第12話
翌日、ゲオルグはジュバ市の盗賊ギルドと冒険者ギルドも周ってみたようだが、ブルグマンシアに関する目新しい情報は得られなかった。
その日のうちにジュバ市を発ち、第8国の王都アンタレスを目指して北上する。
第8国は、荒れた土地が多く感じられた。 ゲオルグによれば、場所によっては一面砂に覆われた砂漠もあるらしい。
およそ10日かけて、第8国王都アンタレスに到着した。
王都は、もの凄く大きなイクリール湖という湖に隣接して建設されている。
ジュバ市を始め、途中立ち寄った小さな村などは、いずれも水の乏しい地域と見受けられたが、この王都は水に恵まれていた。 そのためか、アンタレスは物凄く大きく人も多い。 多分サジタリアよりもかなり大きいのではないか? 王都周辺には樹木も多く、これまで見て来た第8国とは、全く違った印象であった。
イクリール湖からは、第11、12国に向かって川が流れており、その2国の水源にもなっている。
中央大陸は、基本的にその中心部の標高が高く、沿岸部に向かって標高が低くなる。 そのため、残念ながらこの湖は、王都よりも標高の高いジュバ市などには恩恵をもたらさないようだ。
王都には、4日ほど滞在したが、やはり目ぼしい情報は得られなかった。
次は第12国を目指すため、まずは第8国の北の街アクラブ市を目指す。
王都を発った日から4日目、半分砂漠化した荒野を進んでいる時だった。
「リア姉、ゲオルグさん、先の方から音がします。」
御者を務めていたクーが荷台にいた私とゲオルグに向かって言った。
「どうしたクー? 音ってどんなだ?」
クーに聞こえている音は、目端の利くゲオルグにもまだ捉えられていないらしい。
「なんか・・・人の叫び声みたいな・・・いえ、叫び声です! 何かに襲われているのかも!?」
「なんだって!?」
「行きます!!」
クーは馬に鞭を入れて、スピードを上げる。
少し進むと、なにか大きな魔獣に襲われている一団が見えた。
襲われているのは、数台の荷馬車の集団だ。 冒険者風の5~6名が魔獣と戦っているようだ。 その後方にいるのは商人かなにかであろう。 魔獣は1匹のようだが、大きく結構手強いようだ。 冒険者が次々と薙ぎ払われて行く。 破壊された馬車も見える。
「ゲオルグさん! 馬車をお願いします!! リア姉お願い、力を貸して!!」
言ったかと思うと、クーは私とゲオルグの返事も待たずに飛び出していく。 クーの全速力での直線ダッシュは、今ではエルザはおろかゲオルグよりも早いかもしれない。
「おいっ! クーっ!!」
「仕方ない娘ね。 ゲオルグ、私が行くから馬車をお願い。」
「カメリア・・・だけど、まだ距離が・・・」
「疾風の加護。」
私は、倍速で走れる魔法を使って走り出す。 今の私ならこの距離はなんとか行ける気がしていた。
「カメリアのヤツ大丈夫か? 途中でぶっ倒れなければいいけど・・・とりあえずオレも行かにゃあならんかな。」
ゲオルグは、馬車を止めると自らも走り出した。
「やあああぁぁぁ~~っ!!」
いち早く集団に近づいたクーは、魔物から10数メートル手前でサーベルを振り抜いた。
クーの遠当てを食らった魔物がよろめく・・・が、ダメージはそれほど無いようだ。
長い尾を持つ獣のような姿をした魔物が、クーの方を見据える。 その間にも魔物の尻尾は、先の集団を薙ぎ払い、何人かを突き刺す。
魔物は、老人の様な顔を持ち、獅子の胴体にサソリの尻尾を持っている異形の姿だった。
「マンティコアってやつね。 イヤな姿だわ。」
「たあああ~~~!!」
クーは、更に近づいて再度遠当てを繰り出す。 今度は効いたのかマンティコアの肩口から血飛沫が上がる。
「クー!! 尻尾に気を付けて!! 毒よ!!」
「はいっ!!」
クーは、私の声を聞いて、それ以上近づかずに遠当てを放つ。
襲われていた側の冒険者は、皆やられてしまったらしい。 残りもケガ人がいると見える。
「アイツ等邪魔だわね・・・蒼氷障壁!!」
私は、マンティコアと襲われていた一団とを氷の壁で隔てる。
その間にもクーは、何発も遠当てを繰り出している。
「クー!! 下がりなさい!!」
「はいっ!!」
クーが飛びのくのを見た私は、攻撃に移る。
「白刃氷嵐!!」
マンティコアを中心に、白く輝く吹雪が吹き荒れる。
マンティコアの体中から血が吹き出す。 吹雪が収まると、マンティコアはよろめいている。
「クーっ!!」
「はいっ!!」
私の呼びかけへの返事と同時に、クーは宙に飛び上がり、そのまま魔物の首の付け根を狙ってサーベルを振り下ろした。
クーが着地すると、少し遅れてマンティコアの首が落ちた。
「おい、やったのか?」
馬車を止めてから、走って来たゲオルグが私に後ろから声を掛けて来た。
「ええ、今回はとてもうまく行ったんじゃないかしら。」
「そうだな・・・って、あれ? クーはどこに行った?」
辺りを見回すと、クーは倒れている冒険者や商人風の一団の近くにいた。
「これ・・・尻尾の毒? どうしよう・・・ヒーリングポーションじゃ毒は治せない。」
「ぐっ・・・うあああ・・・」
倒れている中にはまだ息がある者もいたが、皆体が紫色にはれ上がっていた。
「リア姉っ、毒だ!! どうしよう!?」
「待って今行くわ!!」
「ダメだ!! 早く・・・早くなんとかしないと!!」
急速に弱って行く人たちを目の当たりにしたクーが動揺していく。
「神さま!! ルーナさま!! 助けて!!」
その時、クーの頭に聞きなれない言葉が響いた。
「え? 何? これが・・・?」
それが自分の魔法だと分かった時、クーは同時にその効果も理解する。
私は、駆け寄りながらもクーの身に何かが起きたことを感じた。
クーは、一瞬動きを止めたように見えたが、すぐに倒れている人に向かって手をかざした。
「イザヨイヅキ」
クーの手から、やわらかい光が広がって行く。
光は倒れている冒険者を含めて、その場にいた全員を包むほどの大きさになった。
マンティコアの尻尾の毒に侵されて、紫色に腫れあがっていた部分が、クーの光を浴びると何事もなかったかのように元通りに戻って行った。
地面に転がって毒に苦しんでいた人たちがおとなしくなると同時に、クーは地面に倒れ込んでしまった。
少し遅れて私はクーのところに到着する。 クーは恐らく魔力切れで倒れてしまったのだろう。
クーの魔法の光を浴びた人たちの毒は消えたようだが、魔物の攻撃による傷は治っていない。 冒険者の中には、すでに息絶えている者も何人かはいたが・・・
別に治療してあげる義理は無かったのだが、せっかくクーが救った命だ。
このまま放っておいて死なれてしまっては、クーが悲しむだろう。
私は、ケガ人の治療を行った。 私の慈愛の心に感謝するがいいだろう。
襲われていた連中と別れ(やはり商人だった。 もちろんお礼はもらった。)、再び馬車でアクラブ市に向かっている途中、少しの間だけクーが目を覚ました。
「リア姉・・・襲われていた人たちは?」
「うん、クーの魔法で毒は消えたわよ。 生存者は、私が治療したから安心して。」
「ありがとう・・・私は・・・?」
「多分、魔力切れだと思うわ。 魔力が戻るまでしばらく休んでいなさい。」
「はい。 ありがとう・・・ツバキ・・・お姉・・・」
言い終わる前に、クーは再び眠ってしまったようだ。
私たちのパーティ『深紅』では、今まで魔法を使うのは私1人だけだった。
私は、今まで魔力切れを経験したことが無かったため、普通の魔法士なら大抵は持ち歩いている魔力切れ対策の切り札「マジックポーション」を持ったことがなかったが、今後は用意した方が良さそうだ。
クーの魔法は、恐らく状態異常を癒す魔法だ。 しかも、対象は1人ではなく範囲だ。
詳しい効力は、クーに聞かないとだけど、かなり高位の魔法に思えた。
「しかし・・・クーの魔法・・・『イザヨイヅキ』って言ってなかったかしら? もしかして『十六夜月』のこと? なんでクーの魔法がそんな名前なんだろう?」
そんな疑問が浮かんだが、その理由はすぐに判明することになるのだ。




