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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第12章 カメリアとクー6

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第6話

 夕飯の買い物を終えてホームに戻って来たとたんに、私から抱きしめられたクーは戸惑っていたようだ。

 しかし、何も話さない私の態度に何かを察してくれたようで、クーはしばらくは黙って待っていてくれた。


「ありがとう、クー。」

「何かあったの? いえ、良いんです。 夕食の準備をしちゃうので、居間で待っていてくださいね。」

「手伝ったらダメ?」

「ダメじゃないよ。 ありがとう、ツキ姉。」

「ううん。 私の方こそありがとう。」


 そして、夕食。

 食事の間に、エルザからクーに対して例の話がされた。



「そんな感じだ、クー。 明確な証拠がある訳じゃ無いんだが、色んなヤツの証言や状況からして・・・そんなに間違いは無いんじゃないかと思う。」

「そうですか・・・マイア・・・無茶なことしないと良いけど・・・」

「マイアだって!? クーっ!! マイアって、ブライアン=ウルススの娘、マイア=ウルススのことか!?」

「あっ!! 声に出ちゃった・・・」

「クー・・・」

「クーは、ウルススの娘と関係があるのか?」


 エルザに追及されたクーは、やむを得ずマイア=ウルススとの関係と、ロアー・リブ市での出会いをエルザたちに伝えた。


「ってことは、カメリアもゲオルグも知っていたってことかよ。 よくカメリアに殺されなかったな。」

「クーから手を出すなって言われたし、それに・・・」

「それに? 何だよ。」

「マイアは、ティグリスとウルススの因縁のことは知らない様だったし・・・裏表の無い良い娘だったわよ。」

「知らない人間にはトコトン冷酷なのに、知り合ったヤツには意外と甘いって言うか、お人好しな一面もあるんだな、オマエ・・・友達いないからか?」

「友達がいないってのは否定しないけどね。 だって、私はこの国の人間じゃないし、家族だって、ご近所さんだっていないしね。 知り合いが少ないのは仕方ないじゃない?」

「いや、それにしたってオマエ・・・もう何年もこの国にいるのに、アタシら以外の人間と全然拘わって来なかっただろう? 自分の所為じゃねえかよ。」

「ぐ・・・そうよ。 悪いとでも?」

「まあ、別に良いんだけどよ。 お前の『拒絶』を潜り抜けたヤツに対しては甘くなるってのは・・・ちょっと危ない気もするんだよな。」

「実際マイアは、悪い奴って感じはしなかったぜ。 クセは強めな娘だったけど、素直で良い娘だった。 さすがは幼少期を、クーと一緒に育っただけはあるって思ったぜ。」

「ゲオルグ・・・お前もかよ。 まあ、お前がそう言う風に判断したのなら大丈夫なのかもしれんが・・・」

「ちょっと・・・私の言うことは信じられなくて、ゲオルグが言ったら信じるの?」

「ゲオルグの人を見る目は、結構信頼しているぜ。 カメリアのは・・・分かるだろ?」

「分からないわよ。」


「まあ、マイアの件はいまさらどうしようもないか。 黙っていられるよりは、アタシも知れて良かったという事にしておこう。 それよりも、ここからだ。」

「あ、そう言えば、拠点がどうこうって言っていたわよね?」

「おう。 アタシらの長年のご奉仕が効いて来たみたいでな、近いうちにホーリーオーダーが行うブルグマンシアの拠点攻略に参加させてもらえそうなんだよ。」

「本当ですか!?」

「ああ、こき使われるだけだと思うけどな。 アタシらは行こうと思っているし、カメリアも了承済みだ。 クーはどうだ? 一緒に行くか?」

「ブルグマンシアの拠点攻略・・・もちろん行きますっ!!」

「よし、良いお返事だ。」

「それで、場所はドコ? 出発はいつになるのかしら?」

「分からん。」

「・・・・・」

「近日中に連絡が来るだろうから、準備だけはしておいてくれよな。」

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

「お、おう・・・大丈夫だぜ。 多分な・・・」


 それからは、クーと王都を探索したり、旅に必要な物資の買い出しをしたり、クエストをこなしつつ何事も起こらない日がしばらく続いていた。


 ある日の朝、ホームの玄関に封書が投げ入れられているのをゲオルグが見つけた。

 差出人の記載は無かったのだが、ホーリーオーダーからの連絡であると思われ、皆が集まる朝食の場でエルザが封書を開封し、内容を読み上げる。


 その文書は、予測通りホーリーオーダーからのもので、出発は3日後の4月29日。

 当日正午前に、王都西門からアローストリング市に向かって5キロほど進んだ地点で合流するとのことらしい。

 行先の記載は無かったが、現場まで馬車で片道25日程度かかるので、物資の準備をしておくように指示があった。


「王都西口から出て25日程度か・・・レゴート市じゃねえのか?」

「そうかも知れないな。 アローストリングまで2週間弱、そこからレゴートまでも大体2週間って感じだものな。 アタシら、レゴート市にゃ何度も行っているのにな。」

「ホーリーオーダーって、武力だけじゃなくって、本当に情報収集能力も高いんですね。」

「だな。」


(29日発で、移動25日前後ならルーナさま襲撃は、アローストリング市に着く前になるか・・・クエストの最中だから、私の聞きたいことだけ聞いて、今回は早めにお引き取り願おう。)


「良しっ! それで行こうっ!」

「突然どうした、カメリア?」

「え? え、ああ・・・なんでもないわよ。」

「?? そうかい?」



 そして、4月29日

 私たちは王都を出発し、西に向かう街道の途中でホーリーオーダーと接触した。


 合流場所にいたのは、馬車1台。 乗っていたのは、冒険者風の格好をした男2名、女1名の計3名だった。


 その内で、一番年上そうな男性が、私たちに声を掛けて来た。


深紅(クリムゾン)の皆さんですね。 私はノイマンと言います。 彼はレイナード、彼女はリッカです。 我々3人が現地までの案内役をしますので、どうぞよろしく。」

 ノイマンは人族。 レイナードはハーフエルフらしい。 リッカは犬系獣人族だ。


「私が深紅のリーダーエルザです。 よろしく頼みます。」

 その後、エルザが深紅のパーティメンバーを紹介するが、ノイマンと名乗った男以外は一言も発しなかった。


(一言も喋らないとか・・・パトリックかっつーの。 しかし、ホーリーオーダーって年中あの鎧マント着ている訳じゃないんだな。 しかも、女性騎士もいるのね・・・)

 なんて考えていると・・・横に立っていたクーが、小声で話しかけて来る。


「ツキ姉、広い心ですよ。」

「え?」

「だから、失礼だとか言って怒らないでね?」


(あー。 連中の態度が気に入らなくて、私がイラっとしていると思ったのかな?)


「平気よ。 心配しないで。」

「はい。」

 クーは、にっこりと微笑みかけてくれた。


 その後は、街道をひたすら西に進む。 全速力でって訳では無く、商隊なんかの移動速度とそれほど変わらないペースでの移動であった。


 そして日が落ちて来ると、最初の野営となる。


 旅の初日であるため、保存食ではなく通常の食材でクーが料理を作る。

 ホーリーオーダーは、保存食を食べようとしていたため、クーが彼らにも食事を振る舞った。 お肉やお野菜の他、例のスープの素で作ったスープも提供する。


「これは・・・!! 野営でこんなにおいしい料理をいただいたことは初めてです。」

「本当ですか、ノイマンさん。 お世辞でも嬉しいです。」

「確かにウマいな。」

「本当においしい。」

 無口だったレイナードとリッカも思わず声を上げる。


「このスープ・・・まるで、何時間も煮込んだみたいに美味しい。 クーさん、こんな短時間でどうやってこれを作ったのですか?」

「リッカさん、これはですねぇ・・・」

 こちらを警戒していたのであろうホーリーオーダーたちも、クーの料理でかなり警戒心を解いてしまったらしい。

 全く・・・私の可愛い(クー)は、人たらしの才能があるようだ。


 目的地や、任務に関することは話してはくれなかったが、ホーリーオーダーたちは食事の間の雑談には乗ってくれて、賑やかな夕食となった。


 それからは、お互いの緊張感はかなり取り払われ、普通に楽し気な旅となる。

 特にクーは、リッカに気に入られた様で、ホーリーオーダーの馬車に乗ったりもしていた。

 彼女もかなり若いようだし、年の近い女の子との会話がしたかったのかもしれない。

 年は私の方が近いとは思うんだけどね・・・


 そしてやってきた5月3日の夜


「人間、ワタシクが来ましてよ。」

「ルーナさま、待っていたわよ。」

「あら、珍しいこと。 ようやくワタクシの偉大さに気が付いたようね人間。 遅すぎるとは思いますけれどね。」

「聞きたいことがあるのよ。」

「またお前は・・・人間がワタクシに質問するなんて、どれほど無礼なことか分かっているのですか?」

「良いじゃないのよ。 ルーナさまは、私のご先祖様なんでしょう?」

「その言われ様は気に入りませんが・・・まあ、ワタクシは慈愛の女神と呼ばれ・・・」

「それはもういいわ。」

「相変わらずお前は・・・何が聞きたいのですか?」

「ルーナさまは、オーディア教団の聖女派って知っている?」

「・・・聖女派とか言う組織があるのは存じていますわ。」

「そう・・・聖女派って言うのは、秩序神に仇なしたとされる神々やその信徒を滅ぼすのが目的って聞いたわ。」

「その認識で、概ね誤りは無いでしょう。」

「私の里には、獄炎神がいたのよね?」

「そのはずですね。」

「じゃあ、ルーナさまの息子がいた所為で、私の里は聖女派に襲われた訳よね?」

「・・・その可能性は無いとは言えませんね。」

「じゃあ、真鞘兄さまは聖女派だったのかしら?」

「それはワタクシが承知するところではありませんが、他国の人間がホイホイと、気軽に入れる様な組織ではないと思いましてよ。」

「そう・・・やっぱり、兄さまは・・・」

「もういいかしら? それでは、今日のお題は・・・」

「待ってよ、ルーナさま。 カヅチ・・・いえ、獄炎神はいま何処にいるのか分からないの?」

「それは分かりませんね。 ですが、今年の初め位でしたか・・・獄炎神(フラマちゃん)の神力のようなものを感じたことがありましたわね。 ほんの僅かな時間でしたが。」

「そうなの!? 場所は分かるの?」

「はっきりと獄炎神の力だと断言はできませんが、この中央大陸内からでしたわ。」

「なんですって!? それが本当なら、未沙柄が中央大陸に来ているってこと?」

「それは何とも言えませんね。 さっきも言いましたが、獄炎神の神力だとは断言できませんし、確率的にはかなり高いとは言え、お前の妹が本当に獄炎神の力を継いでいるのかも分かりませんからね。」

「うーん・・・まあ、それもそうか。」

「もう良いですね。 それでは・・・」

「分かったわ。 答えてくれてありがとう。 後はルーナさまの好きにして頂戴。 但し、今はクエストの最中だからあんまり私の魔力を持っていかないで頂戴ね。」

「ワタクシに意見できる立場なのかしら? 人間・・・」


 以降、ルーナさまはベラベラと喋りまくっていたが、私は適当に相槌を打つなどし、ひたすら嵐の通り過ぎるのを待った。



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