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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第9章 クロエとミオ5

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第3話

 冒険者パーティ星夜の灯火は、請け負ったクエストのため、第9国と第4国の国境に位置するシザース高地にやって来ていた。

 クエストの内容は『ケーニヒ・エーベル』と呼ばれる大猪の牙の納品である。


 シザース高地自体は、アローヘッド市から徒歩移動で3~4日くらいの距離である。

 様々な素材が得られるため、素材採取のクエストも多く、新人冒険者も割とよく訪れる場所ではある。

 しかし、野獣・魔獣の類に遭遇することは多く、奥地に行けば行くほど、強力な魔獣に遭遇する確率は上がる。


 今回のターゲットであるケーニヒ・エーベルは、普通のイノシシの2倍以上は大きいもので、その突進力は脅威であるが、熟練した冒険者であればなんとかなる・・・と言ったレベルの野獣である。 もちろん突進をまともに喰らえば、人間などひとたまりもない。


 ケーニヒ・エーベルの遭遇例が多いのは、シザース高地を横切る第9国と第4国を繋ぐ街道の南側である。 そのため、グスタフたちは南へ向かった。



 シザース高地に入ってケーニヒ・エーベルを探すこと既に6日目。

 ケーニヒ・エーベルは、どこにでもホイホイ現れるものではないが、この探索では運悪く中々出会えない。

 そのため、どんどん南に向かって進んでいた。


「ねえ、グスタフ。 もうアローヘッドから出て10日よ、一旦出直した方が良くない?」

「そうだな・・・こんなに手間取るとは思わんかったな。 日数も経っちまっている上に、結構奥に来ちまっているしな。 猫田、ミオ、今回は一旦出直しで・・・ってことで良いか?」

「うーん。 ミオはもう少し探すのが良いと思うナ。 また来るのもメンドーじゃないかナ。 クロエには心配かけるけど・・・」

「自分は・・・そうだな・・・リーダーに従うよ。」

「おい、ネコタはミオに従え。」

「だそうだよ、グスタフ。 自分に意見を述べる権利はないようだ。」

「そうか・・・猫田・・・お前も大変だな。 よし、今日1日探してダメなら戻ろう。 シンシア、それで良いか?」

「分かったわ。 今日1日だけよ。」

「おう。 ミオもそれで良いな?」

「分かったナ。」

「良し、じゃあ行こうぜ。」


 そうして、グスタフたちはさらに奥地へ踏み込む。

 鬱蒼とした森の中をしばらく進むと、開けた場所に出た。


「どうやら今回は、とことん運に見放されているようだね。」

「そーだナ。」

「そうね。 でも結構奥まで来ているはずなのに、ケーニヒ・エーベルどころか全然野獣に出くわさないわね。」


「仕方ない、今回は諦めるか・・・どうしたミオ?」

「・・・なんか、視線のようなものを感じるのナ・・・」

「ああ、何か・・・いる感じがするな・・・」

 猫田さんが言いかけた時、前方にある小高い丘の陰から大きな岩が飛んで来るのが見える。


 ミオと猫田さんは、素早く左右に分かれるが、シンシアは突然のことに棒立ちになってしまい動けないでいた。


「シンシアっ!」

 咄嗟にグスタフがシンシアを抱えて、岩の着弾地点から離れる。


 ドカン! と、岩の落下する音が響き、激しい土煙があがった。


「ボーっとしてんじゃねぇ!!」

「ご、ごめん、グスタフ。 ありがとう。」

「お前は離れていろ。 遠距離から支援を頼む。」

「分かったわ。」

 シンシアは、弓を手に後方に下がる。

 その間に、ミオと猫田さんは岩の飛んできた丘に近づいて行く。


 丘の陰から、長い腕が伸びて来るのが見えた。

 その腕が丘のてっぺんに掛かったと思うと、巨大な人影っぽいものが飛び上がる。

 そして、飛び上がりながら、もう片方の手に持っていた岩を投擲してきた。


 スドォん!!


 岩は、グスタフのいた辺りに着弾するが、グスタフは既に移動しており岩の直撃を喰らうなんてことはなかった。

 岩の直撃は回避したものの、飛ばされた瓦礫がグスタフにビシビシと当たる。


「うおっ! いてててて・・・クソっ! 痛てえじゃねぇか!!」

「グスタフっ!」

「問題ない! 俺も前に出るからな!!」

「気を付けてね。」

「おう!! お前こそ気を付けろよ!!」

 グスタフも背の大剣に手を掛けて、丘に向かう。


 巨大な人のような魔物は、今度は丘の上から猫田さんを目掛けて飛んだ。

 飛びながら、その長い腕を突き出す。


 猫田さんは、パンチを回避するのではなく、更にスピードを上げて巨人に向かって走る。

 巨人が着地する前にその下を通り抜け、通り抜けざまに丙九式・改で巨人の足に突きを数回入れた。


「結構固いな・・・」

 猫田さんの放った突きは、巨人の足に当たりはしたものの、その分厚い皮膚をわずかに傷つけただけだった。

 猫田さんは、丙九式・改をその場に突き立てると、リーチに劣るものの、より切れ味の鋭い刀「鉄芯」を抜く。


「ちょあぁぁぁぁ~!!」

 着地した巨人に対し、ミオが腰に巻いていた鞭を振るう。

 超高速で繰り出される鞭による打撃は、巨人にビシビシと音を立てて当たる。 同時に巨人の頭上には、シンシアの放った矢が降り注ぐが弾かれてしまう。

 どちらもあまりダメージは与えられていないようだ。


 巨人の注意がミオに向かう。 体長5メートル近くはあろうかという巨人の1歩は大きく、あっという間にミオのいた場所に近づくが、足の速いミオは、常に等距離を保つように後退しながらも鞭を打ち続ける。


「ぶっ倒れろっ!!」

 走り込んできたグスタフが、巨人の左足に向けて大剣を振り抜く。

 直後に、猫田さんが巨人の背後からグスタフの斬った場所に追撃を入れながら駆け抜ける。


 おおおおぉぉっ!!


 巨人の叫び声があがった。

 巨人は、左膝をついて屈みこむ。 好機とばかりにミオは巨人の顔面目掛けて鞭を振るう。 さらにシンシアの風魔法も巨人を襲った。


 巨人は、両腕で鞭と魔法による攻撃を防いでいたが、偶然か、それとも狙ったものか、ミオの鞭を掴んだ。

 ミオの鞭を掴んだ巨人は、一気に鞭を引き寄せる。


「うわ!?」

 鞭を手放す間もなく、ミオは吸い寄せられるように巨人の手の中に納まってしまう。


「みぎゃあぁっ!!」

 ミオの叫び声があがった。

 巨人は、ミオの叫び声など意に介さずに、掴んだミオをシンシアに向かって投げつけた。


「「ミオっ!!」」

 グスタフと猫田さんが同時に声を上げる・・・直後、2人は正反対の行動を起こす。


 グスタフは、巨人の隙を逃さずに、再度左足に渾身の一撃を入れる。

 猫田さんは、鉄芯を投げ捨てると、砲弾と化したミオを追う。


 いくら猫田さんの足が速いと言っても、巨人の全力投球に追いつけるはずがない・・・

 しかし、猫田さんはいつもの超スピードを遥かに超える超々スピードで疾駆する。

 猫田さんが地面を蹴ると、まるで地面が爆発したかのような爆音と土煙があがっていく。


 シンシアの手前数メートルという所で、ミオに追いついた猫田さんは、横っ飛びにミオを抱きかかえた。

 そのお陰で、ミオの進行方向がシンシアから外れる。 シンシアからは外れるが、勢いはそのままに森の木々を数本薙ぎ倒して止まった。


「猫田!! ミオっ!!」

 シンシアは、慌ててミオたちの吹っ飛んで行った先に向かった。


 すぐに2人は見つかった。

 ミオを胸に抱いた猫田さんは血塗れだったが、まだ意識を保っていた。

 ミオは、気を失っている様だった。


「猫田! しっかりして!! これを早く飲んで頂戴!!」

 シンシアは、猫田さんの口にヒーリングポーションの瓶を当てる。


「すまないね・・・いただくよ・・・」

 猫田さんは、切れかかる意識をなんとか繋ぎ止めながら、ポーションを飲み込む。

 続いて、2本目も飲みほしたが、3本目を飲む前に意識が切れた。


「猫田っ!!」

 シンシアは、猫田さんが死んでしまったのかと思ったが、顔を近づけると微かに呼吸音が聞こえる。


「う・・・痛ぁ・・・」

「ミオっ! 気が付いた?」

「う・・・シンシア? 体中痛いんだが・・・?」

「早くポーション飲みなさい。 今はとにかく猫田を・・・」

「何? ネコタがどうした?」

 ガバっとミオが起き上がると、自分の目の前に血だらけの猫田さんが見える。


「おい、ネコタ・・・やられたのか?」

「ミオ・・・猫田は、私とあなたを庇って・・・」

「何だと!?」

「今は気を失っているようだけど・・・ケガの程が分からないわ・・・意識がないからポーションも飲めないし・・・」

「ミオを・・・庇った?」

「ええ、とりあえず意識があるうちに2本だけ飲ませたんだけど・・・それで足りるケガとは思えないわ・・・」

「ポーションをよこせっ!! ミオが飲ませる!!」


 ミオは、ポーションを口に含むと、猫田さんに口移しでポーションを流し込む。

 1本、2本・・・シンシアの手持ちのポーションが尽きるまで、それは続いた。


「傷は・・・大分良くなったように見えるけど・・・両足の傷はまだみたいね・・・とりあえず止血をして・・・ああ、こういう時にクローエの魔法があれば・・・」

「シンシアっ!! クロエが悪いみたいに言うなっ!! これは・・・ミオの所為だ・・・ミオが弱いから・・・」

「ミオ・・・」


「おい、シンシア平気か?」

 猫田さんの投げ捨てた刀を持ったグスタフがやって来た。


「グスタフ・・・私は平気よ。 ミオも・・・多分大丈夫・・・ただ、猫田が・・・」

「グスタフ、あの巨人はどうしたんだナ?」

「おう、とりあえず足はぶっ壊して動けない様にしたが、まだ死んじゃいない。 トドめを・・・って場合でもなさそうだな。」

「ええ、猫田を早く街に運ばないと・・・」

「そうだな。 ミオ、お前は大丈夫なんだな?」

「うん、ミオは平気だナ。」

「よし、猫田は俺が担ぐ。 ミオ、俺の剣を持ってくれ、重いが頼むぞ。 シンシアは猫田の剣を頼む。」

「分かった。」

「分かったわ。 でもグスタフ、ここからだと・・・」

「ああ、ここからアローヘッドに戻るよりは、第4国に向かった方が遥かに速いだろう。 恐らくクラスト市が一番近いはずだ。 つっても数日はかかると思うが。」

「じゃあ早くそこに向かうんだナ!」

「よし、すぐに発とう。 クロエに心配かけちまうが・・・他に手が無え。」

「そうね、仕方ないわよ。 さあ、早く行こう。」


 星夜の灯火メンバーが、第4国キャンサーの都市クラスト市に辿り着いたのは、それから5日後のことであった。


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