第4話
クーとゲオルグと私、3人揃って王都の冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入ると、そこかしこからの視線を感じる。
「おい。 ありゃあ、チーム『月光』じゃないか?。」
「ああ、そうだな。 1年ぶりくらいか?」
「『伸腕』ちゃん、大人になったなー。」
「おー、伸腕ちゃん・・・彼氏できちゃったかな・・・?」
「『姫』さまも、相変わらずお美しいな。」
「姫さまは、全然変わらないな。 相も変わらず近寄るなって雰囲気が・・・」
「姫さまたち、まだあのヒョロおやじと一緒かよ・・・」
なんて声が聞こえる。
王都ではそんなに長い間活動している訳ではなく、たまに訪れた際にチョコチョコとクエストをこなしているだけだが、王都近郊の魔獣討伐クエストなどで、同行したことのある連中も少なからずはいる。
しかし、何と言ってもクーの容姿や人柄、そして代名詞とも言える『遠当て』は、見た者に強烈な印象を与えるのだろう。
最早クーの遠当ては、腕が伸びるとか言った次元の話ではないのだから。
それに加えて、私もいるしね。 私『姫』だし。
冒険者たちの視線を嫌と言う程感じているゲオルグは、クーを目当てに近づいてくる輩がいないか、周囲を警戒しながら、クーを守るように移動している。
(コイツはコイツで、相も変わらずクーだけを心配か・・・おーい、ゲオルグ。 私も野蛮な冒険者に狙われているかもしれませんよ~?)
心の中だけで、そんな事を呟いてみるが、私が人間程度に後れを取るなんて思わないし、ゲオルグもそう思っているのだろう。
クーだって、今では相当強くなっているから、力づくでクーにどうこう出来るヤツは、そうはいないでしょうに。 全く・・・おじちゃんは、姪っ子の事になると過保護なんだから。
そんな状況の中、クーは一直線に顔見知りのギルド嬢の元に向かって行った。 確か、ジェーンとかいう名前だったはずだ。
「こんにちは。」
「あらクーさん? お久しぶりです。 また一段とキレいになったわね。」
「えへへ、お世辞でも嬉しいです。 シェリーさんも相変わらずステキです。」
(ありゃ、シェリーだったか・・・)
「ありがと。 今日はどういったご用件かしら?」
「治癒士のフィロミィナさんが、今どちらにいらっしゃるかご存じないですか?」
「え? 『発火点』に何か用なの?」
「はい!? 発火点??」
「あら? クーさんは、ご存じなかったですか? フィロミィナさんに付けられた2つ名ですよ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ姉さん。 フィロミィナさんの2つ名? 発火点ってなんだよ?」
「あなたは・・・グレンさんでしたか? 発火点は・・・そうですね。 なんというか・・・フィロミィナさんの所属するパーティが、次々と解散してしまうって話で、そこから付いたみたいなんですけど・・・」
「そんなヒドい2つ名が・・・フィロミィナさん、とっても良い人なのに。」
「そうなんですよね。 それでも、彼女はなんとかしようと頑張っていましたし、パーティ加入の要望もしばらくはあったのですが・・・」
「で、フィロミィナさんは、どうなったんだ?」
「ここ最近は、見かけなくなりましたね。 恐らく王都からは去ってしまったものと思います。」
「なんてこった・・・」
「フィロミィナさん・・・可哀そう・・・」
「クー、グレンも・・・いないのなら仕方ないでしょ?」
「まあ、そうだな。 残念だけど、王都にいないんじゃどうしようもないか。」
「はい・・・フィロミィナさん、良いパーティに巡り合えていると良いんですけど。」
その後は、掲示板に貼りだされているクエストを覗いてみるが、大したものは見つけられなかったので、今日はクエストを請けずにホームに戻ろうという事になる。
私たちが、ギルドを後にするため、出入り口から出ようと扉を押したところ、ちょうど入れ替わるようにギルドに入って来ようとする2人組がいた。
普通は出る方が優先されるのだから、私が避ける道理は無いのだけど、無学で野蛮な冒険者に常識を説いても仕方が無いと思い、2人組に道を譲る。
「おう、お前が道を譲るなんて、珍しいじゃねぇか。」
私とすれ違いざまに、頭上から降り注いで来た女の声にムカついて、顔を上げる。
思い切りニラみつけてやろうかと見上げた先には・・・
「エルザ?」
「おう、カメリア。 少し遅くなっちまった。 寂しがらせて悪いな。」
「何言ってんのよ。 寂しい訳なんてないでしょ?」
「エルザさん。」
「よお、クー。 また立派になったなぁ・・・エルザお姉ちゃんは嬉しいぜ。」
「クー。 元気そうでなによりだ。」
「パトリックさんも。」
「おう、エルザ、パトリック、遅かったじゃねえかよ。」
「ゲオルグ、お前また痩せたか? カメリアの我儘放題に付き合わせて悪かったな。」
「そう思うんなら、割り振りを考えてくれよ。 まあ、実際はもう慣れちまったけどな。」
「アンタら、何言ってんのよ。」
「お前は変わらないな。 初めて会った時から、殆ど成長していないんじゃないか?」
「あのねぇ・・・私、もうすぐ20才なのよ? 1月や2月でそんなに変わるもんですか。」
「そうかよ。 まあ、積もる話は後だな。 とりあえず、ホームに行こうぜ。」
「じゃあ、私は夕食用の買い物をして帰りますので、皆さんは先に戻っていてください。」
「おうクー、いつも悪いな。 パトリック、お前はクーについて行って、荷物持ってやれよ。 ゲオルグとカメリアは、アタシと一足先にホームに行こうぜ。」
私はクーと一緒に買い物へ行きたかったのだけれど、エルザがわざわざこのように割り振ったのには、何か理由があるのだろうと思い、エルザに従うことにした。
王都での暫定ホームに到着する。
私たち3人はテーブルに着き、エルザの淹れてくれたコーヒーをすすりつつ、エルザの話を待っていた。
「で、どうだったんだ? 何か掴めたか?」
「いや、今回俺たちはブルグマンシアとは直接やり合ってはいないんだよな。 話しはいくつか聞いたけどよ。」
「そうね。 ロアー・リブ市の近郊でブルグマンシアに襲われた一団がいたって話とかは聞いたけどね。 その時に捕えられたヤツは、王都に移送されたって聞いたわよ。」
「そうかい。 やっぱり、第9国内での活動がまた始まったみたいだな。」
「そうだ。 ロアー・リブの武器屋で、気に入った鍛冶師の造った短刀を入手してね。 アンタとパトリックにも使って欲しいと思って買っておいたのよ。 はい、コレ。」
エルザの前に革製の鞘に入った2本の短刀を置く。
「へぇ・・・ナニこれ、アタシらにくれるのかい?」
「そうよ。 パトリックにも渡して頂戴。」
「えっ!? くれるの? カメリアが? タダで!?」
「アンタもそんな反応なのね。」
「そりゃあ、今までの経験から、そう言う反応になるのは仕方ないだろう?」
「これは、私の故郷の短刀なの。 純粋に故郷のものって訳では無くて、その技術を学んだ鍛冶師が、この国で造ったものだと思うけど。」
「へ、へぇ~。 なんて鍛冶師なんだい?」
「クロエっていう名前みたいね。」
「へぇ~。 確かにこの国の人間みたいだな。 ・・・??」
「どうした、エルザ?」
「いや・・・クロエ? なんかワリと最近そんな名前を聞いたような気が・・・?」
「そうなの? この国じゃあ、珍しくはない名前なんでしょう?」
「ま、そうだな。 学校なら、1学年に1人2人はいるような名前だな。 んで、その短刀はそんなに良い物なのかい?」
「いや、これがな・・・俺もカメリアから同じ鍛冶師のショートソードを貰ったんだけどよ、スゲーぞ。 切れ味も耐久性も同じような鉄剣の比じゃねえぜ。 クーのカタナに至っては黒鉄鉱製ってのもあって、更にすげぇんだ。」
「そうなのか。 じゃ、有難く頂戴するぜ。 あんがとな、カメリア。」
「んで、アンタらは? 随分と遅かったじゃないのよ。」
「ああ、悪いな。 アタシは、王都に滞在しているホーリーオーダーと会っていたんだよ。」
「なんだって!?」「なんですって!?」
「え!? そんな驚く? 前に言っただろう? 王都とアローストリングのホーリーオーダーとは連絡を付けられるようになったって・・・あれ? 言ったよな??」
「確かに、それは前に聞いたけど・・・何処にいるのよ!?」
「アジトは分からん。 とある店に伝言を頼むんだよ。 そうすっと、そこから連絡が繋がるようになっているらしいぜ。 それも何段階か順番を踏んでいくようだ。」
「へぇ・・・中々に用心深いけどな。 それでも、盗賊ギルドにまでバレずに隠れていられるってのは凄いな。」
「そうなの?」
「間に人が入れば入るほど、その内の何処からか情報が洩れる可能性は上がるだろう?」
「それもそっか・・・」
「ホーリーオーダーから、盗賊ギルドに圧力がかかっているんじゃねえの?」
「その可能性は・・・十分にあるな。 盗賊ギルドだってホーリーオーダーとは事を構えたくないだろうしな。 出来れば関わりたくは無いってのが本音だろう。」
「それで、ホーリーオーダーとはどんな話をしたのよ。」
「ブルグマンシアの拠点攻略に参加させてくれるらしいぜ?」
「本当に!?」
「ああ、単なる数合わせなのかもしれないけどな。 今までアタシたちが落として来た末端の拠点みたいなのじゃなくって、もっとランクが上の・・・サウス=カプリコの時みたいな場所のようなんだがね。 どうする? もちろん行くだろう?」
「当然行くわよ。 拠点攻略ってことは、ホーリーオーダーも何人かは出て来るんでしょう? サウス=カプリコの時は、結構大人数がいたわよね。」
「そうだな。 規模にもよるが、1人や2人ってことはないだろうな。」
「で、クーを遠ざけた理由はなんなのよ?」
「流石に分かるか。」
「ええ。」
「まあ、クーにも伝えるつもりではあるんだがな。 先にお前らに話しておこうかと思ってよ。」
「早く言いなさいよ。 クー、戻って来るわよ。」
「パトリックには、しばらく時間を潰してこいって言ってあるから、まだ時間には余裕はあるはずだぜ。」
「そうなの?」
「まあ、だからと言って引き延ばすつもりはないぜ。」
「じゃあ、話してよ。」
「おう。 これは、ホーリーオーダーから得た情報を基に・・・若干はアタシの考えも入ってはいるんだがね。」
「・・・・・」
「先に結論を言うとだな・・・やはり、ウルススとブルグマンシアには繋がりがありそうなんだよな。」
「そう・・・」
私は、先日ロアー・リブ市で出会ったばかりのウルスス家の娘マイアの顔を思い出した。 恐らくは、ゲオルグも同じだったのではないだろうか?
正直言って、マイアに関してはそれほど悪い印象はない。 しかし、ウルススとブルグマンシアが繋がっているのだとしたら・・・ウルススと事を構えることになった時、マイアが現れたら・・・そんな事が頭をよぎる。
だが、私の結論は初めから出ている。 私の最優先はクーに決まっているのだから。
私の一瞬の迷いなど知る由もないエルザは、長い前置きから話始めた。




