第6話
私とミオと猫田さんの3人で、街歩きをしつつ昼食を食べた後・・・
私たちは、私が武器を卸させていただいているガルシア商会に来ていた。
ガルシア商会は、槍に力を入れているお店で、様々な種類の槍が置いてあるので、猫田さんの新しい槍を造るのに良いヒントが得られるかと思ったためだ。
ガルシア商会で買い物をする訳ではないので、店主のガルシア氏に見学をお願いしたところ、快く応じてくれた。
今はガルシア氏自らが、猫田さん(と、ミオ)に様々な種類の槍の特徴などを説明してくれている。
私は私で、展示してある商品の観察を行っていた。 他人の製品を見るのも勉強になるし、それこそ今後の鍛冶に役立つことが発見できるかもと思うからだ。
「ふーん。 やはりこの国の槍って種類が豊富だよなぁ・・・しかも鋳造が主流だから、鍛造だと値段では敵わないなぁ・・・」
「そうですねえ。」
「わっ! ビックリした・・・」
突然後ろから声を掛けられて振り向くと、ガルシア商会の従業員ジェレミーがいた。
「ジェレミーさん・・・私の独り言・・・聞いちゃいました?」
「はい、申し訳ございません。」
「うひゃぁ・・・お恥ずかしい限りです。」
「いいえ、確かに値段の面では鋳造に軍配が上がるでしょうね。 しかし、職人が1本1本魂を込めて造る鍛造品は、熟練冒険者になるほど欲しがりますからね。 まだまだ鍛造品には需要はあると考えますよ。」
「そうですねぇ・・・今の所は、製品の質では鋳造品に負けているとは思いませんけど、今後も鋳造は進化していくんでしょうからねぇ・・・」
「確かに。 しかし、鍛造の1点ものと言うのは価値がありますよ。」
「今後もそうだと良いんですけど。」
「そうですね。 クロエさんには、今後も是非当店とお付き合いいただけるようにお願いします。 店主ガルシアも常々言っていることです。 先日納品いただいたダガーも既に数本売れておりますし、昨日のスピアヘッドも数日もすれば店頭に並びますよ。」
「そうなんですね、嬉しいです。 こちらこそ今後もよろしくお願いいたします。」
「おーい、クロエー。 ネコタの方は大体聞き終わったみたいなんだナー。」
「あ、はぁい。 今行きまーす。」
「それではジェレミーさん、私行きますね。」
「はい。 あ、クロエさん、あのトラのお嬢さんはクロエさんのパーティメンバーの方でしょうか?」
「え? はい、そうですが。」
「はあ・・・確かに可愛らしい方ですね。 噂の『キュートラ』さんを目にすることが出来ました。」
「なん・・・ですって!?」
私の背筋に悪寒が走った・・・
「きゅ・・・キュートラ・・・どこでその言葉を・・・?」
「いえ、来店された若い冒険者の方が話しているのを、何度か耳にしただけですよ。」
「と、いいますと?」
「え? その・・・クロエさんは、グスタフ氏のパーティに加入されていましたよね?」
「はい、その通りです。」
「そのグスタフ氏のパーティには、キュートラさんという名前の、とても可愛らしいトラ種獣人の女性がいる・・・というような話を耳にしただけですが・・・」
「な、なるほど・・・」
ジェレミーから忌むべき単語である「キュートラ」を聞いた時には、彼もキュートランガードの一員なのではないかと疑ってしまったが、どうやら違うようだ。
もし、ジェレミーがキュートランガードの一員であったなら、ガルシア商会との取引を考え直さなくてはならない所だった・・・
「クロエさん?」
「あ、すみません・・・ちょっと考え事を・・・それでは、失礼しますね。」
ジェレミーとの挨拶を済ませる。 スグにミオを追いかけたいところではあるが、そういう訳にはいかない。 ちゃんと通すべき仁義があるのだ。
「ガルシアさん、本日は私の我儘を聞いて下さってありがとうございました。」
「どういたしまして。 クロエさんの鍛冶のヒントになれたのなら幸いです。」
「はい。 次は素槍以外にも挑戦しようかと思います。」
「是非おねがいします。 楽しみにお待ちしておりますよ。」
「はい。 ありがとうございます。 それでは失礼いたします~。」
ガルシアへの挨拶を済ませた私は、少し前に店を出たミオたちに追いつくべく、急いでお店を出た。
お店を出たところにミオたちは、待って・・・いなかった。
あわてて左右を見渡す。 すぐに2人を見つけたが、すでにそこそこ離れている所を歩いていた。 なんか2人だけの世界に入っているように見える。
あれ? 2人には既に私の事は目に入っていない? ちょっと悲しいかも・・・
しかし、ミオが行動を起こし始めたのだ。
ここは、グっと我慢してお姉ちゃんの恋を応援しよう。
私は、2人から少し距離を開けてついていく。
楽しそうな2人を、後ろから生暖かい目で見守ってしばらく歩いていると・・・
1人、2人と・・・ミオと猫田さんを囲むように、冒険者風の男や職人風の男が集まって来ているように見えた。 やがて、それらは10人近くになる。
「しまった!! キュートランガードだ!!」
ミオたちを取り囲む男たちの中に、先日私を取り囲んだキュートランガードの男を認めたため、急いでミオたちの元に向かおうとする。
「ちょっと待ってくれよぅ。」
私の手首を捕まえるものがいた。 慌てて振り向くと・・・やはり、先日私に声を掛けて来た男だった。
「あなたはっ!! 手を離してくださいっ!!」
「ちょっと待ってくれって、うちの仲間もミオちゃんが見知らぬ男と歩いているのを見て、さすがに放っておけなくなっただけさ。 危害を加える訳じゃないって。」
「何を言っているんですか!! あんな人数で取り囲んで・・・バカじゃないのっ!?」
「なんだと!? こっちが下手に出てやっているってのに、この女ぁ~!!」
「何が『下手に出てやっている』だ!! 離せっ!! ミオさ~~ん!!」
「おい、なんなんだナ、お前らは・・・」
「自分たちに何か用かい? 見たところ初対面だと思うんだが。」
10名近くに取り囲まれたミオと猫田さん。
ミオは明らかに不機嫌そうだが、猫田さんは相変わらずの飄々とした態度だ。
先日、私を取り囲んだ時にもいた人族の男が一歩前に出る。
「おいっ! そこの黄色頭っ!! お前がキュートラちゃんをたぶらかしたのか!?」
「え? えーっと・・・キュートラチャンとは、何のことだい?」
「ミオちゃんのことだよ!!」
「「は?」」
ミオと猫田さんの頭の上に「?」マークが浮かぶ。
「だーかーらー、キュートラは俺たちキュートランガード内でのミオちゃんの愛称なんだよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・次から次に訳の分からない単語を聞かされて・・・思考が追い付かないんだが・・・えっと・・・ミオは実はキュートラだったのかい?」
「おいネコタ・・・ミオはミオだ。 そんな訳の分からん名前な訳がないだろう・・・」
「そうなのかい?」
「おう。」
「そうか、それなら良いのだけど。」
「おう。」
「待て待てっ!! 2人だけの世界を作っているんじゃねぇっ!! お前はミオちゃんの何なんだよ!!」
「自分かい? 自分はミオと同じパーティに置いてもらっている者だよ。 そうだよなミオ?」
「ネコタ・・・お前は・・・ミオの事をただのパーティメンバーだと言うのか?」
「いやいや、もちろんミオの事は大事だと思っているさ。」
「お、おう・・・それなら良いんだナ。」
「ああ、もちろんだよ。」
猫田さんの一言一言に反応するように、怒り? 喜び?・・・ミオの纏う空気は目まぐるしく変化する。
「だから、2人だけの世界に浸ってんじゃねぇって!! お前がミオちゃんに手を出したんだろうがっ!!」
キュートランガードの猫獣人が、猫田さんの襟元を掴もうと手を伸ばす。
当然のように猫田さんはスルりと躱す。
猫獣人は、勢い余って前のめりになり、屈んだような格好になる。
「お前! ネコタとか言ったか!? 避けてるんじゃねぇよっ!!」
「そんなこと言われてもねぇ・・・見ず知らずの人に襟を掴まれそうになったんだ、避けるだろう普通は・・・」
屈んだ状態で猫田さんに顔を向けた猫獣人の目の前には、ちょうど猫田さんの腰の刀があった。
そして、その刀の柄にぶら下がっているトラの根付を見て驚愕する。
「お前・・・ソレ・・・トラか?」
「え? ああ、コレかい? ミオに貰ったんだよ。 結構カワイイだろう?」
「ミオちゃんに・・・貰った・・・だと?」
「ああ、そうだよ。」
「嘘を言うなっ!! お前、そんなもの付けやがって!! ミオちゃんは自分のものだと主張しているつもりかっ!?」
「え? どういうこと!?」
「うるせぇっ! もう辛抱ならねぇっ!! コイツをやっちまえっ!!」
猫獣人の一声で、周りにいたキュートランガードたちが、一斉に猫田さんを取り押さえようと飛びかかった。
その光景を少し離れたところで見ていた私は、さすがに我慢の限界を迎えていた。
「こんなの許せないっ!!」
私の手首を掴んでいた男の手に手刀を叩き込んで手を振りほどき、私はミオたちの元に駆け出した。




