第1話
私が図書館での調べ物をしている間に、クエストに向かったグスタフたちが戻って来ない。
予定では10日くらいで戻るはずだったのに、すでに13日経過している。
数日の遅れはあるかもしれないと、私はホームで待っていたけど、少し遅いような気がする。
パーティメンバーの安否が気がかりで仕方のなくなった私は、じっとしていられず・・・かと言ってアテもないため、藁にも縋る思いでギルドを訪ねてみた。
「あら、クロエちゃんいらっしゃい。 今日は1人?」
ギルドの受付嬢の1人である猫獣人のエイミーが声を掛けてくれた。
「エイミーさん、クエストに向かったグスタフたちが予定を過ぎても戻って来ないんです。 簡単な採取クエストだって、シザース高地に向かったハズなんですが・・・なにか連絡はありませんか?」
「そうなの!? ちょっと受注リストを確認してみるわね? ちょっと待っててくれる?」
エイミーは、カウンター奥の事務室に消えて行った。
私は、エイミーを待つ間カウンター前を行ったり来たりする。 じっとして待っていることなど出来ない。
しばらく(もしかするとホンの少しの間だったかも)待っていると、エイミーが事務室から出て来る。
「クロエちゃん、こっち・・・奥の部屋に来てもらえる?」
「は、はい・・・分かりましたエイミーさん。」
エイミーに案内されるまま後ろについて行くと、事務室を通り抜けて奥にある階段で2階に上がる。
「こっちだよ。」
エイミーに案内されるままに行きついたのは、ギルド長の部屋の前だった。
「クロエちゃん、入って。 ギルド長がお話ししてくれるそうよ。」
「はい・・・」
私が、ドアをノックすると「どうぞ」と声がした。
「失礼します・・・」
恐る恐るドアを開けると、やせ形で背の高いエルフ種の男性が立って迎えてくれる。
アローヘッド冒険者ギルド長のエリオットさんだ。 姿は見たことはあったけど、直接話をするのは初めてだと思う。
「星夜の灯火のクロエさんですね。 どうぞお掛けください。」
私は、ギルド長の勧めに従って、来客用のソファーに腰掛ける。 ギルド長は私の向かい側に座った。
「あのっ・・・本日はお忙しいところ・・・」
「クロエさん、仰々しい挨拶は不要です。 グスタフ君が請けているクエストの件と伺いましたが。」
「あ、はい。 恐縮です。 グスタフがクエストでシザース高地に向かってから、もう2週間近くになるんです。 簡単な採取クエストで、10日後には戻ると言っていたのに・・・1日2日の遅れはあるだろうと思って待っていたんですが、ちょっと遅すぎます。」
「そうですね。 彼の請けたクエストは、シザース高地に生息している『ケーニヒ・エーベル』の牙の納品クエストですね。」
「イノシシ王の牙の納品ですか!? 簡単な採取・・・って言っていたのに・・・」
「まあ、簡単という程では無いと思いますが、彼の実力であればそこまで難しいものでは無いでしょう。」
「そう・・・なのかも知れませんけど・・・私、心配で・・・でも、探しに行ったとしても会えるかどうかも分かりませんし、行き違いになる可能性もありますし・・・」
「貴女のおっしゃるとおりだと思います。 1人でむやみに動かなかったのは賢明な判断だと思いますよ。」
「他に頼れるあても無いんです。 ギルドで何か情報はありませんか?」
「申し訳ありませんが、個々の冒険者やパーティの現状を知るすべはありません。 どこかのギルドに立ち寄ってくれれば、ギルド間の連絡網で手紙などよりは早く情報伝達は可能ではありますが・・・」
「でも、ギルドに立ち寄るって・・・わざわざアローヘッドのギルド以外に向かう理由がありません。」
「そうですね・・・ですが、シザース高地であれば、場所によっては第4国のテスタ市やクラスト市のギルドの方が近いという事はありますが・・・」
「・・・・」
「後は・・・申し上げにくいことではありますけど、仮にグスタフ君等の冒険者登録証が発見されることがあって、それらがどこかのギルドに届けられれば、当ギルドに連絡が入ることにはなります。」
「・・・・」
「クロエさん、今はまだ動く状況にないと思います。 お辛いとは思いますが、もうしばらくはホームでお待ちいただいた方がよろしいかと・・・ケーニヒ・エーベルを見つけるのに時間がかかっているだけ、という可能性もありますし。 ギルドの方に彼らに関する情報が入れば、クロエさんにお伝えします。」
「・・・分かりました。 もう少し待ってみます。」
「くれぐれも短気は起こさないで下さいね。」
「・・・はい。 お忙しいところお時間をいただいてしまって・・・申し訳ありませんでした。」
「ええ、私もグスタフ君たちの無事を祈っています。」
「はい。 ありがとうございます。 それでは・・・失礼いたします。」
私は、ギルド長と案内してくれたエイミーにお礼を言って、一旦ホームに戻ることにした。
「クロエちゃん、大丈夫でしょうか? 随分やつれていたように見えましたが・・・」
「そうですが・・・今は何かしてあげられる事はありませんね。」
「はい。 私、時々クロエちゃんの様子を見に行ってもよろしいでしょうか?」
「是非そうしてあげて下さい。 まあ、時間外手当は出せませんけど。」
「もう。 そこは出しますって言ってくださいよぉ。」
「それは規定上無理ですよ。 ただ、私が個人的にエイミーさんにご馳走する・・・とかくらいしか。」
「本当ですかギルド長! 毎日確認に行っちゃいます!!」
「いえ・・・ご迷惑にならない程度でお願いしますね。」
「はいっ! じゃあ、私も仕事に戻りますね!!」
「ええ、そうして下さい。」
エイミーは、エリオットに一礼するとバタバタと階段を駆け下りて行った。
どこをどう歩いたものか・・・気が付くと、私はホームの前にいた。
カギは・・・やっぱり掛かったままだ。
皆、まだ戻ってきていないようだ。
私は、そのまま部屋に上がり、黒猫のクーニャを抱いて、ベッドに横になった。
・・・・・
いつの間にか寝てしまっていたようだが、1階から声が聞こえたように思えたので、ベッドから飛び起き1階に駆け下りた。
「クロエちゃん!!」
玄関のドアを少し開けて、その隙間から顔を出していたのは、ギルドの受付嬢エイミーだった。
「・・・エイミーさん・・・?」
「クロエちゃん、ゴメンね。 何回か呼んだんだけど、返事が無くって・・・ドアノブ捻ったら開いたから・・・ダメだよ、戸締りはちゃんとしないと。」
「すみません。 エイミーさんはどうしてウチに?」
「うん。 余計なお世話と思ったんだけど、クロエちゃんが心配でね。 ちょっと様子を見に来たんだ。」
「すみません。 ご心配をおかけしまして・・・」
「クロエちゃん、ご飯は食べてる? 私、食材持ってきたから、ご飯作るね? 今日は一緒に食べよう。」
「いえ、あまりお腹は空いていない・・・と思うので・・・」
「ダメダメ。 どうせ何も食べていないのでしょう? 今日は私と食べるの。 今から作るから、クロエちゃんは掛けて待っていてね。」
エイミーは、そう言ってホームに上がると、台所に向かっていく。
私は、エイミーに言われるとおりに食卓の椅子に座った。
次第に、エイミーの作る料理の香りが漂ってくる。
ぐうっ・・・と、私のお腹が鳴った。
「あ・・・すみません、エイミーさん。 やっぱり結構お腹空いていたみたいで・・・」
「いいよー。 もうすぐ出来るから、もうちょっとだけ待っていてね。」
「はい・・・ありがとうございます・・・」
私の目から勝手に涙が流れだした。
「お待たせ~。 一緒に食べよう・・・って、クロエちゃん泣いてるの?」
「いえ・・・なんか勝手に流れ出して・・・すみません。」
「そっか・・・随分我慢していたんだよね。 いいんだよ。」
「はい・・・すみません。 お料理・・・いただきます!」
「うん。 食べよう、食べよう。」
エイミーの作ってくれた料理は、とても美味しかった。
食事の間中、私を元気づけるためか、エイミーは色々な話をしてくれた。
私は、数日ぶりに少しだけ元気が戻って来たように思えた。




