなってしまった。」

「あ、すみません猫田さん。 そんなつもりじゃないんです。 あ、そうだ。 この後、私の馴染みの武器屋さんに行きませんか? そのお店は槍が専門なので、そこで猫田さんの次の武器のヒントが得られるかも?」

「それは良いかもね。」

「ねえ、ミオさん? 良いですか?」

 ミオに目をやると・・・ミオはすごい優しい顔をしており、その視線は猫田さんを真っ直ぐに見つめていた。


(こ、これは・・・いよいよミオさんは、本当に猫田さんに恋をしてしまったのかも?)


 ミオのジャマをしないように、もう少し猫田さんとの会話を続けようと思った矢先・・・


「ミオ? どうしたんだボーっとして。」

「あ? え? い、いやっ・・・何でもないんだナ。 えっと・・・クロエ、行きたいところがあるんだっけか?」


(ちっ・・・相変わらず空気を読まない猫田さんめ・・・)


「はい、ミオさん。 猫田さんの次の武器を何にするか参考にするために、武器屋を覗きたいなぁって話です。」

「そうか。 じゃ、行ってみるんだナ。」

「はい。」

「お、そうだ。 忘れる所だったんだナ。 クロエ、これをお前にやるんだナ。」

 そう言ったミオは、私の手に何かを握らせた。


「で、これはミオので・・・ネコタにはコレだ。 いつも使うものにちゃんと付けるんだナ。」

「え? ああ、分かったよ。」


 私が手を開いてみると、黒ネコの根付が手に乗っていた。


「コレは・・・?」

「さっきネコタに買わせたものだ。 その・・・クロエはミオの妹だからナ。」

「ありがとうございます・・・」

 黒ネコは・・・クーニャと同じだ。 ミオは、本当に私の事をクーニャと同じように思ってくれているのかも知れない。


 私は、早速お財布に根付を取り付けた。 見ると、ミオは愛用のポーチに取り付けている。 猫田さんは・・・腰に差す刀「鉄芯」の柄に取り付けていた。


 猫田さん・・・度胸あるなぁ・・・こんな可愛らしい根付を刀に付けるとは・・・意外にこういうの好きだったりするのかな?


 私は黒髪だし、クーニャも黒髪だったというので、黒ネコなんだろうな。

 ミオの付けた根付は・・・やはりネコだ。 金色・・・というか明るい黄色・・・レモン色みたいなネコの根付だ。 ミオはちょっとくすんだ金髪なので近いといえばそうだが、もうちょっと近い色はあったのではなかろうか?

 猫田さんが刀に付けたものは・・・トラだった!! そして、猫田さんの髪の色は・・・明るい黄色・・・レモン色だ!!


 !? これってまさか!? 間違えて逆に!? ・・・なんてハズがない!! 

 これは間違いなくミオの策略だ!! 自分に見立てた根付を猫田さんに持たせて、自分は猫田さんに見立てた根付を身に付けているのだ!! しれっと所有権を主張しているのだ!! ウブな振りをしていながら、なんて恐ろしいお姉ちゃんだ!!

 猫田さんは案の定気付いていないと思われるが・・・少し揺さぶりを掛けてみるか?


「あれ? ミオさんと猫田さんの根付って逆じゃないですか?」

「えっ? いや・・・え? 逆だったかナ? あー、えっと・・・」

「そうなのかい? そう言えば、自分が貰ったのはトラだね。 交換するかい?」

「い、いや、もう付けちゃったし、外すのもメンドいからこれでいいナ。 ネ、ネコタも面倒だろ??」

「いや、面倒ってことはないけどね。 ミオが良いなら自分はこのままで構わないよ。 ミオが近くにいるみたいで心強いよ。」

「あ~そうか? それなら仕方ないんだナ! それをミオだと思って大事にするんだナ!!」

「そうだな。 ありがとうミオ。」

 ミオはとっても嬉しそうだった。 顔では平静を取り繕っていたが、紅潮した頬は隠しきれていなかったし・・・なにより尻尾の動きがエラいことになっていた。


「まあ、お金を出したのは自分なんだけどね・・・」

「なんだとネコタ!?」


(ああっ・・・どうしてそこでそう言う事言っちゃうんだ猫田さんは・・・らしいといえばらしいけど・・・そういう所ですよ、猫田さん・・・)


 そして、私たちはお昼を終えると、一路ガルシア商会に向かったのだ。


 この段階では、あんな大事件に巻きこまれることになろうとは、全く想像もしていなかった。



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