第5話
エルザが語った内容は、オーディア教団成立から続く、非常に長くて小難しい話であった。
要約すると、以下のような話だ。
オーディア教団は、魔導帝国戦の最終決戦となった光と闇の12勇者の戦いを生き延びた、光の第6勇者ヴァルゴが創設したとされている。
ヴァルゴは、教団の最高権力者『教皇』(当時の呼び名は法王)となるが、ワリと短い期間で後進に席を譲り表舞台から姿を消す。
その後の教団は、教皇が亡くなる都度に、時の枢機卿ら幹部の投票により新たな教皇を選出し、中央大陸を統べて行くのだが、やがてその体制は腐敗して行く。
長い教団の歴史では、己の利のために秩序神の教えに背く神職が何度も現れるが、そう言った『背信者』を葬って来た組織がある。
1つは『ホーリーオーダー』だ。
ホーリーオーダーは、その名の通り秩序神を聖なる絶対神とする騎士団だ。
教団内の序列としては、枢機卿や司教、司祭などとは異なる系統で、教皇の直轄組織であり秩序神の教えを貫くためであれば、格上の相手でも力を振るうことが可能である。
それでは、教皇自身やホーリーオーダーが背信者であった場合はどうするのか?
それを解決してきたのが、もう1つの組織だと言う。
それは、表舞台から身を引いたヴァルゴが組織したものと言われており、教皇や枢機卿など教団幹部に背信者が現れた場合に動いて来たのだと言う。
もちろん、教皇自身が背信行為に手を染めていたなどと言う話は、教団外に出て来るはずも無いので、実際にはどうだったのかは分からないのだが、3千年もの間には、そう言った事例がいくつもあっても不思議ではないだろう。
正式名称は不明だが、その長は『聖女』と呼ばれている(一説では、聖女とは第6勇者ヴァルゴだと言われている)ため『聖女派』と呼ばれており、ここでもそれに倣うこととする。
区別のため本流の方は『教皇派』としておく。
聖女派の本来の目的は、秩序神の教えに歯向かう者『神敵』を滅ぼすことにあるのだと言う。
その神敵というのは、混沌神を始めとした、秩序神に敵対した神およびその信者たちのことだ。 もちろん教団内の背信者も含まれる。
そのため、聖女派の下っ端構成員は、教皇派に紛れて全国に散らばっており、中央大陸の外においても、混沌神らの信徒『邪教徒』に関する捜索活動を行っているそうだ。
「へぇー、そうなの?」
「カメリアぁ・・・お前は、相変わらず興味の無い事には、本当に無頓着だよなあ。」
「その聖女派とやらも、ホーリーオーダーも、似たようなことをしているってことにならない? 無駄じゃないの?」
「聖女派は、最も厳格な秩序神の信奉者の集まりで、特に邪教狩りに重きを置いているって感じかねぇ。 教皇派の方は、秩序神一辺倒ではなく、時代が進むにつれて、多少は融通が利くように変化してきていたりはするけどな。 ホーリーオーダーも、昔から比べれば多少は柔軟になっているみたいだぜ。」
「でも、ウワサもウワサ・・・聖女派が存在するっていう証拠がある訳じゃないんでしょう?」
「まあ、そうなんだけどな。 聖女派の噂話ってのは、昔からあるっちゃあるんだぜ。 なあ、ゲオルグ。」
「まあな。 ウワサはあるよな。」
「そう? で、それが聞かせたかった話なの?」
「いや、これからが本番だ。 聖女派の話も知っていてもらわんと、これからの話が伝わり難いと思ったから話した。 どうせカメリアは知らないと思ったからな。」
「そうなの? じゃ、続きを聞いてあげるから、早く話してよ。」
「上からのもの言いが気に入らないが・・・まあ、いいや。 確固たる証拠も無いし、憶測含みの話なんだがな・・・」
それからの話も、またまた長くなるので、纏めると次のような話である。
教団において、教皇に次ぐ地位を持つ『枢機卿』の中に、ブルグマンシアに関係する者がいると考えられているらしい。
ちなみに、枢機卿自体は数十名おり、枢機卿内でも偉さの順位があるのだそうだ。
1番格が高いのは『白色』枢機卿。 以下『金色』『赤色』と続く。 金色の方が偉そうに感じるが、教団にとっては、秩序神カラーである白色の方が尊ばれているのだろう。
その悪事を働いている枢機卿が誰なのかは判明していないが、その者は聖女派に関係している者と考えているとのことだ。
何故、そう言う考えになっているのかと言うと、人や物や金の動きから教団の関与が疑われること、また、特に金の動きが、教皇派とは別の組織から動きが認められるのだと言う。
そして、ウルスス家は、その黒幕からの指示により動くことで、現在の地位を得たらしいことが語られた。
「ふぅん。 でも、なんでアンタがそんなことまで知っているのよ。」
「まあ、詳しくは教えられないが、第9国で把握している情報と、ホーリーオーダーからも少し・・・って感じだよ。」
「だから、一介の冒険者に過ぎないアンタが・・・いくら上級貴族出身だからって、国の情報なんて得られるのよ。」
「まあ、アタシの美しさの賜物ってことにしておいてくれや。」
「・・・・・」
「ゲオルグはどう思うんだ?」
「ブルグマンシア関連については、盗賊ギルドの情報は当てにならんし、信用もできねぇからな。 ただ、話としてはあるんだと思うぜ。 むしろ、出来過ぎているって思うぐらいにな。」
「そもそも、聖女派があるとして、ソイツらは秩序神絶対主義なんでしょう? オーディア教国の国民を奴隷にするなんて、秩序神の教えに歯向かう行為じゃないのよ。 そんなこと聖女派がするのかしらね?」
「まあ、聖女派のトップとされる聖女様は、そんなことは夢にも思っていないんじゃないか?」
「どういうことよ。」
「聖女様は、あくまでも秩序神の教えを忠実に遂行しているつもりなんだろうぜ。 んで、配下の者が行っていることなんて、全部は把握していないんじゃないかって話さ。」
「知らないから許されるってこと?」
「そうじゃないけどな。 聖女派は、中央大陸以外でも秩序神の敵対者を探している訳だろう? 邪教を探して滅ぼすには、先立つモノはいくらあっても足りないだろう。 本末転倒気味ではあるが、聖女派の資金確保のために、実務を担う2番手とか3番手が手を汚しているってことはあるんじゃないか?」
「誘拐や奴隷にするのは見逃して・・・どころか積極的に主導して、邪教徒のせん滅を優先するって? それが本来の目的だからとしても、その2枚舌には呆れるわね。」
「まあ、そうなんだがな。 そう言う態度は、この国の人間の前では控えろよな。」
「ふん。 それで、ウルススはどう絡んでくるのよ?」
「ああ、ウルススは元々軍関係が強いしな、以前から第7国での活動に協力していた・・・まあ、検問なんかで見逃したりとかかな。 で、第7国内で増え始めた誘拐事件の解明に動こうとしたティグリス家を邪魔に思って・・・ってところじゃないのか?」
「ウルススに軍関連の権限を持たせた方が、黒幕にとっても、都合が良かったってことかよ。」
「・・・・・」
「カメリア?」
「いえ・・・じゃあ、クーの誘拐はその流れってこと?」
「その可能性は無い訳じゃないんだろうけどな。 クーの場合は、単に珍しいからってことじゃないか? ティグリス家が本格的に動き出したのは、クーの誘拐の後に思えるからな。」
「クーには、何を伝える気なの?」
「ウルススと教団のつながりは、やっぱりあるらしいって所かな。 後は、さらっと聖女派の話だな。」
「そう・・・」
エルザの話は、そんな感じで終わった。
クーが戻って来るまでの間、私は1人でエルザから聞かされた話を思い返していた。
そして、引っかかるものがあることに気付いた。
(あれ? 聞き流していたけれど・・・聖女派とやらは、中央大陸以外でも秩序神勢力と敵対した神々やその信徒を探していた訳よね? 金岡の里には『カヅチ(獄炎神)』がいて・・・獄炎神は、父親である冥界神と共に秩序神に敵対した訳だから、聖女派からしたらそれこそ滅ぼすべき邪神な訳で・・・って、金岡の里を襲ったのは、聖女派で・・・兄さまは聖女派に属していた? いや、もしかしたら聖女派の犯行と知って、復讐のために中央大陸に向かったとも考えられるかしら?)
ここに来て、一気に過去の出来事が繋がってしまったようにも思える。
大分、憶測交じりなので、事実かどうかは判断でき兼ねるけど・・・話の流れとしては出来過ぎている。
(やっぱり、真鞘兄さまに会わなくちゃいけないわね。 今度ルーナさまが現れた時に、その辺のこと聞いてみなきゃ・・・)
「ただいま帰りましたぁ~。 遅くなってしまいましたぁ~。」
玄関から声がする。 どうやら、クーが買い物を終えて帰って来たようだ。
私は、椅子から立ち上がる。
台所で、買い物してきた食材を整理しているクーに近づくと、無言のままクーを後ろから抱きしめた。




