第10話
私たち「星夜の灯火」は、現在アローヘッド市を出発してから、3つ目の町に到着していた。
この町からさらに西に向かうと、1週間ちょっとでロアー・リブ市に着くらしい。
しかし、冒険者ギルドにて、行方不明者の捜索クエストが出ていたため、グスタフはそのクエストを請けることにしたのだ。
この前の町でも、グスタフは行方不明や誘拐事件を気にしていた様なので、この旅自体の目的がそれだったのではないかと感じた。
私たちが、以前ロアー・リブ市に向かった時に遭遇した強盗団(誘拐団?)のことを気にしているような感じもあったし、誘拐事件について、何か思う事があるのだろうか?
そう言えば、最初の漁村ではそうでも無かったけど、前の町でも、今の町でもフィロミィナは一躍有名人となっていた。
見目麗しく、スタイル抜群な上に、少し露出の多めの服装、さらにそこから覗く褐色の肌は、世の男性たちを虜にしてしまうらしい。
シンシアだって金髪色白美人(胸は無い)だし、ミオに至っては、可愛さにおいて右に出る者は無いはずであるが、シンシアの横にはグスタフが、ミオには猫田さんが常に傍らにいるため、フリーであるフィロミィナに注目が集まっているのだ。
私? 私は、3人に比べると、特に秀でたところが無いし(唯一、パーティ内での胸の大きさは1番だったのだが、フィロミィナの加入により、圧倒的大差をつけられて首位陥落した。)、顔だって特別作りが良い訳ではないので、モテないのだ。
それでも、最近は何回か声を掛けられたこともあったけど、私自身がどうもピンと来ない。
それはさておき、フィロミィナだ。
しばらく彼女を見ていて思ったのだが、言い寄って来る男性に対しては、全く興味がなさそうなのに、普段からの人当たりの良さや、意識していないであろう行動からか、男性をより勘違いさせることが得意なようだ。
フィロミィナ自身には、そう言った思惑が無い上に、さらに迷惑に思っているのがなんとも・・・といった感じだ。
「あの女・・・生まれついての毒女だナ。 あれ、本当にわざとやっている訳じゃないんだよナ?」
「ホントねぇ。 なんで、あんなに男が喜びそうな対応ができるのかしら。 天性の才能ってヤツね。 フィロモン(注:フィロミィナフェロモンの略語。 元々はミオの言い間違いから出た言葉だが、フィロミィナフェロモンの略称として定着した。)の有無にかかわらず、男を狂わせる術に長けているのよね。 そうでしょう、グスタフ?」
「お? おう。 何というか、言葉、仕草・・・すべてにおいて、男の喜ぶツボみたいなものを自然と身に付けていて、それを相手に合わせて的確に行っている感じだよな。 あれが故意じゃないってんだから、本当に天性の才能だな。 フィロモンに加えて持つ特殊能力なのかもしれねえな。」
「『支配の芳香』と『掌転がし』なんて名前はどうかしら?」
「シンシア、それは如何なものでしょうか・・・」
「そうなのかい?」
「おい、ネコタ。 お前はフィロミィナを見るんじゃないナ。」
「いや平気だよ。 自分には、ミオの方が十分魅力的に見えるよ?」
「お、おう。 それならいいけどナ。 ネコタもたまには良い事言うナ。」
「ありがとうミオ。」
猫田さんに頭を撫でられているミオの尻尾は、千切れてしまうのではないかと心配になるほどに、激しく振られていた。
「猫田さんは、フィロモンに耐性があるのかもしれませんね。」
「そう言うクロエもあるんじゃないかい? 耐性。 自分たちの中で、一番彼女と接しているのはキミじゃないかい?」
「そうかもしれませんね。 私と猫田さんで共通するのは・・・『気』でしょうか? 私も最初にフィロモンに気付いた時以降は、気を意識して回していますので。」
「ああー、気ね。 もしかしたら、気はフィロモンに対抗できる手段の1つだったりしてね。 そうなら大発見だ。」
「それはそうと、そろそろ行かない?」
「そうだな。」
「おーい、フィロミィナ!! クエストに出発するぞ!!」
「あ、はーい。 只今参ります~!!」
私たちは、この町のギルドで請けた、行方不明になっている獣人族の少女捜索に向かう。
少女は、町の北側にある森に山菜などを採りに向かってから戻っていないそうだ。
魔物に襲われてしまった可能性も大いにあるが、誘拐の線もあるだろう。 それか、純粋に遭難してしまったとか?
私たちは、しばらく踏み固められた道を進んでいたが、途中から道を外れて森の中に入って行った。
ミオが、道を外れて森に向かう複数の足跡を発見したためだ。
私もミオに、どこに足跡があるとかを教えて貰ったが、私には半分も見えなかった。 ミオに教えて貰えていなかったら、そもそも足跡があったことすら分からなかっただろう。
さすがはトラ種獣人だと、改めて感心した。
森をしばらく進んでいると、先頭にいたミオが突然立ち止まり、私たちにも歩くのを止めて身を隠す様に指示を出した。
3分も待たないうちに、前方の木々の間から人の声が聞こえる。 しかも複数人だ。
グスタフからの指示により少し開けた場所で、ミオとフィロミィナ、猫田さんの3人が立ち、シンシアは後方に隠れて待機。 私とグスタフは、それぞれ左右に分かれて身を潜めていた。
やがて、ミオたちが立つ開けた場所の前方の木々の間から、如何にもな雰囲気の男たちが現れた。
出て来たのは6人。 こちらと同様に、伏兵がいる可能性もあるけど、私にはその気配は感じられない。
こちらは男が1人だけとみて、人数を分けるよりも数が多く見えた方が良いとの考えだろう。 単に伏兵を配するとか、こちらに伏兵がいるとかを考えていないだけかもしれないけど。
「よう、兄ちゃん。 こんな所に女2人を連れ込んで何をするつもりだ?」
「え? キミたちには関係の無い事だろう?」
「何だと!? そんな美人を・・・って、マジでスゲー美人じゃねえかよ、妖魔族か?」
「獣人の方もかなりの上物だぜ!」
「おう、これはかなりの高値がつくぜ。 アジトに連れて行く前に、楽しませてもらわないとな。」
「よし、男は殺せ。 女は傷つけるんじゃねぇぞ。」
「「「「「おうっ!」」」」」
男たちは、猫田さんたちを取り囲むように移動していく。
私は、その男たちのリーダー格と思しき男の右腕に、ラッパとガイコツの彫り物を認めた。
(また、あの彫り物だ!! 誘拐組織の輩か!?)
私は、思わず飛び出しそうになるが、なんとか堪えて猫田さんたちの動向を伺う。
「はあ、全く・・・君たちのような輩は、どいつも皆同じような事を言うんだね。 正直言って、つまらないよ?」
「何だとっ? キサマっ!! おい、お前らっ! さっさと男を殺っちまえっ!!」
リーダー格の指示に反応し、猫田さんに近い3人が一斉に猫田さんに飛びかかる。
後ろで指示を出すリーダー格を除いた残り2名は、それぞれミオとフィロミィナに近づいて行く。
しかし、先ほどまで余裕たっぷりだったリーダー格の顔は、見る見る青ざめて行った。
猫田さんは、3人に飛びかかられても、顔色1つ変えずにフラフラと攻撃を躱しつつ、1人また1人と、槍の柄で相手を打ち倒していく。
ミオは、近づいてきた男に逆に飛びかかると、男の顔をバリバリと爪で引っ掻いた上、止めとばかりに後ろ蹴りを決める。
フィロミィナは、にこやかに微笑んでいたが、男が射程距離に入った途端にウォーハンマーで殴打し、一撃で男を沈めた。
慌てて逃げようとするリーダー格の男に対しては、グスタフも追いかけようとして飛び出したが、私の怪力の左手による投げナイフが両足に突き刺さり、倒れ込んで動けなくなった。
一応、6人とも死んではいなかったが、フィロミィナがある程度のケガ(フィロミィナに殴られた人が、一番の重傷者だ。)の治療は行う。 しかし、アジトまでの案内には6人も必要ない。
とりあえず、リーダー格の男と、一番下っ端風の男2名を案内人(捕虜)に選出し、残りの4人は、ここで待ってもらうことにした。
もちろん、ただで待っていてくれる訳は無いので、木に縛り付けて置くことにする。
猫田さんたちが、連中を拘束している間に、私はグスタフに話しかけた。
「ねえ、グスタフ。 あの腕の彫り物・・・以前に話した悪党の腕にあったものと同じだと思う・・・」
「ラッパとガイコツってヤツだな。 やはり、誘拐組織に関係あるんだろうな。」
「そうだと思うよ。」
4人の拘束が完了し、私たちは案内人を引っ立てアジトに向かう事にする。
木に縛られた4人に対しては、私たちが戻って来るまでに、狼とか危険な野獣が来ないように軽く祈ってあげた。
案内人の2人については、歩ける程度までには回復をしてあるが、完全に治療した訳ではないので、結構痛みはあるのだろう。
最初は、2人ともとぼけてアジトの場所を素直に示さなかった。
グスタフたちは、不本意ながらもちょっと痛くすることを提案したが、そこで手を挙げたのがフィロミィナだ。
彼女の真剣さとやさしさ、そしてフィロモンの効果により、2人の案内人はたちまちフィロミィナに心酔してしまい、その後は素直にアジトまで案内してくれた。
意識しないのに男を惑わす彼女が、男の目の前でやさしく懇願した場合に、どう言う結果になるかは、見るまでもないだろう。
間近で彼女の力を受けると、ものの数分で人の心は支配されてしまうのか!?
これは、彼女が本気になった場合には、例えパートナーがいる男性でも持ちこたえることは不可能に近いのではないか? と思わせるに十分だった。
それを横で見ていたグスタフと猫田さんは、より一層気持ちを引き締めたに違いない。
フィロミィナに、やさしく諭された案内人の案内により、20分もしないうちにアジトだと言う洞窟が見えて来た。
アジトには、誘拐犯の仲間が10名程度、攫って来た女性たちが、7~8名捕らえられているのだと言う。
案内人から、アジトの内部構造や人の配置の情報を吐き出させて、いざ、救出作戦の開始だ。




