第13話
アクラブ市に向かう街道でマンティコアと戦った日の夜。
覚えたばかりの魔法を全力使用したことにより、魔力切れを起こしたクーはそのまま眠ってしまい、ゲオルグが見張りを務めている間、私もクーの横で眠っていた。
「おい、お前・・・起きなさい!」
「・・・・・」
「ワタクシが来ているのに、なんて無礼な人間なのかしら? 早く起きなさい。」
「・・・・・」
「すでに覚醒しているのはわかっているのですよ・・・人間。」
「ちっ・・・」
「お前・・・今舌打ちをしましたか?」
「いいえ、していないわ。」
「まあ良いでしょう。 ワタクシは慈愛の女神、この広く大きい胸でお前のことを許しましょう。」
「大して大きくないじゃないの・・・」
「なにか言いましたか?」
「別に・・・それで、何か用なの? ルーナさま(仮)。」
「この間は、途中で話がおわってしまいましたでしょう? お前が気になっているものと思いましてね・・・再度パスを開いたのです。 感謝なさい・・・って(仮)とはなんですか?」
「あなたが、本当に女神ルーナだなんて信じられないわ。 だからまだ(仮)よ。」
「お前は相変わらずですね・・・ワタクシの血を引いているとはいえ、神をも恐れないその図太い神経・・・」
「あ、そうだ。 先に教えて頂戴。 ルーナさま(仮)が私のクーに何かしたの?」
「おお・・・クーとは、いつもお前の近くにいるトラの獣人のことですね? ワタクシを慕う獣人はとても多くおりますが、クーはワタクシの事を大層慕ってくれていますからね。 少しだけ力を貸してあげましたのよ。」
「だからクーの魔法は『十六夜月』だったの?」
「お前は何を言っているのですか?」
「だーかーらー。 クーの魔法が中央大陸の言葉ではない『十六夜月』・・・なんてのはルーナさま(仮)の力の所為なんでしょう?」
「お前は何を言っているのですか?」
「2度も言うな!」
「『十六夜月』と言うのは、お前の生まれた国の言葉なのでしょう?」
「そうだけど?」
「だとしたら、お前の所為ではないですか。」
「え? そうなの?」
「まあ、お前に流れるワタクシの力が影響したのでしょうから、ワタクシの力とも言えますが、お前が四六時中クーに纏わりついているのが原因ではありませんか。 ワタクシは、クーが自らの魔法に気付けるようにしただけですわ。」
「クーの魔法は、効果が範囲に及ぶ、毒なんかの状態異常を治す魔法ってことよね?」
「やはり浅はかですね、お前は。」
「なんですって!?」
「クーの十六夜月は、毒などを癒すのはもちろんですが、魔法や薬による効果、果ては呪いをも消し去る魔法です。 神々の力に由来する呪いなどは、完全に消し去る・・・とまでは行きませんが・・・まあ、この時代にそんな呪いに出くわすことは無いでしょう。」
「なにそれ? スゴいじゃない!?」
「慈愛の女神の力に触れた者に芽吹いた魔法としては当然です。 ですが、魔力消費が激しい・・・これは、加減を覚えればある程度はなんとかなるでしょうけど。 それと、魔法などによる悪い効果だけではなく、有益な効果も消してしまうことが欠点ともいえますね。 もう1つ・・・クー自身には効果が及ばないのです。 ここまで教えたのですよ、感謝なさい。」
「なるほど・・・私の疾風の加護なんかの効果も消えるのね・・・」
「癒す魔法と言うよりは・・・健全な状態に戻す魔法と言った方が近いかもしれませんね。 それに、十六夜月だけではありませんのよ。」
「なに? それってどういう・・・?」
「それは・・・あ、あら? もう時間が・・・!! お前が余計な話をした所為で、肝心な話が出来なかったではないですか!! またワタクシが会いに来てあげますから、感謝なさい。 次はワタクシの話を邪魔しないように。 それでは、日々ワタクシに祈りを捧げなさい・・・」
「あ・・・消えちゃった・・・なんか、ルーナさま(仮)と話すと、どっと疲れるんだよな。 アイツ、現れる際に私の魔力を使っているんじゃないかしら?」
「おい、カメリア・・・大丈夫か?」
「ん・・・ゲオルグ?」
「なんかスゲーうなされていたぞ。」
「そうなの? まあ、楽しい夢を見ていたわけではないからね・・・(仮)め・・・」
「あ? なんだって?」
「ゴメン、なんでもないわ。 見張り交代するわね。 アンタも寝ておきなさい。」
「お前、大丈夫か?」
「平気よ。 またアンタに倒れられると困るわ、寝ておきなさい。」
「分かった。 じゃ、交代だな。 しかし、クーのヤツ・・・エラく寝ているけど、こっちは大丈夫なのか?」
「多分ね。 初めての魔法だったのに、目一杯魔力を使っちゃったからでしょう。 それに子供はよく眠ったほうが良いでしょう?」
「そうだな。 そんじゃ、俺は休ませてもらう。 カメリア、見張り頼んだぜ。」
「ええ、お休みなさい。」
私は見張りをしながら、ルーナさま(仮)が、最後に言いかけていたことを考えていた。
十六夜月だけじゃない・・・確かにそう言っていた。 クーに十六夜月以外にも魔法が発現したって言うことかしら?
十六夜月についても、加減を覚えればって言っていたし・・・全力使用をしなければ・・・例えば、対象を「1人」にして「毒を消す」効果だけに絞ることができれば、魔力消費を抑えられるってことなのかも?
傷を治す効果は無いようだったけど・・・健全な状態に戻す・・・か、使う場面は限定されるけど・・・心のキレイなクーにピッタリの魔法だ。
本当に他の魔法も発現したのだとしたら・・・早く聞きたい。
夜が明けて、再びアクラブ市に向かって移動をしている最中に、ようやくクーが目を覚ました。
「おはよう、クー。」
「あれ? おはようございます・・・リア姉。 私・・・あれ? あの・・・なんか変な魔獣と戦って・・・? 魔法を・・・夢?」
「夢じゃないよ、クー。 クーの魔法で何人もの命が助かったんだよ。 皆クーに感謝していたよ。」
「本当に!? じゃあ、襲われていた人たちは大丈夫だったの?」
「ええ。 残念ながら亡くなった人はいたけど、クーが魔法で毒を消した人は助かったよ。」
「そうですか・・・亡くなった人がいたのは残念ですけど・・・助かった人がいたのなら良かったです。」
「クーの魔法のお陰だよ。」
「そうだ、魔法!! 私、魔法を覚えたんだよね!?」
「そうだよ。」
私は、クーの頭をそっと撫でる。
「でも・・・『イザヨイヅキ』ってどういう意味なんだろう?」
「十六夜月は・・・平たく言うと、満月の次の日の月のことだね。 それのカッコイイ言い方・・・みたいな感じかしら? 私の故郷の言葉だよ。」
(本当なら「雅」だとか「風流」だとか言った方が良いのだろうけど、中央大陸の人間には伝わり難いだろう・・・でも「カッコイイ」はちょっと雅じゃないかなあ・・・)
「リア姉の故郷の言葉・・・か・・・でも、なんで私の魔法がリア姉の故郷の言葉なの?」
「どうなんだろうね? クー吸いの効果とか?」
「クー吸いと姉吸いで、私の中にリア姉の『気』が入っていたから?」
「そうだったりしてね。 ところで、クーの十六夜月は・・・」
「うん。 毒とか・・・魔法とかによる効果を打ち消す魔法みたい。」
「今回は初めての魔法で、クーは全魔力を注いで使用してしまったから魔力切れを起こしちゃったんだろうね。 クーの十六夜月は、使用対象と効果を絞れるんじゃない? 対象を絞れば、もっと魔力消費を抑えられると思うわよ。 今度練習しよう。」
「そうなんだね。 うん。 あ、そう言えばもう1つ・・・」
「もう1つ?」
「はい。 十六夜月と一緒に『オボロヅキ』って言う魔法が浮かんだんです。」
「オボロヅキ・・・『朧月』ね。 これも私の故郷の言葉だね。 月がモヤとかで霞んでいる状態をカッコ良く表現した言葉だね。」
「なるほど・・・だから朧月は、幻影を見せる魔法なんだ・・・」
「幻影魔法か・・・どっちの魔法も、月に纏わる名前なんだね・・・」
「そうですね。 そう言えば、魔法が浮かぶ直前にリア姉と良く似た人を見たような気もします。」
「ルーナさま?」
「いえ、髪は白くって・・・目も赤かったような・・・ですから、ルーナさまではありません。 でも、リア姉とは違う人だっていうのは分かります。」
「そっかあ・・・でもまあ、クーにこんなにも早く魔法が発現するなんてね。」
「はい、リア姉のお陰ですね。」
「ふふ・・・今度からはマジックポーションも常備しておいた方がいいね。」
「そうですね。 私、魔力量はあまり多くなさそうですから。」
「うん。 十六夜月は、魔力を沢山使うっぽいからね。 朧月は・・・後で練習してみようね。」
「はいっ!!」
クーが、とても良い顔で笑った。
十六夜月は、強力だけど使う機会は限られてくる。 しかも、クー自身には効果が無いようだし。
そうか。 だから魔法を使った時、クーの髪の色を偽装する魔法は解除されなかったんだな。
朧月は、幻影魔法だという・・・実際に使ってみて効果を確認してみないとだけど、こっちは剣士としてのクーには非常に役立つかもしれない。
やはり、私の中のルーナの力が影響したのであろうか、どちらの魔法も稀少な魔法だと感じられた。
「おい、お2人さん。 そろそろ昼飯にしようぜ。」
御者をしていたゲオルグが、馬車を止めて言った。
「もうそんな時間?」
「おう、そんな時間だ。」
「ゲオルグさん、ごめんなさい。 私がずっと寝ていたら。」
「大丈夫だぞクー。 ジュバでカメリアに腰を治してもらってからはすこぶる調子がいいからな。」
「良かったです、お昼用意しますね。 午後は私が御者しますので。」
「そうか、スマンな。 もう1~2日でアクラブにも到着すると思うぜ。」
「そうなんですね。 こんなこと言うのはなんですけど・・・新しい街はワクワクしますね。」
「そうね。 アクラブの次は第12国か・・・私はこんなに色々な国に行けるなんて思っていなかったから・・・私も少し楽しみだわ。」
その後、私たちの旅は順調に進んだ。
ゲオルグの言っていたとおり、2日目にはアクラブ市に到着する。
アクラブ市でも、ブルグマンシアに関する情報は得られず、一泊だけしてすぐに第12国を目指してアクラブ市を発つ。
エルザに指定された合流期日を考慮した結果、海岸部に位置する第12国の王都アルフェルグまでは行くことができなかったのはちょっとだけ残念だったけど、まあ入国できただけで良しとする。
立ち寄った街々で、エルザたちへの土産として購入していた土地土地のお酒も、結構溜まって来ていた。
「エルザたちは、どうしているかしら? 無事にお役目は果たせているのかな?」
「そうだね、うまく行っているといいね。 私、早くエルザさんたちに会いたいです。」
「そう? 私はクーがいれば十分だけどね。」
「ありがとう、リア姉。 私もそうだけど、エルザさんとパトリックさんには会いたいな。」
「まあ、私も会いたくないって訳じゃないけどね。」
「うん。」
「カメリア、クー。 それじゃあ、アローヘッドに帰るとしようぜ。」
「そうねゲオルグ、行きましょう。」
「おう。」
私たちは再びアローヘッド市を目指すため、南に向けて馬車を進めた。
~第8章 カメリアとクー4 終わり~




