第2話
クーの成人祝いの食事会が無事に終わり、いよいよマイアとの別れ時が来る。
「それじゃあマイア、元気でね。 もう会うことはないとは思うけど・・・私との約束、忘れないでね。」
「クーニャ、私は最後だなんて思っていないゾ。 必ずウルススの疑惑を晴らして、お前に伝えに行くゾ。 もちろん、約束は守るんだゾ。」
「うん、そうなると良いね。 それじゃあゲオルグさん、マイアのことちゃんと送り届けてくださいね。」
「おう、任せとけって。 じゃあマイア、行こうぜ。」
「はい、ゲオルグさん。 それじゃあ、またな。 クーニャ、ツキさんも。」
マイアは、何度も振り返って私とクーに手を振っていた。
「行っちゃいましたね。」
「そうだね。」
「マイア・・・大丈夫かなぁ。 無理をしないと良いけど。」
「まあ、こればっかりは本人次第だよね。」
「私たち、明日からはどうするんでしょう?」
「ゲオルグの成果次第だけど・・・」
「そうですね。 じゃ、私たちも帰りましょうか?」
「そうだね。 私とクーの愛の巣に帰ろうか。」
「もー。 またそういういやらしい言い方をする・・・」
私とクーが家に戻った後、しばらくするとゲオルグが帰って来た。
「お帰りなさい、ゲオルグさん。 マイアは?」
「ちゃんと宿に送ったから、大丈夫だゾ。」
「ありがとうございます、ゲオルグさん。 なんか、マイアみたいな喋り方になっていますよ?」
「そうか? こーいっちゃあ何だけど、マイアちゃん・・・裏表のない・・・結構いい子だよな。」
「ええ、私の姉妹ですから。」
「で、ゲオルグ。 昨日は聞けなかったけど、何か情報はあったのかしら?」
「ああ。 10日位前に、王都からロアー・リブに向かっていた商隊が襲われたってことがあったようだぜ。」
「ブルグマンシアと関係あるの?」
「その時に捕えられた賊の中に、ブルグマンシアの彫り物をしていたヤツがいたそうだ。」
「そうなの? 商隊を襲ったって・・・強盗じゃないのよ。」
「活動資金調達が目当てだったのかも知れないけどな。 その商隊は、ロアー・リブに働きに来た女性たちを乗せていたんだってよ。」
「じゃあ、その女性を狙ってでしょうかね?」
「そうなんじゃないか?」
「攫われた人はどの位いるんですか?」
「いや。 なんでも、商隊の護衛についていた冒険者はけちょんけちょんにやられたらしいんだが、別の冒険者パーティが助太刀して、攫われた人間はいなかったそうだ。」
「へぇ・・・で、やっぱりブルグマンシアのヤツらは、毒で死んじゃったって訳?」
「いや、それがな? その時に捕えられたヤツらは、例の首輪をしていなかったようだぜ。」
「あら? そうなの?」
「じゃあ、あの首輪は最近出始めたものなんですね、やっぱり・・・前は無かったですものね。」
「だな。 現在、順次配備中ってことじゃないか? ま、すぐに行き渡るだろうけどな。」
「ですね。」
「やっぱり、クーの十六夜月は、今後も重要になって来るかもね。」
「頑張ります。 でも、ツキ姉にだって解毒の魔法はあるじゃないですか。」
「まあね。 でも、私は対処しかできないけど、クーなら先手を打てるじゃない?」
「う、うん。 だけど、そんなに何回も連続では使えないよ。」
「おい、お前ら・・・いちゃつくのは後にしてくれよ。」
「あ? え? すみませんゲオルグさん。」
「で、どうするの?」
「そうだな~。 2~3日ギルドのクエストを見てみて、それっぽいクエストがあれば請けて・・・なければ、王都行きの護衛クエストをやろうぜ。 エルザたちとは、王都合流だしな。」
「そうね。 そんな所かしらね。」
「あの・・・ゲオルグさん? 先ほどの話のブルグマンシアですけど・・・ロアー・リブで捕らえられているんですか?」
「いや・・・連中は、ひと通りの取り調べの後、王都に送られたようだぞ。」
「そうですか。 じゃあ、会うことはできないんですね。」
「そうだな。 ま、ここの牢屋にいたとしても会えないんじゃないか?」
「それは・・・そうかもですね。」
翌日
ギルドに向かうため、家を出ようとしていた時
「そうだ! すっかり忘れていたわ。 ちょっと待っていてもらえるかしら?」
私は、忘れていたモノを取りに、慌てて2階へ上がる。
「なんだ? カメリアが忘れ物って珍しいな。」
「そうですね。」
「そう言えば、クー。 お前、剣を新調したのか? って、それ・・・」
「はい、カタナです。 ツキ姉から成人祝いとしていただきました。」
「へぇ・・・これがカタナってヤツか? カメリアの兄貴が持っているっていうのとおんなじかよ・・・刃を見せて貰ってもいいか?」
「はい。 どうぞ。」
クーは、カタナを鞘から引き抜くと、ゲオルグに手渡す。
カタナを持ったゲオルグは・・・
「おおー。 すげぇな・・・良く斬れそうだぜ。 見た目よりも重いが・・・この色、黒鉄鉱か?」
「はい。 ツキ姉の話だと、黒鉄鉱を鍛えて造った黒鋼っていうらしいです。 一昨日買ってもらって、ギルドで振ってみましたけど、凄く良いです。 今までのサーベルよりも重たいですが、心地よい重さです。」
「はぁ~。 やっぱり、カメリアのお前への愛は本物だなぁ・・・」
「そうなんですか? もちろん、とっても高価だったってのは分かっていますけど。」
「黒鉄鉱製って、同じくらいの大きさの鉄剣と比べたら、値段は軽く5倍以上はするんだぜ。 斬れ味も耐久力も段違いだしな。」
「そんなに高価なものなんですか!?」
「まあ、素材の値段だけでって感じだがな。 剣にするのにも技術が必要だって聞くから、実際はもっと高いんじゃないか?」
「ええ!? そんなにですか?」
「お待たせしたわね。 ほい、コレをあんたにあげるわ。 気に入ってもらえたら嬉しいわね。」
ゲオルグに例のショートソードを渡すと、ゲオルグは固まってしまったかのように、受け取ったばかりのショートソードを見つめている。
そして・・・
「え? コレを俺にくれるのか? カメリアが? タダで!?」
「何よ。 文句あるの?」
「いやぁ~、そうだよな。 タダってことはないよな。」
「お金はいらないわよ。 今まで何度もクーを助けてくれたお礼とでも思っておきなさい。」
「マジでか!? 本当にタダで??」
「しつこいわね。 あとタダ、タダってうるさい。」
「悪りぃ。 ショートソードか、俺もそろそろ買い替えを考えてなくはなかったが・・・って、この刃! クーのカタナに似ているな!?」
「さすがね。 クーの刀と製作者が同じなのよ。 この国のショートソードって言うより、カタナをショートソードの形にしたって感じかしらね。」
「良いのか? 本当に貰って。」
「ええ。 クーの刀と違って一般的な鋼製だけど、この鍛冶師ならそこいらの剣よりも良いものになっていると思うわよ。」
「そうか、ありがとうな。 使わせてもらうよ。」
「ゲオルグさんも、きっと気に入りますよ。」
「それじゃあ、さっさとギルドに向かいましょうか。」
「おうっ!」
「はいっ!!」
3人揃って、ギルドに向かうも、クエスト掲示板にはブルグマンシア関連や、それ以外でもすぐにできそうなクエストはなかった。
「どうする?」
「そうだなぁ・・・王都行きの護衛クエストは・・・明後日出発ってのがあるな。 それにするか?」
「私は、それで構いません。」
「じゃあ、それにしましょうか? 今日と明日は、美味しいお魚料理を堪能しよう。」
「あ、それは良いかもな。 俺も連れて行ってくれんだろ?」
私たちは、2日後に出発する王都までの商隊護衛クエストを請けてから、お魚料理を求めて街に向かった。
お昼を3人で食べた後、私は刀を振りたいと言うクーに付き合って、再びギルドに戻る。
ゲオルグは、武器屋に行くと言って1人別れて行った。
なんでも、私があげたショートソード用の鞘を見つけに行くんだそうだ。
今使っている剣の鞘でも代用できたらしいけど、せっかくなので、ピッタリの鞘が欲しくなったんだって。
喜んでもらえているようで、私も嬉しいよ。
ギルドの後は、食料の買い出しだ。
クエスト出発までの間の食材と、干し肉などの保存の効く携帯食。
後は、最近クーが編み出した、携帯用のスープの素を作るための食材だ。
これは、私が教えた出汁の話にインスピレーションを得たクーが、試行錯誤して作ったものだ。
まずは、肉を削いだ後の動物の骨なんかとお野菜などを、味を付けて煮込む。 煮込んで食材のエキスをたっぷり含んだスープを水分が飛ぶくらいまで煮込み抜く。 そして、残ったものを小さく固めた上で、さらに水分だけを完全に飛ばす。
そうしてできた、小さな固形物をお湯でもどすと、出汁の効いたスープになるのだ。 そのままでも十分に美味しいし、さらにお肉やお野菜を加えて煮るともっとおいしい。
上手く量産できれば、商売にもなるんじゃないかと思う位だ。
まあ、クエスト中は水場がないと難しいかもしんないけど、私なら清水を生成できるから問題ない。
そんな事をしながら、最後とばかりに生魚料理を堪能している内に、あっという間に出発の日を迎える。
私たちが、護衛を行うのは馬車2台の小規模な商隊だった。
私たちも自前の幌馬車があるので、馬車3台の隊列だ。
雇われた冒険者は私たちだけだったが、まあ、問題はないだろう。
小さくなっていくロアー・リブ市を見ながら、私は少し物思いにふける。
(今回は、ちょっと色んなことがあったかなぁ・・・クーの成人に加えて、刀との出会い。 それに、何と言っても、憎きウルスス家の娘、マイアとの出会いと別れ・・・マイアは、王都に住んでいるって言ってたっけ? 王都でバッタリ・・・なんてこともあったりして・・・)
そんな事を考えていると
「王都に行くのも久しぶりですね。」
「そうね。 1年・・・までは行かないかな? でも、久しぶりだよね。」
「フィロミィナさん、覚えていますか?」
「ええ、美人妖魔族治癒士ね。 覚えているわよ。」
「フィロミィナさん、まだ王都にいるかなぁ? また会えるといいんだけど。」
「前に王都に寄った時には会えなかったものね。 相変わらずパーティが安定しないって話は聞いたけど・・・」
「そうでしたね。 あんなに素敵な人なのに、どうしてなんだろう?」
「フィロミィナは、とっても感じの良い人に思えたけど、彼女の入るパーティが、それだけ揉め事ばかり起こるとなると・・・やっぱり、彼女自身に問題があったりするのかもね?」
「フィロミィナさんの話か?」
「ゲオルグ・・・」
「もし、フィロミィナさんに会えて、パーティが決まらないって話があったら、また誘ってみようぜ。」
「前に断られたでしょう?」
「今は違うかもしれないだろう?」
「アンタ・・・相変わらず、エラくあの治癒士のこと気に入っているのね。」
「おうよ。 俺は、彼女のファンだからな。」
「ゲオルグさ~ん。」
「もちろん、クーの方が大事だぜ。」
「ホントかなぁ~?」
「ちょっと、護衛クエスト中なんだからね。 周囲の監視、しっかりやりなさいよ。」
「分かってるって。 しかし、王都か・・・ちょっと楽しみになってきたぜ。」
いつになくゲオルグのテンションが高い。
フィロミィナと旅をしたのは、2年近く前なんだけど・・・前と同じ・・・いや、前以上にゲオルグのフィロミィナに対する好感度が上昇しているように感じるのは・・・気のせいか?
そんな、ゲオルグの浮かれっぷりに危惧を感じていたが、旅は順調に進み、7日後には無事王都サジタリアの城門をくぐったのだった。




