第13話
およそ半年ぶりに訪れたロアー・リブ市で、前回訪問時に私が刀などを卸した「千年武器店」に、フィロミィナと一緒に赴いた。
以前に訪れた際に納品した、私の武器たちの売れ行きを確認するためだ。
店先で、店主の老ドワーフに挨拶をしたのだが、どうも店主は私のことを覚えていないようだった。
「以前お会いしたことがあったかのう~?」
「はい。 半年ほど前に1度だけですが。 刀とショートソードなんかを買っていただきました。」
「カタナ! ああ、あの時のお嬢さんかい? 覚えているとも!!」
「良かったです。 私の納品した武器って、いくつかは売れたでしょうか?」
「おお、嬢ちゃんが持ってきたものは、かなり早くに売れたぞ。 えーっと、帳簿を確認して見てみるから、中にお入り。」
「ありがとうございます。」
「そっちの別嬪さんも、どうぞ中へ。」
「店主さん、ありがとうございます。 それではお言葉に甘えて。」
店内に入り、店主の勧めるままイスに腰掛ける。
店主は、そのまま奥に引っ込んでしまったが、やがてお茶とお菓子、そして帳簿らしきものを持って現れた。
帳簿を眺める店主と、カウンターを挟んで座っている格好だ。
店主が帳簿を眺めている間、私とフィロミィナは、お茶をすすりつつ、一緒に出て来た茶菓子をいただく。
「おお、あったあった・・・」
「どんな感じでしょうか・・・?」
「嬢ちゃんが来た日から・・・1週間でショートソードが3本売れているな。 買ったのはこの街の冒険者だな。 そう言えば、後になって残りのショートソードを求めに来ていたのがいたなぁ。」
「へ、へぇ~。 それは、私の武器が気に入ってもらえたってことですかね?」
「そうだろうな。 だけど、その時には全部売れてしまった後でのう・・・」
「え? 本当ですか?」
「そうそう・・・確か、そのすぐ後に・・・あったあった。 そうだった、思い出して来たぞ。」
(ドキドキ・・・)
「嬢ちゃんたちが来た10日ほど後じゃな。 若いお嬢さん2人が来店してな。 この街の冒険者ではなかったようだが。」
「ほ、ほう・・・」
「嬢ちゃんは、ホレ。 確か、可愛らしいトラのお嬢さんと2人で来たじゃろう?」
「はい、その通りです。」
「その来店した2人と言うのも、人族とトラの獣人族のお嬢さんでな。」
「へぇ~。」
「そうだそうだ・・・思い出して来たわい。 しかも人族のお嬢さんは、カタナのことに妙に詳しくてのぅ・・・始めは短刀を2本とも買うと言っておってな、他にも同じ製作者の武器が無いかと言うので、1本残っていたショートソードを教えたところ、それも買うと言ってのぅ。」
「へ、へぇ~。」
「カタナに詳しくて、若いお嬢さんの2人連れ・・・しかも、人族とトラ獣人族の組み合わせだったじゃろう? もうこれは運命では無いかと思ってな。」
「確かに・・・もの凄い偶然の一致ですね。」
「わしは、あのカタナを大層気に入っておったのでな、そう簡単には手放すつもりはは無かったので、店頭には出しておらんかったんじゃが、嬢ちゃんとの約束もあったことだし、売るとしたらそのお嬢さんしかいないと思っての。 カタナを見せたんじゃよ。」
「・・・・・」
「そうしたところ、1も2もなく買うと言ってくれてのう。 結局、在庫にあったカタナ、短刀2本、ショートソードと全て買って行ったのじゃ。」
「クロエの造った剣って凄いんですね?」
「いやぁ~・・・でも、そんなに気に入ってくれた人がいたのなら嬉しいですねぇ。 そのまとめ買いをした人って、どんな感じの方だったのですか?」
「そうじゃのう・・・トラ獣人の娘は、剣士じゃったと思う。 確か、その娘の剣が欲しいって言っておったからのう。 背は嬢ちゃんよりも高くて、キレイな金髪の娘じゃった。」
「へぇ~。」
「人族の方は、フードを被っておったが、とても上品で美しい感じだったと思う。 白い肌で銀髪・・・いや、白髪かの? それに赤い目をした魔法士風じゃったな。 こっちのお嬢さんがカタナに・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい店主さん!! 白髪で赤い目の女性魔法士ですか!?」
「あ、ああ・・・そうじゃったと思うが・・・」
「そんな・・・まさか・・・」
「その2人って・・・?」
「て、店主さん・・・他に何か・・・例えば名前とか・・・何か覚えていませんか?」
「名前は・・・スマンのう。 ただ、トラ娘が人族の方を『なんとか姉』って呼んでいたような気がするのぅ。 本物の姉妹ではないじゃろうから、義兄弟みたいなものかのぅ。」
「そ、そうですか・・・すみません、変な事を言ってしまって。」
「いや、気にするでないぞ。」
「はい、すみません。 フィロミィナ、どうかしたの?」
「あ、えーっと・・・なんでもありません。」
「あ、そうだ。 今回は、ダガーなんですけど、3本だけですが用意してきたんです。 よければまた置いていただけますか?」
「どれどれ・・・おお・・・相変わらず、見事な刃じゃな。 3本とも譲ってくれるのかい?」
「はい、店主さんさえよろしければ、ぜひお願いします。」
「ありがとう。 では、3本とも引き取らせてもらうよ。」
「ありがとうございます。」
無事にダガーを買い取ってもらえたため、店主に挨拶をして店を出る。
私は、お店から少し歩いたところで、先ほど店主から聞いた話を再度思い返していた。
「クロエ。」
「あ? ごめんなさい。 ちょっと考え事を・・・どうかしたの?」
「いえ、先ほどの店主さんの話なんですけど・・・」
「そう言えば、さっきの話の最中、フィロミィナも変な感じだったよね?」
「その・・・クロエの武器を買ったって言う2人なんですが、クロエの知り合いとかですか?」
「知り合いかどうかは、分からないのですが・・・フィロミィナには話していなかったけど、私には探している人がいるんです。」
「それが、白髪赤目の人族の方ですか?」
「ええ・・・私の姉なんですが、姉は白髪赤目で、魔法の天才だったんです。」
「なるほど。」
「私は『氷嵐の魔女』って2つ名で呼ばれている人が、姉じゃないかと思って探していたんですが、さっきの店主さんの話を聞いて・・・外見の特徴も合っていて、しかも刀のことを知っているなんて、もしかしたらその人が姉なのかもって思ってしまったんです。 ちょっと偶然が過ぎるようにも思うんですけど・・・」
「もう2年以上前なんですが、私が王都にいた時に、一度だけクエストをご一緒した方で、先ほどの話の女性2人と、特徴がピッタリ一致する方がいらしたんです。 もっとも、その方たちは男性1人を加えた3人組で、パーティ名は『月光』だったかな?」
「もっと聞かせてもらえますか?」
「ええ、と言ってもそんなに詳しくは知りませんけど。 白髪赤目の魔法士さんは、線の細い大層お綺麗な方で、もの凄く強力な攻撃魔法を使える上に、私以上の回復魔法まで使いこなす方でした。 体力はあまり無かったようですけど。」
「・・・・・」
「もう1人のトラ獣人さんは『クー』さんと言うお名前でした。 かなり若い方だと思いますが『伸腕』という2つ名で呼ばれていました。 なんでも、クーさんは届くはずのない場所斬るって話で・・・」
「それって・・・」
「はい。 先日の猫田のような技を使うんでしょうかね? クーさんは、白髪のお姉さんよりも背が高くて・・・サーベルって言うんですか? 片刃の剣を武器に戦う剣士さんでした。 これも、猫田の刀と似ていますよね。 とってもやさしい方で・・・ちょうどカワイイからキレイに変わりつつある年頃でしたねぇ。」
「クーさん・・・? 白髪の方の名前って覚えていますか?」
「いえ・・・『白銀姫』という2つ名で呼ばれていて・・・あ、そうだ! クーさんからは『リア姉』と呼ばれていたので、私もリアさんとお呼びしていました。」
「白銀姫・・・リア・・・姉・・・?」
「クロエのお姉さんでしょうか?」
「いえ、私の姉の名前は『ツバキ』なんです。」
「そうでしたか・・・氷嵐の魔女って言うのはどんな方ですか?」
「はい。 名前は『カメリア』。 青髪に赤目で、同じように強力な攻撃魔法に加え、治癒士も驚く程高位の回復魔法も使うそうです。 『深紅』っていうパーティに所属していて、何年か前にはアローヘッド市で活動していたそうです。 カメリアだから『リア姉』ってクーさんが呼んでいた可能性は・・・あるかも知れないですね。 あ、でも深紅は4人パーティだったんだっけ?」
「カメリアは花の名前ですね。 確か外国から入って来た、寒い時期に咲く花でしたか。」
「そうなんですか? 寒い時期に咲く花・・・今度、図書館で確認してみよう。」
昼前に冒険者ギルドに着くと、既にグスタフたちもミオたちも到着していた。
クエスト掲示板を確認して見たけれど、目を引くようなクエストは無かったとのことで、ロアー・リブ市ではクエストを行わずに、明日発つことにした。
ちなみに、グスタフたちの野暮用を聞いてみたところ、はっきりとは教えてくれなかったけど、知人に連絡を入れて来たのだそうだ。
翌日、まずは王都を目指して出発する。
今回の遠征は、ロアー・リブ市を目指すって話だったから、千年武器店に行こう・・・位にしか思っていなかったけど、色々な事がありすぎた旅になってしまった。
古代竜(?)からの謎の頂き物。
またしても出会ってしまった「ラッパとガイコツ」の犯罪集団。
姉かもしれない「白銀姫」「リア姉」の情報。 「氷嵐の魔女」との共通点も多いし、もしかしたら、どちらも同じ人なのかもしれない。
その姉かもしれない人と一緒にいたというトラ獣人「クー」さん。 彼女の2つ名「伸腕」とは「遠当て」か、それに近い技から付いたのではないだろうか? そうだとしたら、姉が手ほどきをしたのかもしれない。
クーと言う名前も、クーニャを彷彿とさせる。 背格好とかは、ミオとは似ていないけれど、それは私と姉も一緒だ。 ミオには・・・伝えない方が良いだろうか?
そう言えば、以前のロアー・リブ市からの帰り道で、死んだはずの兄「真鞘」と出会ったのだっけ?
なんだか「ロアー・リブ市」は、特別な何か・・・私の物語が動き出す切欠の街になってしまったと感じてしまった。
~第11章 クロエとミオ6 終わり~




